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【自治体職員は首長にどう向き合うべき?】王様の耳を語れ

    【自治体職員は首長にどう向き合うべき?】王様の耳を語れ

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    我らはまちのエバンジェリスト #8(福岡市 職員・今村 寛)

    民意で選ばれし者と、そうではない者―。自治体を運営する役所組織のトップである首長と自治体職員の間には“選挙の洗礼”という厳然たる一線があります。今回は、市民からは見えない自治体運営の実情を知り抜く“中のひと”である自治体職員は首長とどう向き合うべきか、について考えます。

    王様の耳はロバの耳?

    これまで財政運営をはじめとする自治体経営における「対話」の重要性を幾度となく説いてきましたが、我々自治体職員がいくら頑張ったところで首長が変わらなければ何も変わらないという話を時々耳にします。

    ある時は広く住民の声を聴かず、自分に近く声高な一部の支持者からの求めに対応して動く独善。
    またある時は、職員の進言を聴かず、自らの価値観に基づきパワハラまがいの上意下達で組織を動かす専横。
    またある時は、将来の財政負担を顧みず、現在の市民に受けの良い施策事業ばかりを打ち上げる身勝手な刹那主義に辟易とし、いつか訪れる首長引退の時を密かに待っている自治体職員はきっと少なくはないでしょう(私がそうだというわけではありません笑)。

    選挙で選ばれたのだから我こそが民意だという主張は全くの誤りではないにせよ、その一挙手一投足がすべて民意の信託に基づくものか、手掛ける施策事業や組織運営が市民の真に求めるものかどうかは、自治体運営の節目節目で市民からチェックされなければなりません

    しかし、残念ながらそのチェックは不十分と言わざるを得ず、結果として統治能力に疑義のある首長が「危険な」自治体運営を行っている事例が散見されます。

    自治体の首長は大統領のようなもの。

    選挙で選ばれたのちに統治者として与えられる権限は絶大であり、それは合議体の構成員である議員とは比較になりません。

    「王様の耳はロバの耳」だと知っていても組織の中からは誰も言い出せません。

    自治体経営の最上位に君臨するリーダーに求められる適性を欠いた者を選んでしまうリスクにどう抗えばいいのでしょうか。

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    こんなカードが来たら、どうする!?

    もっと美味しい料理が作れるはず

    そもそも、これらの統治能力を十分に備えていない(と我々自治体職員が感じている)首長が自治体運営を担っているということについて、有権者である市民はどのくらいそのことを知り、理解し、その現状を肯定しているのでしょうか。

    残念ながらその事実は市民には十分に知られていません。

    選挙の投票率が低いのは市民が政治に無関心だからという人がいますが、市民が政治に関心を持たないのはそれなりの水準の行政サービスが提供されている現状に特に不満がないからとも考えられます。

    各種の法令に定められたルールや役割分担の下で日々誠実に事務をこなす真面目な自治体職員の奮闘のおかげで、自治体の遂行する事務はおおむね市民が求める適切な水準を維持しており、市民はその不具合を意識することがないということなのです。

    このため、万が一「統治能力を十分に備えていない首長」を選んでしまったとしても、今の自治体運営に市民が満足ならそれでいいじゃないか、政治は結果がすべてだという意見もあるかもしれません。

    しかしそれはたとえて言うなら、出された料理が美味しければその食材がどこで調達されたどういう素性のものかわからなくてもいいというようなものです。

    あるいは出された料理がそんなに美味しくなくても、ムラで一軒しかない料理店なのだからほかに選択肢がないという諦めかもしれません。

    もっといい食材を使ったら、もっといいシェフが厨房に立ったなら、もっと美味しい料理が味わえるのにその楽しみを知らずに放棄しているということを、実は多くの市民は知らないのです。

    市民がもっと美味しい料理を楽しむ、すなわちもっと良い自治体運営の果実を享受するために、私たち自治体職員は「中の人」だからこそ知っている食材の不備、シェフの技量不足について「こうすればもっと美味しい料理がつくれる」と政治的な意図を持たずに役所の外で語ることについて、もう少し勇気をもって踏み出すべきではないでしょうか。

    しかし、私たちがそこでまったく口を閉ざすことで、市民がより良い自治体経営を享受することができないということは、私たちが公務員として課せられている全体の奉仕者としての義務、自治体が果たすべき市民福祉の向上という使命を果たすうえで乗り越えるべき課題なのではないかと思うのです。

    選挙で選ばれていなくても

    私たち公務員が「王様の耳」を語るにあたり、選挙で選ばれたわけでもないのに、選挙で選ばれている首長に異を唱えてよいのか、という疑問がわいてきます。

    有権者は選挙で何もかも首長に白紙委任したわけではありません。

    首長に自治体運営のかじ取りを任せたものの、その権限行使にあたっては市民が選んだ議会のチェックを受け、あるいは市民が直接監視し、次の選挙での投票行動の参考とすることになっています。

    たとえ選挙で一定の正統性を与えられた首長であっても、市民の期待に反する独善や専横、無計画な場当たりであれば許されないと考えるのが当然であり、そのような場面に遭遇した場合には職員の立場から自信をもって首長に意見することこそが、「中の人」である自治体職員に市民が求めていることなのです。

    とはいえ、自治体職員は首長を頂点に仰ぐピラミッド型の組織で働いており、下手にたてつけば組織内での立ち位置が危うくなると危惧する人もいるでしょう。

    そういう人には「何のために公務員が身分を保障されているのか」と言わなければなりません。

    政治から距離を置き、職務の公共性、行政の継続性や中立性を担保するために我々は身分を保証されているのですから、首長が自らの統治能力不足を捨て置き、政治的思惑から市民のためにならぬ振る舞いをしているのであれば、法令で保証された身分を盾に首長を諫めなければならず、その立場にありながらその義務を履行しないのは市民への背任行為になりかねないのです。

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    進むべきは…

    王様の耳を語れ

    とはいえ、上意下達の組織で働いていれば組織の決定に従うのは当たり前で、上司である首長の命令や振る舞いに異を唱えることは容易ではありません。

    そんな局面で「市民のために」と一歩踏み出す勇気を与えてくれるのは、自治体職員として「これは本当に市民のためになるのか?」と常に自問する客観的な視点と、「こうすればもっと良い自治体運営ができる」という答えを自分で導ける知識、経験です。

    自治体運営の品質について常日頃からアンテナを張って情報を収集し、市民の満足や不満のありかを知っておく。

    他の部局や他の自治体ではどう取り組んでいてどういう状態なのか、本来どうあるべきなのかをじっくり考え、その姿を自分なりに描いておく。

    そのためには、役所の外側にいる市民の輪の中に自分なりの交友関係や人脈を築き、職場や立場を超えて忌憚なく意見を語り合える状況を作っておくことが大事になりますが、公務職場で抱えた問題を「ここだけの話」と打ち明けることができる場、自分が抱いた「おかしい」という市民感覚をぶつけて研ぎ澄ます「対話」の環境を自治体職員の皆さんはお持ちでしょうか。

    多くの公務員が首長の能力不足を批判できないのは、この情報収集と対話のチャンネルを持たず、首長の能力不足、自治体運営の隠れた不備を、他に漏らすことができない愚痴や与太話として閉ざされた公務員ムラの中でひっそりと共有し、その傷をなめ合っているからではないでしょうか。

    それは誤った現状を肯定し、その正統性を追認し、固定化してしまうだけ。

    行動なき傍観は市民の期待に背く片棒を担ぐことになるのです。

    王様の耳はロバの耳なのか。そんなぎりぎりの話題について市民と「対話」できる“まちのエバンジェリスト”になっていただきたい。そう思います。

    (「【ベテラン公務員からのメッセージ】新人公務員の皆さんごめんなさい」に続く)

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    今村 寛(いまむら ひろし)さんのプロフィール

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    福岡市 教育委員会 総務部長
    1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。
    また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。
    好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2021年より現職。
    著書に『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?』(ぎょうせい)、『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』(公職研)がある。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信するnote「自治体財政よもやま話」を更新中。

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