“強み”を活かし“弱み”を打ち消す
前回 でご紹介した、これまでのさまざまな分析を現場で検証するため、糸島市内の事業者30社ほどに協力をお願いし、インタビューに回りました。
(参照:「地域経済の“牽引役”」の見つけ方)
最初は従業員5人未満の会社を経営している人たちの課題を検証していました。しかし、事業所の規模・業種に関わらず、「広告費をそんなに割けない」「販路が広がらない」「営業できる人材がいない」「商品開発したい」など、マーケティングに関する課題を抱えていました。
その結果、糸島市内の事業者を対象に、「福岡市での糸島市のブランド力と食の強みを生かしたマーケティング支援を実施したい」と考えました(下図参照) 。
これだけ直接話を聞いて回れば、やはり糸島市内の事業者がどのようなことを考えているか理解できましたし、事業者の皆さんに経済的な豊かさを感じてほしい、なんとかしたい、と思いました。
部分的な施策ではなく一体的な支援を
ここでも経営学の知識が活きました。
マーケティングをするには、“4つのP”といって、
①Product(商品・サービス開発)
②Place(流通・販路開拓)
③Promotion(広告・宣伝)
④Price(価格決め)
これらが重要です。
つまり「どんなサービスか」「いくらにするか」「どこで買ってもらうか」「どうやって知ってもらうか」の4つを同時に考え、行うことが重要なのです。
糸島市ではこれまで、行政から事業者に提供していた経営支援メニューとしては、商品開発補助、催事への出展補助など部分的な施策がありましたが、一体的にマーケティングを支援する事業はありませんでした。しかし、事業者の皆さんに経済的な豊かさを感じていただくためには、一体的なマーケティング支援が不可欠だと考えました。
(参照:データは知っていた「華やかさの陰の危機」)
「民間の自主的な活動」に昇華する
また、「予算がつかなくなったら終わり」「行政がやめたらやめる」「担当者が変わったら終わり」という仕組みにはしたくなかったので、最初から事業の継続性を確保するために、民間の自主的な活動として発展していくことを考えました。
特に政策では4Pのうち、「Product」「Place」「Promotion」の3つが重要です。この3つに民間に加わってもらうことを考えたのです。それも、それぞれの本業としてメリットのある仕組みにすることで継続する可能性が高まります。
「商品開発には地場企業に自分で開発費を負担してもらう」「販路開拓は高校(私立博多女子高等学校)の授業として行ってもらう」「宣伝は県の情報発信サイトを活用できるライターに書いてもらう」などを考えることで、最初は軌道に乗せるまでの助成を市が行ったとしても、事業者には「売上アップ」、高校には「生徒の増加」、ライターには「新規顧客の獲得」など、それぞれ本業でのメリットを享受できる仕組みになれば、継続性のある自主的な活動へと移行できます。
前述したように、3つのPのうち、Place=販路開拓を福岡市の博多女子高等学校とコラボしており、それは糸島市のマーケティングモデル推進事業の大きな特徴のひとつだと思います。ある縁があって同高校と組むことになったのですが、その理由は、同高校ではかねてより実践的なマーケティング授業を行っていることにくわえ、ターゲットとしている福岡市の学校であることが私のなかでは決め手のひとつとなりました。
マーケティングの基本に「顧客のことは顧客に聞け」といった言葉があります。福岡市の高校生に販路開拓を考えてもらうことは、まさに「福岡市というターゲットとしている市場の潜在ニーズの掘り起こし」に直接的につながると考えました。
もちろん、糸島市と高校生がコラボするという話題性や予算をそれほどかけずに実施できる施策であることもメリットの一部です。しかし、あくまでも決め手となったのは、「福岡市内の顧客の声や情報に対応しやすいはずだ」と思ったことです。
庁内・庁外を巻き込むコツ
このような政策立案や活動が始めるときには、まず、利害関係者を洗い出し、情報レベルを合わせることが必要です。「聞いてない」「想定と違う」を減らし、また最初から支援してくれる人たちを増やす努力をしなければなりません。
このようなことを実施していくために、係員や上司に企画段階から相談しながら進めていました。
「企画を考えたいのでインタビューに回っていいですか?」
「いまこの段階で、こんな方向で考えています」
「企画書の素案を見てください」
「部長や市長、議会の協議はこのスケジュールで進めていいですか?」
というような感じです。
自分の部署だけでなく、商工、観光、農業、漁業など関係する課の職員にも相談したり、報告を行っていました。多忙な業務の合間を縫って私の話に耳を傾けていただき、協力してくれた庁内のみなさんのバックアップがなければ、この事業の大きな成功はなかったと思います。
内部だけなく、外部もそうでした。
事業者からマーケティングの商材を応募してもらうために、事前に連携先である糸島市食品産業クラスター協議会の会長や幹事会に話したり、募集前に会員企業をすべて回り、承諾を得ていきました。
最初は会長と幹事会の承諾を得たのち、会員企業の皆さんには依頼文書を発送させてもらおうと思っていたので、幹事会からの依頼によって30社ほどを全部回ることは想定外でしたが(笑)
当然、福岡市内にある博多女子高等学校高校との連携も同様です。ここは間に入ってくれていた高校の外部講師の方に調整はある程度お任せし、糸島市側との歩調を合わせながら、タイミングを見て、市から高校にお願いや報告に行っていました。
「公費につかる仕組み」は広がらない
それでも不満な人は出てくるものです。
「なんで地元の高校じゃないの?」
「俺たちは市の事業のためにあるんじゃない」
事前に情報共有していたはずでも、こうなります。
事前相談が予防なら、この段階は初期対応です。すぐその人に会って話を聞きます。それでも解決できない場合もありますが、あとは自分がやれる精一杯のことをやればいいと思います。
目的は事業者の支援で、教育面の支援等ではありません。副次的な目的が第一次になって、本来の目的を見失っては本末転倒です。
地域の事業者のことを想えば、もっともマーケティングの手法を普及できる方法を選択したいと思いました。それを図示すると下のチャートのような循環となります。
いまは糸島市内の事業者と高校が直接結びついて、市が入らなくとも自主的に連携が始まり、継続しています。
自動的に継続することで、地域政策が地域全体に広がっていくことが大事です。そのためにはいつまでも公費につかるような仕組みを最初から考えていてはいけません。
(「『外部×異分野』との連携で地域にイノベーションを起こす」に続く)
本連載「まちを元気にする自治体のマーケティング施策『糸島モデル』を創出した職員の仕事術」のバックナンバー
第1回:データは知っていた「華やかさの陰の危機」
第2回:「地域経済の“牽引役”」の見つけ方
岡 祐輔(おか ゆうすけ)さんのプロフィール
糸島市(福岡)企画部秘書広報課主査。MBA(経営修士)。2003年に二丈町(現・糸島市)に入庁。民間の経営手法を公共経営に活かすため、仕事の傍ら、九州大学ビジネススクールに飛び込み、MBA取得。2016年に「地方創生☆政策アイデアコンテスト」で地方創生担当大臣賞を受賞。受賞した政策を実施した「糸島マーケティングモデル」は「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー2018」で地方創生賞(コト部門)を受賞。これらの功績により、地方公務員アワード2018を受賞。著書に 『スーパー公務員直伝! 糸島発! 公務員のマーケティング力』 (学陽書房)がある。
<連絡先>
電話:092-332-2079(直通)
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(版元の実務教育出版のサイトより)