【自治体通信Online 寄稿記事】
自治体DXを本気で考えている職員さんに読んでほしい話。#1
(xID株式会社 執行役員 官民共創推進室長/元静岡県庁 職員・加藤 俊介)
行政のデジタル化を軸に、いま自治体は大きな転換点に立っています。白地図の上を進むように、参照すべき間違いのない前例や先行事例なき変革期において見逃してはならない視点、よりレベルアップするためにおさえておきたいポイント等について、自治体DXや官民連携に詳しい、元静岡県庁職員でxID執行役員の加藤 俊介さんに連載してもらいます。
はじめに
私は、現在xID(クロス ID)株式会社で、官民共創を推進しています。
xIDの紹介は別途できればと思いますが、マイナンバーカードの活用に特化した事業を展開している、いわゆるGovTech(Government+Technology)企業です。マイナンバーカードを軸に自治体と民間企業をつなぐ「ハブ」の役割をしています。住民にマイナンバーカードを配ったけれど、どう活用すればよいかお困りの場合はぜひご相談ください。
さて、私自身は大学卒業後、地元の静岡県庁に就職し、総務や福祉、行革を担当しました。その後、コンサルタントの立場で役所の外から自治体の計画策定や事業評価、業務改善、デジタル活用などを支援しました。その間、公共政策大学院で地方自治制度や住民参加を学んだり、地域活動として住民の方と一緒に私設図書館を開設したりしてきました。一貫して自治体に関わる仕事をさせていただいています。
本連載では、上記のような経験も踏まえながら自治体と民間企業の連携、デジタル化、DXに関するテーマを中心に紹介していきます。少しでも自治体職員の皆さんのヒントになれば嬉しいです。
「誰一人取り残さないデジタル化」とは
今回は少し大きな話から。
全国で自治体DX、デジタル化推進が言われる中、「誰一人取り残さないデジタル化」という言葉を聞いたことのある人も少なくないでしょう。「誰一人取り残さない」これは役所にとって重要なワードです。
「誰一人」というのは、文字通り「住民全員」「すべからく、みんな」という意味ですが、デジタル化の文脈で想定されている対象は「高齢者」などスマホ等のデジタル機器やオンラインサービスの利用が得意ではないと思われている人だと思います。関連して、デジタルディバイド(digital divide=情報通信技術、特にインターネットの恩恵を受けることのできる人とできない人の間に生じる経済格差を指し、通常「情報格差」と訳される)対策という言葉もあります。
しかし、色々と疑問が出てきます。
高齢者は本当にスマホが使えないのか?
使いたいと思っている人はいないのか?
高齢者と括るけれども本当に取り残されているのは誰なのか?
何人くらいいるのか?
相手や課題が特定できれば対策が検討できます。人数が少なければ、例えば、希望者全員にスマホを配って、個別にレクチャーをする。使いたくない人には、窓口でサポートをする。ということも考えられます。
はじめの一歩として取り組まれることの多い行政手続きの電子化では、アナログとデジタルが併用されるため、却ってコストが増えることが懸念される場合があります。人数によっては、デジタルが不得手な人に対して、窓口で職員がサポート(聞き取りによる代理入力をするなど)をしながら入り口をデジタルに一本化する方が効率的かもしれません。AI-OCRを活用するのも手ですし、デジタル化されればRPAなどの対象にもなります。
本当に取り残されているのは…
視点を変えて、「誰一人取り残さないデジタル化」で取り残されているのは、ほんとうに「高齢者」だけなのでしょうか?
私はここには若者こそ含まれると考えます。いわゆる、デジタルネイティブの世代です。普段からインターネットを使っている人まで含めて考えると大半の人が該当します。
これまでの役所は対面・書面でのやり取りが中心で、オンラインという選択肢がありませんでした。手続きだけでなく、住民の意見を聞くワークショップや座談会なども、休日に役所に来る必要があったりと、非常に参加のハードルが高いものでした。「ふつうの住民」は参加せず(できず)、一部の意識の高い住民のみが集まる場になっていることも珍しくありません。
このように、インターネットを普段の生活で活用している人たちは、役所から距離(ディバイド)があり、まさに「取り残されている」対象と考えられます。
全てがデジタルに置き換わればいいとは思いません。ただ、デジタルでも対応できる、参加できるという選択肢を用意し、これまで取り残されていた「ふつうの住民」が効率的に手続きをしたり、地域の施策を検討する役所と接点を持てたりするのは重要です。
デジタルでできる人はデジタルで。そこで浮いた時間や人手を本当に対面の支援が必要な人に振り分ける。デジタルが使えない人がいることをデジタル化をしない理由にするのではなく、デジタルを活用し、みんなで便利になる。
デジタルにより選択肢や価値を高められないかを考えること、そこで生み出された価値を全体で共有する方法を考えることが重要ではないでしょうか。
今後の連載テーマ
これからの連載テーマは以下のようなラインアップを考えています。
•デジタル化の落とし穴。デジタル化を進めるために必要な考え方
•「自治体→住民」の一方向のデジタル化から、双方向のデジタル化へ。電子申請の次の手
•住民と行政の関係性を変えるデジタル化、自治体DX。効率化の先へ
•デジタル化で重要となるカスタマーサクセス。サービス導入で終わりではなく、導入ははじまり
•自治体とベンチャー企業の共通点。ベンチャー企業とどう連携するか
Twitter(加藤俊介@xID:@ShunsukeKato_)でも発信していますので、ぜひ記事のリクエスト、ご意見などあればお知らせください!
(「《ありがちな自治体DX “3つの落とし穴”》デジタル化のために必要な『起点』の発想」に続く)
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■ 加藤 俊介(かとう しゅんすけ)さんのプロフィール
xID株式会社 執行役員 官民共創推進室長/元静岡県庁 職員
公共政策学修士。静岡県庁職員として実務経験後、デロイトトーマツにて自治体向けコンサルティングに多数従事。自治体マネジメントに関わる分野を専門とし、計画策定、行政改革、BPR等に加えシェアリングエコノミーなど新領域開拓も経験。xID参加後は、官民共創推進室長として、自治体向け戦略策定、官民を跨ぐ新規事業開発を担当。現在は住民へ確実に届くデジタル通知サービス“SmartPOST”を推進。兵庫県三田市スマートシティアドバイザー。
<Twitter>加藤俊介@xID:@ShunsukeKato_
<連絡先>info@xid.inc