【自治体通信Online 寄稿記事】
自治体DXを本気で考えている職員さんに読んでほしい話。#5
(xID株式会社 執行役員 官民共創推進室長/元静岡県庁 職員・加藤 俊介)
前回は
「効率化の“その先”にある自治体DXの本丸」として、デジタルを使いながら住民の意見を政策に反映することや、住民の意見を聞き行政サービスを改善することが自治体DXの本丸であることをお伝えしました。今回はもう一歩踏み込んで、自治体の実証実験事例等を挙げながら具体的にどのようなアプローチが有効なのかを探ります。
広範な住民参加を実現~つくば市の「ネット投票」
私は行政職員として働いているときも、コンサルタントとして自治体業務に関わり、住民参加を含む事業をしている時でさえも、住民の意見が施策や事業に反映されている実感が中々持てませんでした。一部の声の大きい住民や議員の質問に頭を悩ませることはあっても、それを「住民の意見」として取り入れることにはためらいがありました。
一部の住民だけでなく、これまで市政に参加しなかった、できなかった人を巻き込んでいく。いつでも、どこからでも繋がりを作ることができるデジタルにはその可能性があると思います。デジタルの力で今後、自治体と住民の関係性が変わってくる。私はここに期待をしています。
わかりやすいのが、つくば市(茨城県)などが推進しているネット投票です。2024年に予定されている市長選でネット投票の実現を目指しているつくば市の実証実験には私たちxID(クロス アイ ディー)も参加をさせていただきましたが、投票所に行くことなくスマホを使って意思表示ができるのは画期的で、セキュリティと仕組みさえ整えば、みなが望むことではないでしょうか。同市ではすでに政策コンテストや生徒会長選挙などで実証がされており、スーパーシティによる規制緩和から実際の選挙においての活用も進むものと思います。
住民参加の“集客力”を高める~三島市等の「マンホール聖戦」
ただ、住民参加の観点で難しいのは、「量」や「効率」の先にある「質」の変化です。
ネット投票の“解禁”によって投票行為の効率化を図ることは確かに重要なテーマである一方、投票の前段階の課題として、住民が進んで自治体運営や地域づくりに参画できる環境をつくり、主体的に行動でき得る仕組みをつくることも重要なポイントです。
私もこの領域で様々なチャレンジをする中で、「べき論」だけでは進まないことを実感しています。では、どのようなアプローチが有効なのでしょうか?
結論から言えば、急がば回れで、いきなり市政に関わる住民参加を求めるのではなく、まずは住民が参加したいと思う取組みからスタートをするということです。楽しみながら、学びながら地域に関わり、貢献をし、段々と関りを強めていくことがよいのではないかと思います。いくつか事例をあげます。
複数の地域で実施されている「マンホール聖戦」というイベントがあります。マンホールの腐食状況などの確認を住民や参加者の力を借りて実施するもので、2022年3月19日(土)〜3月24日(木)にかけて実施された三島市(静岡県)の「マンホール聖戦in三島」の事例では1万基あるマンホールの状況を400人の参加者の力で僅か2日で確認し終えるという成果につながっています。
具体的には、アプリを入れた参加者が地域内にあるマンホールを実際に撮影し、投稿。オンラインの参加者でその腐食状況も点検するというものです。投稿数に応じてステータスが上がったり、獲得したポイントで景品と交換できるゲーム性があります。
職員が1万基のマンホールを点検するとなると相当のマンパワーがかかるので、非常に効果的かつ、住民の参加も募りやすい取り組みと言えます。
「住民として街の継続に貢献できる」
「楽しい。普段見ないマンホールで色んな発見がある」
「ボロボロのマンホールもあり、役立っている気がする」
参加者からはこのような感想が寄せられており、楽しみながら、社会貢献を実感したり、シビックプライドが醸成できるイベントであったことがうかがえます。
“オンライン参加”が起こした変化~町田市の「町田市市民参加型事業評価」
もう少し事業よりの取組みとして、町田市(東京都)の「町田市市民参加型事業評価」(旧称:町田市版事業仕分け)をご紹介します。これは、住民が評価人となり、市の事業を評価する取り組みで、評価にあたり、オンラインも交えながら傍聴者の意見を聞き、実施した事例です。
市内の高校生が事業の評価人として加わったことから、YouTubeやスマホといった高校生が普段使っているツールを使い、簡単にオンライン参加できる環境が整えられました。
具体的には、自治体担当者から事業の説明を受け、評価を行う評価人は現地会場で質疑を行います。その様子がYouTubeでライブ配信され、視聴者は担当者の事業説明の後(1回目)と評価人による最終評価の前(2回目)に自身の意見をネットで投票します。会場の傍聴者の投票と合わせて、結果が会場のスクリーンにグラフで映し出され、評価人はそれも加味しながら最終評価をくだします。
興味深いのは、同じ質問をしているにも関わらず、参加者の投票結果が1回目と2回目で変化をしていることです。つまり、評価人と事業担当者のやり取りを聞いて考えを変えたということです。
今後の住民参加のポイント
普段から地域や市政に関心を持ち行動できる人は少なく、デジタルツールが提供されてもそれは変わりません。デジタルで参加のハードルを下げながら、まずは住民が楽しさや貢献、学びを感じられる仕組みをどう提供するかがポイントであると考えます。
今後はイベント的なものだけでなく、ネットの特徴を活かし、参加した住民の考え方が変わったり、充実感も得られる、日常的・継続的な参加環境が構築されていくのではないかと予想します。
(「《申請件数急上昇の、その後は!?》マイナンバーカードは『オンライン上での公共空間形成』に不可欠」に続く)
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■ 加藤 俊介(かとう しゅんすけ)さんのプロフィール
xID株式会社 執行役員 官民共創推進室長/元静岡県庁 職員
公共政策学修士。静岡県庁職員として実務経験後、デロイトトーマツにて自治体向けコンサルティングに多数従事。自治体マネジメントに関わる分野を専門とし、計画策定、行政改革、BPR等に加えシェアリングエコノミーなど新領域開拓も経験。xID参加後は、官民共創推進室長として、自治体向け戦略策定、官民を跨ぐ新規事業開発を担当。現在は住民へ確実に届くデジタル通知サービス“SmartPOST”を推進。兵庫県三田市スマートシティアドバイザー。
〈Twitter〉加藤俊介@xID:@ShunsukeKato_
〈連絡先〉info@xid.inc
〈メディア〉「みんなのデジタル社会」:https://media.xid.inc/