チームメンバーでフィールドワークを実施
参加メンバーが妙高市に集結したミライ会議のキックオフミーティングは、まだ酷暑厳しい8月28日に妙高市役所で開催されました。
ミライ会議は、都市部企業と地元の企業や市民および市役所の複数の原課で官民連携のチームを組成し、妙高市の地域課題を解決する政策を策定する官民連携プラットフォーム。7月のチーム組成以来、オンラインでの協議や議論を重ね、この日に初めてオフラインで“顔合わせ”をしました。
(参照記事:官民連携チームで人口減・高齢化問題に挑む「みょうこうミライ会議」の全容)
「コロナ禍の影響でキックオフミーティングが開催できるか心配していました。都市部企業のチームメンバーが妙高市を訪れるのはキックオフミーティング当日が初めて。オンラインのミーティングで気心が知れていたとは言え、やはり実際に顔を合わせることでチームとしての一体感をより深めることができました」(妙高市 企画政策課 未来プロジェクトグループの斉藤誠さん)
キックオフミーティングには、チームごとに実際に現地視察を行い、地元の市民等にインタビューを行うという、この取り組み全体のなかでも重要な役割があります。午前中に妙高市の入村明 市長と同市のアドバイザーを務め、ミライ会議をサポートしている青山社中の朝比奈一郎 筆頭代表の挨拶やチームメンバーの自己紹介等を行ったあとはすぐに参加者たちはチームごとに妙高市内の各所に散らばり、お昼の12時から夕方の6時までみっちりとフィールドワークを実施。夕方に市役所に戻った後はフィールドワークで得た成果をもとにラップアップ会議(まとめ会議)が行われ、政策アイデアのブラッシュアップが早速行われました。
「地方創生が日本経済の先行きを握っている」
初実施となる今回のミライ会議では、交通利用者のニーズにマッチした新しい交通手段の整備を検討する「交通チーム」と、with/afterコロナ時代における妙高市への新しい人の流れの創出を検討する「人の流れチーム」が組成されています。
「交通チーム」には都市部の企業として自動車大手のダイハツ工業、MaaSベンチャーのNearMeが参画。地元企業・市民等からは頸南バス、高原タクシー、妙高ツーリズムマネジメント、妙高市地域支援員、認定新規就農者が、妙高市役所からは環境生活課、観光商工課、企画政策課が参加しています(下画像参照)。
「大都市近郊に本社があると言っても、自動車メーカーにとって主要マーケットはモータリゼーションが進んでいる日本の地方です。自動車メーカーに限らず、他の業種の大多数の企業にとってもそれは同じで、地方創生の成否が日本経済の先行きに大きな影響を与えます。官民連携の枠組みで政策立案から参加するのは今回のミライ会議が初めてですが、地方活性化にお役立ちできることがあれば積極的にコミットしたい、と従来から当社では会社の方針のひとつとして考えていました」
こう話すのは、「交通チーム」メンバーの1社、ダイハツ工業の青山尚史さんです。
「これまでもオンラインのミーティングでさまざまイメージを描いていましたが、実際に現地に行ってみると、地元の方だからこそ気づかない多様で魅力的な観光資源が豊富にある、という印象でした。また、当初はMaaSで地方移動をどうしようかということを考えていましたが、地元の方のお話を聞くなどして、夏冬の季節によっての交通需要をよりバランシングしていくことで、より移動が便利になっていくのでは、という発見がありました」(青山さん)
「交通チーム」が取り組んでいる人口減少・高齢化が進む地方での新しい移動手段の整備という取り組みは、広い視点で見ると、受益者負担だけで賄うことを想定していないソーシャルビジネス(社会問題の解決を目指す事業)の持続可能性を高める仕組みづくりも含んでいます。この点についてどのような政策が打ち出されるのかも注目ポイントです。
「“外部の視点”が地方の魅力発掘につながる」
もうひとつの「人の流れチーム」では、都市部企業からカヤック、日本マイクロソフト、ワーナーミュージック・ジャパンが参画。地元企業・市民等からは妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会、妙高ツーリズムマネジメント、PRANA CHAI JAPAN/MYOKO COFFEE、妙高ライス/こつぼねの家 くらし遊び人が、妙高市役所からは地域共生課、農林課、企画政策課が参加しています(下画像参照)。
「人の流れチーム」に参加しているメンバーの1社、ワーナーミュージック・ジャパンの宮越陽士さんは、実は合併前の旧新井市出身で、妙高市は生まれ育った故郷。妙高市役所の職員をしている同級生もいるそうです。
「自分が妙高市のミライ会議の会社メンバーに選ばれたのはまったく偶然。なにか運命的なものを感じますね(笑)」
そう話す宮越さんはキックオフミーティングの現地視察でさまざまな“新しい発見”があったそうです。
「小さい頃から慣れ親しんできた妙高の山々や温泉など、いろんなものが自分の中では“当たり前”でしたが、キックオフミーティングでほかの参加メンバーのリアクションを見て、あらためて地元の魅力に気づきました。“自分たちにとっては当たり前でも、外部の人たちの視点で見ると、特別な価値を感じてくれるんだ”と。ですから、奇をてらわずに“妙高らしさ”を大切にすることで、新しい人の流れを創出できるのではないか―。そんなイメージをもつことができました。地方活性化に積極的にコミットするミュージシャンも増えています。“妙高×音楽”で、地方だからこそ、妙高だからこそのコンテンツや魅力を発信したいですね」(宮越さん)
音楽業界と自治体はこれまであまり交わることがなかったかもしれません。しかし、宮越さんはまったく違和感をもっていないそうです。
「チームには多様な人たちが参加していますが、キックオフミーティングに参加して、ひとつのプロジェクトの達成に向けて同じ船に乗っている仲間、という意識が強くなりました。所属している組織の枠を超えて意見をぶつけ合い、その上でそれぞれの組織での経験を共有しながら主体的に議論ができています。いいかたちで着地できるのではないかとワクワクしています」(宮越さん)
「ミライ会議」のもうひとつの意義
最後に、改めてミライ会議の意義を妙高市 企画政策課 未来プロジェクトグループの斉藤さんに聞きました。
「妙高市の人口減少・高齢化は日本の地方特有の課題であり、日本全体の課題。さらに視野を広くもつと世界に通じる課題です。これを企業の視点から見ると、妙高市で実装されたソリューションや課題解決策は他地域で横展開することが可能、ということです。企業にとって新たなビジネスチャンスであり、横展開されていくことで、地方が抱える課題、日本や世界が直面している問題の解決につながり、社会全体がよりよくなっていくことが期待できます。ミライ会議をそのモデルケースのひとつにしたいと思っています」(斉藤さん)
最終的に市としての方針を打ち出す「市長プレゼン」は10月末に行われます。新しい官民連携プラットフォームからどのような政策が生まれ、どういった成果を上げるのか―。ミライ会議の今後が注視されます。
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【本連載「都市部企業を“地方創生”に巻き込め!~「妙高市」が挑戦する新しい官民連携」のバックナンバー】
#1:官民連携チームで人口減・高齢化問題に挑む「ミライ会議」の全容