時代の流れのなかでの位置づけ
いま、行政の役割やあり方が大きな曲がり角に直面しているなか、地方自治体が提供する行政サービスのカタチも変化しつつあります。公共施設マネジメントの推進をはじめ、PPP/PFI、指定管理者制度、民間委託など、さまざまな公民連携が進められているのが、その象徴です。
しかし、公民連携の手法はよくわかっていても、大きな社会の流れのなかで、「なぜ、いま公民連携をやっているのか・やらなければいけないのか」という点について、自治体の現場は意外と見えていないのではないか、と感じます。
そこで、「公民連携をすべき理由」を明らかにするため、まず日本の地方自治体がどういう状況に置かれていて、今後どうなっていくと見られているのかを振り返り、そのなかで公民連携はどういう位置づけにあるのかを見てみます。
総務省と経産省の警鐘
いま、自治体はどんな状況に置かれているのか―。それを端的に示しているふたつの研究報告書があります。
ひとつは、総務省が一昨年7月に取りまとめた「自治体戦略2040構想研究会」の報告書です。
『人口減少下において満足度の高い人生と人間を尊重する社会をどう構築するか』(『』は引用部分、以下同)という副題がつけられている同報告書は、日本の高齢者人口(65歳以上)がピークを迎える『2040年頃にかけて迫り来る危機』を乗り越えるために『自治体行政(OS2)の書き換え』(同)が必要だと、その前書きで指摘します。
もうひとつの研究報告書は、経済産業省が昨年8月に発表した「21世紀の『公共』の設計図」です。
同報告書の前書きにあたる“序”では『人口減少の問題は公共サービス提供の限界コストを引き上げる』とともに、『国、県、市町村のあらゆるレイヤーで財源が逼迫するなか、こうした声に応えていくのは容易ではない』と結論づけます。
自治体を所管する総務省と、産業の側面から日本全体を俯瞰している経済産業省。こうした、国のふたつの機関が「急速な勢いで日本の国のカタチが変わろうとしており、自治体の役割・あり方も大きく変わっていかざるをえない」と指摘しているのは、非常に象徴的です。
では、どのように変わっていくのでしょうか。少なくとも「右肩上がりで人口と税収は増え、中央省庁が書いた国のルールと予算に基づいて、自治体は粛々とそれを実行する」というかつてのやり方は、もうすでに通用しなくなっています。
いまは過渡期
これまでの自治体のあり方・役割が大きく変わっていくなかで、「公共サービスは自治体が提供するもの」という固定観念も急速に変わっているのは必然の流れでしょう。
たとえば、指定管理者制度やPPP/PFI等が定着したように、「公共サービスは自治体だけが提供可能なものではなく、企業やNPO等も提供できる」という前提が当たり前の時代に移行しています。そして、実際に公共サービスを提供する民間プレーヤーは増え続けています。
しかし、いまはまだ過渡期だと思います。これまでの公民連携の中心は、単純に公共サービスの提供者を自治体から企業などの民間に移すことだからです。
しかし、今後は「A社のサービスを使ってより効率的な公共サービスをつくり、A社に公共サービスを提供してもらう」とか「B社とC社の技術を融合した新しい公共サービスをつくり、両社が協業して提供する」といった、より核心的な公民連携が顕在化していくでしょう。
また、地域住民やNPO、大学、民間研究機関等と自治体が連携して新しい公共サービスを策定し、その担い手にもなってもらうという公民連携の形態も、少しずつ生まれています。
「渡す」だけではなく、行政サービスの開発や提供などで、まさに「行政と民間が連携する社会の到来」が本格的に始まりつつあるのではないかということです。
もちろん課題もあります。まず「企業は、自治体が担ってきた公共性をサービスにどこまで織り込めるのか」という点。企業は行政のロジックや「公共を担う」とはどういうことかについて学習する余地がまだあると思います。
もうひとつの課題は「自治体も企業のことがよくわかっていない」という点です。行政は「ビジネスをする」とはどういうことかを理解したうえで、民間と連携する際の設計をうまくやっていくことが求められるでしょう。
オープンなプラットフォーム
そもそも民間は「公共サービスは短期的に大きな収益がでるものではない」ことは理解しています。ですから、たとえば5年とか10年とか、投資回収までのリードタイムを長くとりたいと考えます。
しかし自治体は、行政の原則である “公平性の確保”の観点から「同一の民間事業者に長くまかせてはいけない」とか、「A社に3年委託したら、そのあとは別の企業に」などと考えがちです。そのため、公共サービスへの参入をためらう企業が少なくありません。
もちろん、公平性の確保は重要です。しかし、公平性の定義が変わるというか、みんなが納得する「それは公平だ」というカタチが別にあるはずだとも思います。そのヒントとなるのが、おもに欧州で盛んな「フューチャーセンター」だと思います。
「フューチャーセンター」は企業や行政、さらには市民などの民間も広く参画して、社会課題とその解決策を話し合う場です。行政の領域でいえば、市民や企業の提案を受けて新しい政策が立案されたり、行政側から政策課題を相談して解決策を見出していく場合もあります。
具体的な「公共入札」まで実施する機能もあります。市民参加のオープンな場で事業者選定が行われ、当然、入札実施の情報と入札参加の門戸などもすべてオープンにされているのです。これ以上、公平な場はないでしょう。「フューチャーセンター」のケースのように、公平性は「機会の公平性」で担保することは可能です。
環境整備は急速に進む
私は5年ほど前、横浜市議会議員時代に「フューチャーセンター」を現地視察し、大きな感銘を受けました。それぞれでは解決困難な社会課題を立場を超えた集合知で解決していくオープンなプラットフォームこそ、これからの日本にも必要だと感じました(フューチャーセンターについては稿を改めてまた詳しくご紹介しようと思います)。
そして、日本版フューチャーセンターの整備につながる基礎的な条件は、徐々にではありますが整いつつあるように感じます。いまはまだ小さな動きですが、今後5年以内に急速に環境整備されるのではないか、という感覚があります。
そうした日本の公民連携の進化と深化について、この連載で逐次、情報発信していきたいと思います。
(「頑張らなくても『公民連携』はできる」に続く)
伊藤 大貴(いとう ひろたか)さんのプロフィール
1977年生まれ。2002年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、日経BP社入社。「日経エレクトロニクス」編集部記者として産学連携や知的財産、環境などを取材。
2007年に横浜市議会議員に初当選。3期10年を務める。テクノロジー、都市開発、まちづくり、合意形成プロセスなどの政策分野を得意とし、“元祖Twitter議員”として注目された。
2019年5月15日に、元地方議員、現職地方議員が中心となって公共戦略コミュニケーションを支援する株式会社Public dots & Companyを立ち上げ、代表取締役に就任。
著書に、デジタル・テクノロジーが社会に与える影響とこれからの都市の変化を分析した『未来予測シリーズ「日本の未来2019-2028 都市再生/地方創生編」』(日経BP社、総合監修および執筆)など。テクノロジーと都市をテーマに世界銀行(2018年、2019年)や企業などで多数講演。フェリス女学院大学非常勤講師。
株式会社Public dots & Companyのホームページ
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メール:info@publicdots.com