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急速に盛り上がる「SDGs」その課題と展望

    【自治体通信Online 寄稿記事】再定義論「シビックプライド」③(関東学院大学法学部准教授/社会情報大学院大学特任教授・牧瀬 稔)

    シビックプライド政策の先進事例や成功事例に詳しい関東学院大学 法学部の牧瀬 稔 准教授に近年の傾向や成果を出している自治体の取り組みポイント等を解説、分析してもらう本連載。今回は、シビックプライドの醸成に関係が深いSDGsについて、これまでの自治体の取り組みを検証し、今後を展望します。
    【目次】
    ■ SDGsとは何か
    ■ 新聞記事にみるSDGsの経緯
    ■ SDGsの認知度

    SDGsとは何か

    本連載の第1回で触れたように、相模原市(神奈川)は「SDGs(持続可能な開発目標)先進度調査」において、全国総合第6位(首都圏では第1位)となっている(日本経済新聞社産業地域研究所による全国815市区(回答は658市区)を対象にした結果である)。そして4月1日には同市は「SDGs推進室」を創設し、より強くSDGsを推進している。
    (参照記事:定住人口増等に不可欠な「地域戦略」の新しい基軸に)

    本村賢太郎・相模原市長の考えるSDGsは次回で言及する。相模原市に限らず、SDGsに取り組む自治体が今日増えている。今回と次回は、情報提供の意味で、SDGsの現状等を紹介する。

    ※ ※

    今日、多くの地方自治体がSDGsに取り組みつつある。SDGsとは「Sustainable Development Goals」の頭文字をとった略称である。Sustainable Development Goalsは「持続可能な開発目標」と訳されることが多い。

    2000年9月にニューヨークで開かれた国連ミレニアム・サミットにおいて「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals:MDGs)が提起された。MDGsとは、2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットにおいて採択された指針である。

    MDGsは21世紀の国際社会の目標として、より安全で豊かな世界づくりへの協力を基本としている。国際社会の支援を必要とする課題に対して、2015年までに達成するという期限付きの8つの目標と21のターゲットを掲げていた。

    SDGsはMDGs後継として、2015年9月の国連サミットで採択された。SDGsは2030年までの国際開発目標である。

    SDGsは17の目標と169のターゲットが設定された(下写真参照)。目標1の「貧困をなくそう」から目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」まである。これらの目標を達成することで、持続可能な世界を実現し、地球上の「誰一人として取り残さない」(No one will be left behind)ことを目指している。

    SDGsは「誰一人として取り残さない」を理念としている。この理念は国連を主な舞台として国際社会で共通している。日本は無視することはできないし、日本だけで通用する目標や基準でもない。日本も国際社会に歩調をあわせ、積極的に推進している。そのため地方自治体も、SDGsを政策(施策や事業を含む)に関連していかざるを得ない状況にある。

    SDGsは全ての国が対象となっている。世界的な潮流を受けて、日本は「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置した(2016年5月20日閣議決定)。同本部は、本部長を内閣総理大臣とし、副本部長は内閣官房長官と外務大臣である。本部員は他の全ての国務大臣である。同本部を中心に、政府はSDGsを強く推進している。政府の動きに呼応し、地方自治体もSDGsに取り組みつつある。

    新聞記事にみるSDGsの経緯

    下のグラフ1 は主要4紙(朝日、毎日、読売、産経の各全国紙)におけるSDGsに関する記事の推移である。2014年に初めて登場し、急激に増加してきたことが理解できる(新聞・雑誌記事横断検索を活用した。完全にすべての記事を把握できているわけではなく、傾向をつかむための推移データである)。

    【グラフ1】主要4紙におけるSDGsに関する記事の推移
    【グラフ1】主要4紙におけるSDGsに関する記事の推移

    2014年9月12日に毎日新聞が初めて記事として取り上げている。見出しは「貧困や環境に新たな指針 国連の『持続可能な開発目標』案」である。

    同記事は「貧困をなくし、人の健康や環境、経済成長を将来にわたって維持していくための国連の新たな目標を巡る国際交渉がこの秋から本格化する。柱となる『持続可能な開発目標』(SDGs)の案には、防災やエネルギー消費のあり方など先進国、途上国共通の課題も多く盛り込まれており、日本でも関心が高まりそうだ」とある。そして、同記事において毎日新聞は「日本でも関心が高まりそうだ」と言及している。

    同紙の予測通り、SDGsは大きな関心となってきた。筆者はSDGsを否定する意図はないが、グラフ1の状況を見ると、昨今の状況はSDGsがブームとなっていると指摘できる。

    昨今では何を進めるにしても「SDGs」という4字を付けると許される傾向があるように感じる。言い方に語弊があるが、SDGsは「バブル状態」と言えるかもしれない。これは、SDGsシンドローム(症候群)とも言えるだろう。

    なお、バブル状態であってもSDGsの考えが浸透することはよいことと思う。ここまでSDGsの取り組みが活発化してくると、「善いSDGs」と「悪いSDGs」が混在してくるだろう。また「悪いSDGs」が「善いSDGs」を駆逐してしまう可能性がある(まさに「悪貨は良貨を駆逐する」という状態である)。その結果、SDGsの全体の価値を下げることにつながりかねない。

    「悪いSDGs」というのは、例えば、自分(自社)の利益のためだけに「SDGs」という言葉だけを使用する状況である。それはSDGsの理念が内包されていない「フェイクSDGs」の取り組みと言える。特に、昨今の現状は「出羽守」(でわのかみ)化現象とも言える。本来、出羽守とは出羽国(現在の山形県と秋田県)を治めた国守のことを指す。

    ここで使用している意味は、「…では」と多用する悪しき傾向である。具体的に言うと、「P県『では』SDGsを推進し…」や「Q市『では』SDGsを施策に入れることにより…」と、「では」ばかりを強調することを意味する。

    地方自治体はよく言うと「競争意識」が激しいため、他自治体の取り組みが気になる。一方で悪く言うと「横並び意識」があるため、やはり他の自治体の状況が気になって仕方がない。これは地方自治体としての意思がないと言っているようなものである。

    SDGsが急拡大してきた様子をMDGsとの比較の上で確認したい。下のグラフ2が主要4紙におけるMDGsに関する新聞記事の推移である。2010年が59記事と最も多いが、全般的にSDGsほど活発に記事として扱われていないことが理解できる。すなわちSDGsが異常な速さで日本の中で浸透している状況が理解できる。

    【グラフ2】主要4紙におけるMDGsに関する新聞記事の推移
    【グラフ2】主要4紙におけるMDGsに関する新聞記事の推移

    SDGsの認知度

    自治体は積極的にSDGsを推進する担当部門を設置している。冒頭で触れたように、相模原市は「SDGs推進室」を立ち上げた。また、生駒市(奈良県)はSDGsの関連施策を進める「SDGs推進課」を設置した。少なくない自治体がSDGsを進めていくための組織を用意している。しかしながら、一般的には認知度は低い。

    朝日新聞社は、SDGsの認知度に関してアンケート調査を実施している。東京都、神奈川県に住む3000人を対象に調査を実施し、「SDGsという言葉を聞いたことがあるか」という質問に「ある」と答えた人は27%となっている(2019年調査)。

    また日経リサーチも同様の調査を行っている。2019年6月に日経リサーチは、20歳以上の男女1000人を対象に「SDGsに関する調査」を実施した。SDGsについて知っているかを聞いたところ、認知度は37%であった。回答者をビジネスパーソンに絞ると44%に上昇し、株式投資者のみでは50%に達する。しかし、現時点においては、SDGsは一般に浸透していると言えない。

    地方自治体におけるSDGsの取り組み状況は「SDGs総研」(下の脚注参照)がアンケート調査を実施している。

    SDGs総研:学校法人先端教育機構に附属する研究機関。企業におけるSDGsの実践のための研究・評価・教育を行っている。

    このアンケート調査の結果(下画像参照)によると、SDGsに「すでに取り組んでいる」(実施中)が167自治体となっている(34%)。具体的な活動としては、SDGsモデル事業の選定、SDGs未来都市の選定、基本計画や総合計画に入れた、職員研修を実施したなどである。そして「取り組む準備中」(検討中)と回答したのは211自治体であった(44%)。

    SDGs総研が実施した首長アンケート調査結果(同調査のニュースリリースより)
    SDGs総研が実施した首長アンケート調査結果(同調査のニュースリリースより)

    一方で78自治体(16%)は「目新しさがなく、既に取り組み済み」といった理由から、取り組まないと回答している。そして27自治体(6%)は「知らない」と答えている。

    同アンケート調査の結果では、SDGsに取り組む上での課題として、住民や職員らの「認知が高まっていない」との回答が多い。そこでセミナーなどSDGsに関する情報に触れる機会を求めていることが必要と述べている。

    ※ ※

    今回はSDGsの現状を紹介した。自治体にはSDGsは広がりつつあるが、一般には深く浸透しているわけではないようだ。しかし国をあげて自治体等がSDGsの推進に取り組んでいるため、今後は、SDGsは一般にも浸透していくと考える。

    なお、筆者か編者となった「持続可能な地域創生 SDGsを実現するまちづくり《暮らしやすい地域であるためには》」(2020年、プログレス)を出版した(下画像参照)。関心のある読者は手に取っていただけると幸いである。

    ~「持続可能な地域創生 SDGsを実現するまちづくり」の概要~
    第1部では「SDGs『持続可能な地域創生』と都市政策」と題して専門家がSDGsの理念とその実践の考え方を提示。第2部では「地方自治体のSDGs政策の実際」と題してSDGsに積極的に取り組んでいる全国7市の担当者がその実践例をレポート。地域活性化に取り組んでいる自治体職員の方々にSDGsをどのように理解し取り組めばよいかについてわかりやすく解説する最良の手引き書。(版元のプログレスのサイトより)

    次回は自治体がSDGs政策を進めるにあたり、筆者の考える要諦を言及したい。

    (「自治体はSDGsそのもの・前編~既存事業にこそ『大きな価値』に続く)

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    本連載「再定義論『シビックプライド』」のバックナンバー
    第1回:定住人口増等に不可欠な「地域戦略」の新しい基軸に
    第2回:シビックプライドが創る「活動人口」という“新しい未来”

    牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール

    法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
    北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
    「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)「持続可能な地域創生 SDGsを実現するまちづくり」(プログレス)など、自治体関連の著書多数。
    <連絡先>
    牧瀬稔研究室  https://makise.biz/

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