【自治体通信Online 寄稿記事】
社会課題を解決する新しい政策「スポーツ×自治体」#3(宮代町 職員・伊藤 遼平)
スポーツチームとのコラボで地域に新しい価値を創造した“スポーツ系公務員”こと宮代町(埼玉)職員・伊藤遼平さんに一連の事業の“裏側”を明かしてもらう本連載。
前回に引き続き、今回はJリーグの取り組み「シャレン!」(社会連携活動)をヒントに実施した取り組みの全容をお伝えします。
スポーツ×『子どもの貧困・フードロス』
今回は
①「スポーツ×社会課題解決」の実践例
②企画・提案から事業実施まで
③「スポーツチーム×自治体」という新たな公民連携が地域にもたらしたもの
この流れに沿って、具体的に宮代町で私が担当した実施事業を基に紹介していきます。
紹介するのは、宮代町が2021年11月に実施した親子イベントとフードドライブ(家庭で余っている食品等を持ち寄り、地域の福祉団体や施設等に寄付するボランティア活動のこと。食料寄付)を“合体”させた事業です。
(参照記事:Jリーグなどスポーツチームとの連携で社会課題を解決!)
実践例~スポーツ×子ども食堂
①問題意識と提案
子ども食堂などの地域の子どもたちの居場所支援が担当業務だったので、コロナ禍で対面の食事が出来なくなってしまった子ども食堂へ直ちに出来る支援策のひとつとして、フードドライブ事業をいち早く取り入れたいと上司に相談しました。
そこで、ガイナーレ鳥取の「復活!公園遊び」とツエーゲン金沢のフードドライブ「子どもの未来を応援する活動」、この2つの「シャレン!」を参考に「土日開催のスポーツ選手と遊ぶ親子イベントの場でフードドライブを実施する」企画の検討をスタートしていきます。
(参照記事:「シャレン!」から学んだ社会課題解決の新しい政策~前編)
②調整、課題の発見
まずは、食料寄付事業を担う社会福祉協議会から実情を聞き、集荷方法と集めた食料を家庭へ届ける方法を調整しました。
一方で新たな課題も見つかりました。それは施設が営業している平日しか集荷できていないことや、地理的に遠く集荷場所まで持参出来ない方もいる―などといったところです。そのため、土日に持ち寄れる場所の確保や町内中心地にある役所施設での集荷の重要性が高まりました。
③事業実施
これまで実施していた親子イベントに子ども食堂支援の目的追加と、講師のスポーツ選手の役割に変化を加えた内容の企画書を作成(下図参照)。協力してくれるスポーツ選手を見つけて上司へ提案。そして、新たな事業がスタートすることとなりました。
スポーツを見る場・遊ぶ場から課題解決
事業実施にあたっての大きなポイントは「参加してみたい」「会場に足を運んでみたくなる」そんな魅力的な親子イベントにすることでした。そのため、イベントで実施するスポーツは多くの人の関心・興味を引き付け、親子で参加できて楽しめるものでなければなりません。
私が目をつけたのはフェンシングでした。東京オリンピック2020「男子エペ団体」で金メダルを獲得し注目されていたフェンシングのイベントを企画しようと考えたのです。
そこで、日本代表の村上仁紀選手と、フェンシング普及のため「現役日本代表選手によるフェンシングバラエティ」をYouTubeで配信し、Youtuberとして活動する「さときんぐch」のメンバーに声をかけ、社会課題解決型のスポーツイベントの講師を依頼しました。
イベントは、密を避けるコロナ対策も兼ねてイベントを前後半制に設定。それぞれにデモンストレーションの時間を設けて、フードドライブ募集時間と重ねる工夫をし、興味を持つ人々が出入りしやすい導線を確保しました。場所は「土日に持ち寄れる、町内中心地にある施設」という条件を満たす「コミュニティセンター 進修館」の大ホールで実施することができました。
また、広報担当と連携して町のSNSなどの情報発信媒体で「家庭で余っている食料を持って来てください」と呼びかけました。
「スポーツチーム×自治体」が地域にもたらしたもの
それまで、フードドライブの文化が宮代町に根付いている訳ではなかったので、イベント参加者の他に一般の方が集まるか不安でした。しかし、当日は想像以上に多くの方々が食料の寄付を持ち寄ってくれる結果となり嬉しかったです。
企画打ち合わせの際に、「子どもの貧困」の現状について事前に伝えたところ、講師の村上選手も多くの食料寄付を持ち寄ってくれました。選手にとっても社会貢献活動に携わる機会となりました。
さらに驚いたのが、村上選手が今回の活動について個人的に周囲のフェンシング選手に共有してくださり、東京オリンピック2020で金メダルを獲得した見延和靖選手からも寄付が届きました。スポーツ選手の子どもたちのためを想う温かい支援に感動しました。
(※さときんぐchとのイベントの様子は下の埋め込み画像から視聴できます)
動画は「さときんぐのフェンシングch【現役日本代表によるフェンシングバラエティ】~宮代町に行ったら子供にひたすら追われました…。【フェンシングイベント】」より
イベントと併せたフードドライブ活動も、最初こそ寄付を持ち寄るのは地域の高齢者だけでしたが、回数を重ねるうちに参加者の親子も食料寄付を持ち寄りイベントに参加してくれるようになっていきます。
寄付のお礼を母親に伝えると「子どもが何か持っていくと言うんです」と嬉しい声を聞き胸が熱くなることもありました。
現在では、フードドライブブースが民間企業の施設内や役所の廊下へ設置されるなど、日常的に食料寄付を持ち寄る先が地域内にも増えてきています。スポーツチームやスポーツ選手との活動の積み重ねから、地域内で支え合い互いに応援する文化が根付き、困っている人々へ支援が届くようになりました。
「スポーツ観戦で人が集まる場」を活用した取り組みは、様々な競技で実施することが出来るので、私の活動を参考に他のスポーツチームが取り入れ活動が広がっています。地域のイベントを企画する自治体職員の皆様も、ぜひ参考にして取り入れてみてください。
次回は「Jをつかおう!」を本当に使ってみた話
次回では、埼玉県を代表とする浦和レッズと大宮アルディージャ、Jリーグ社会連携室と実施した「シャレン!」について紹介します。スポーツ振興担当での業務と、研修担当と連携した2つの「シャレン!」を担当目線と研修担当の声と併せてご紹介したいと思います。ありがとうございました。
(「《官民連携+スポーツチームという新しい基軸》「Jをつかおう!」を本当に実践してみた~前編」に続く)
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■ 伊藤 遼平(いとう りょうへい)さんのプロフィール
宮代町(埼玉県)教育推進課 生涯学習・スポーツ振興担当
1991年生まれ。2014年FC東京(東京フットボールクラブ株式会社)へ就職。同クラブバレーボールチームに所属。2017年宮代町へ入庁。2部署目となる子育て支援課で、子育て支援センター・児童館の担当となり、地域の親子イベントにプロスポーツチームや選手と連携した「スポーツ×社会課題解決」型事業を多数企画。「地方公務員が本当にすごい! と思う地方公務員アワード2021」受賞。
プライベートでは、子育て中のパパ。バレーボールトップリーグのコーチ経験を活かしたイベント講師や「スポーツ×社会課題解決」をテーマにした講演など〈スポーツ系公務員〉として活動を行う。
<連絡先>ito626@town.miyashiro.saitama.jp