《本連載の著者紹介》
宮代町 教育推進課 生涯学習・スポーツ振興担当
伊藤 遼平 いとう りょうへい
1991年生まれ。2014年FC東京(東京フットボールクラブ株式会社)へ就職。同クラブバレーボールチームに所属。2017年宮代町へ入庁。2部署目となる子育て支援課で、子育て支援センター・児童館の担当となり、地域の親子イベントにプロスポーツチームや選手と連携した「スポーツ×社会課題解決」型事業を多数企画。「地方公務員が本当にすごい! と思う地方公務員アワード2021」受賞。プライベートでは、子育て中のパパ。バレーボールトップリーグのコーチ経験を活かしたイベント講師や「スポーツ×社会課題解決」をテーマにした講演など〈スポーツ系公務員〉として活動を行う。〈連絡先〉ito626@town.miyashiro.saitama.jp
前編 に引き続き、地域課題解決における「eスポーツがもつチカラ」について“スポーツ系公務員”こと宮代町(埼玉)職員・伊藤遼平さんが迫ります。太田市役所 eスポーツ部と、同部とコラボしたSUBARU eモータースポーツ部のメンバーに、コラボにいたった熱いストーリーや想い等を聞きます。そこから見えてきた「eスポーツ×自治体」の可能性とは?
e スポーツの未来と可能性前編 でも述べましたが、eスポーツの特徴は、ゲーム環境さえ整えば同じ場所にいなくともオンラインで誰とでも遊べることがあります。性別をはじめ、年齢や障がい、たとえばカーレースのeスポーツならリアルでの免許のある・なしも超えて、他のスポーツと同じように競い合ったり一緒に楽しむことができます。 こうした、オンライン上で形成される多様性を認め合う共生社会は現実のコミュニティにも影響を与え、社会課題解決の一助 になるのではないか―。太田市役所eスポーツ部のイベントレポートの数々を見てそう感じた私は、太田市eスポーツ部の佐藤 義恒さん、同部とコラボしている株式会社SUBARU(以下、SUBARU) eモータースポーツ部の久保田 博之さんのおふたりに「eスポーツの未来と可能性」についてお伺いしました。
地域課題とe スポーツ ◎ものづくりの町・太田市職員の想い(佐藤さん) 太田市役所 eスポーツ部
太田市 福祉こども部 長寿あんしん課
佐藤 義恒 さとうよしひろ
敬老事業や権利擁護業務のほか、本年度からシニアeスポーツ推進事業に携わる。2020年、太田市役所eスポーツ部を立ち上げる。現在は45名所属。部では監督を務めつつ大会等に出場。PUBGMOBILE企業対抗戦では全国7位、グランツーリスモ異業種交流戦では群馬県1位にも輝く。入職14年目。
太田市はSUBARUを代表とした「ものづくりの町」。経済産業省が公表した「令和3年経済センサス-活動調査 製造業(地域別統計表データ)」を基に集計した太田市の調べによれば、製造品の出荷額は群馬県内ではダントツの 1位(北関東1位)、関東では4位、日本全国でも13位です。 しかし、一見、自動車産業を中心に経済的にも豊かにみえる太田市ですが、新型コロナウイルスの影響や環境に配慮した電気自動車製造への産業シフトなどに加えて、少子高齢化による働き手の不足などが重なり、地域企業から困りごとの相談が多く寄せられるようになりました。 太田市で働いている方の多くが自動車関連企業に勤めていると言われる地域で、操作も非常に簡単で子どもたちからシニアまで取り組みやすいeモータースポーツなら、世代を超えた活動になる のではないかと感じました。 また、ゲームで使う車にはSUBARU車を使うことで、太田市内外にスバリスト(SUBARUのファンのこと)を増やし、SUBARUを応援することに繋がります。そこで、SUBARUさんのeモータースポーツ部との連携を目指しました。
左の表は太田市のホームページ(太田市の工業(工業統計・経済センサス調査結果)ー製造品出荷額等の全国順位(拡大版)) より抜粋し加工
◎SUBARUの想い(久保田さん) 久保田 博之 くぼた ひろゆき
群馬県太田市出身。株式会社SUBARUで技術本部に所属。新型車の性能開発取りまとめを担当。趣味のeモータースポーツでは、社内外の交流を積極的に行なっている。
年齢や立場も関係なく、みんなが同じ車種に乗って、同じコースを走って、レースができる。こんなリアルではあり得ないことが、バーチャルだとできてしまう。eスポーツのいちばんの可能性をそこに感じています。たとえば、60歳を超える高齢者と8歳の小学生が、同じコースでレースをし、楽しく競い合う。こんな現実ではあり得ないことがeスポーツならできます。 無数にある車の部品をつくる過程において、人と人とのつながりはとても重要です。太田市は自動車産業の関係者が非常に多く、何かしらの仕事で繋がることが多いと思います。私自身も太田市出身で、実は母と祖父もSUBARU(当時は富士重工業)の社員だったので、将来は絶対SUBARUに入ろうと思っていました。職場では私の幼い頃を知っている人も多くいて、一緒に仕事をすることもあるので、とても貴重なつながりだと思っています。 地域には自動車関連企業で働いていたOBの方々が、数多く暮らしているので、そんな方たちがお孫さんや地域の子どもたちに「この車はこうやって走るんだよ」などと教える―。こんな3世代交流のきっかけをつくるチカラがeモータースポーツにはあります。世代を超えた交流が盛んになれば、太田市の原動力のひとつにもなる のではないでしょうか。この景色に新たな可能性を感じています。 「モノをつくる会社から、笑顔をつくる会社へ」を標ぼうしているSUBARUとしても、こんな幸せな光景はありません。 子どもから高齢者の方まで、eモータースポーツをしている人、これからする可能性がある人たちの裾野は、 免許を持っている人の割合とは全然比べ物にならないぐらい広いと思います。地域やブランドの価値を高めていく過程でSUBARU自体を好きになってもらい、SUBARUのファンを増やすことが重要になっています。eモータースポーツを通じてSUBARUを知ってもらい、車の魅力を感じていただくことができれば、SUBARUファンの増加に寄与すると思っています。
地域やブランドの価値を高めていく過程でファンになってもらいたい!
生涯学習としての可能性 高齢者の活動傾向についての最近の分析では、パソコン教室やスマホ教室、SNS講座などのデジタル系が急激に人気になっているそうです。他の年代で行う市民講座でもデジタルニーズは高まっています。こうしたことから、eスポーツと生涯学習の相性は良い、と言えそうです。太田市役所eスポーツ部の佐藤さんも、eスポーツが市で行うプログラミング教室や、サインエンスアカデミーなどの事業と並ぶ日をひとつの目標にしているそうです。 両者の活動は、市の業務、会社の業務としてではなく、お互い部活動。つまり、「地域の一員」として活動が開始したことが特徴的ですが、今や社会課題の解決方法のひとつ となりつつあります。
ミライへ広がる夢 続いて、おふたりにeスポーツの魅力をおうかがいしました。
◎SUBARU 久保田さん eスポーツなら、子どもとおじいちゃんとの共演、高齢者も障害者も混じり3世代が一緒にできる。現実の車ではできないことが、できる。やりやすい。そこが1番の魅力だと思います。
太田市のシニアeスポーツ講座の様子。太田市のホームページ「シニアeスポーツ、始めました!」 より
「気軽にできる」という点もいいところ。例えば、それぞれの自宅で、オンラインで繋がり、仕事とか関係なく会話をしながらゲームを一緒に楽しむ。そういう社会人交流がじっくりできます。そういうスポーツって滅多にない と思います。 一方で、eモータースポーツの競技に参加するときは、1/1000秒を削るような努力をして相手と戦うような熱さもあります。 eスポーツがもっと身近になり、SUBARUを好きになってくれる人が増え、さらに若い人や子どもたちには将来を考える際に車産業に興味を持ってもらえるきっかけになったらうれしいですね。
◎太田市 佐藤さん よくぞ聞いていただいたって感じですが、太田市に、この6月に「OPEN HOUSE ARENA OTA(オープンハウスアリーナ太田)」という、国内最大級の4面ディスプレイがあり、日本一こだわったと自負する照明とレイアウトと音響がある最新鋭の運動施設が誕生しました。 バスケットボールBリーグの群馬クレインサンダーズ が拠点として使用するほか、設計段階からeスポーツで使うことも計画しており、地方創生事業の核となる施設 です。今後、ここで「SUBARU車限定のeモータースポーツ大会」を開催し、将来的には世界大会も開催できたら、と願っています。
太田市運動公園内にある「オープンハウスアリーナ太田」のサイトトップページ
また、今年の秋に太田市でもっとも大きなスポーツイベント「太田スポーツ・レクリエーション祭(スポレク)」があり、そこもSUBARU車のeモータースポーツイベントを市内の企業や学校なども巻き込んで開催し、地域の方々に楽しんでもらえるイベントにしたいです!
「見て・食べて・遊べる」イベントが開催されるスポーツの祭典「太田スポーツ・レクリエーション祭」のサイトトップページ 。今年は10月21日(土曜日)~22日(日曜日)の両日、太田市運動公園で開催。運動公園内全施設や仮設ステージを利用して、さまざまなイベントが行われるほか、太田市と交流のある物産市や模擬店なども出店
今回のまとめ~ 行政改革に繋がるコンテンツ前後編にわたり、太田市とSUBARUのeスポーツの取組についてご紹介いたしました。世代の垣根や、官と民の垣根、あるいは将来的に自治体間の垣根などを、eスポーツならさまざまな障壁を越えてコミュニティを広げていける。すごく前向きで、未来に向けて加速して走る夢と可能性がある活動でした。 太田市役所eスポーツ部の佐藤さんが「eスポーツ×自治体」を考えるようになったきっかけや背景には次のようなことがあったそうです。社会課題①~高齢者の認知症予防 〈背景〉コロナ対策の要因により、「お家時間」が推奨され、外出自粛などで起こったのが、認知症と相談件数の増加。太田市内にある地域包括支援センターのうち、1か所ではコロナ前は月約100件だった相談件数が、約200数十件と倍以上になり、それに伴い必要となる社会保障費も増加している。社会課題②~コロナによる経済ダメージ 〈背景〉直面する地域産業振興の課題と併せ、都市部への人材流出など将来的な課題も存在する。社会課題③~地域コミュニティの希薄化 〈背景〉人と顔を合わせることが憚られた時代により、世代を超えて交流することが減ってしまった。 こうした地域課題を解決する手段として、eスポーツ活用に着目したのです。 今日の行政課題と照らし合わせると、たとえば各種講座のマンネリ化防止や公共施設の利用者や会員の減少への対策としてeスポーツを取り入れるのは、比較的、ハードルが低いのではないでしょうか。実際、認知症予防にeスポーツを取り入れる自治体は増えており、そのほかさまざまな行政改革に繋がるコンテンツになる可能性をeスポーツは秘めています 。
「eスポーツ×自治体」には大きな可能性!
車産業に携わり高齢者となった企業OBの方々等が、子どもや孫と一緒にeモータースポーツで遊ぶ。そして、お気に入りのSUBARU車を選び、3世代が同じコースで白熱したレースを繰り広げる―。モニター越しに多様な人々の笑顔が広がる素敵な地域・太田市に今後も要注目です。(続く)
◎お知らせ◎ 太田市役所eスポーツ部では自治体eスポーツ部のコミュニティを拡充中。オンライン交流会で意見交換やオフ会なども開催しています。参加希望の自治体があれば、部公式X(旧・ツイッター)にDMを!
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