国産材の特徴と価格傾向~製材・集成材・LVL材・CLT材
安価に入手できる一般流通材の樹種別(杉・桧・唐松)の特徴は前回でお伝えしました。
(参照記事:低価格な「“国産”一般流通材」を使う~前編)
今回はさらに踏み込んで、国産材である4つの材種(製材・集成材・LVL材・CLT材)の特徴と価格傾向などについてお伝えします。
製材
最初は一般になじみがある製材(下写真)からご紹介します。製材は伐採した木を角材や板材に加工したもので、長さ4m(但し、通し柱材は6m)までが低コスト材の一つの目安です。
これは日本の住宅居室のほとんどが短辺4m以内の居室(リビングルームであっても)であり、それに合わせて製材の加工システムが成り立っているからです。
4m製材は伐採してすぐに丸太の状態で必要な長さにカットします。これは急峻な日本の林道において運搬が容易だからです。
一方、通し柱が6mなのは、①1~2階を貫通させて柱を建てるとその長さが必要であるため、②住宅用柱のような小さな断面の正角材は樹木が大径木に育っていなくても供給が可能なため―です。
集成材
集成材(下写真)の場合は、製材と違い厚さ3cmのラミナ材を接着加工しますので木材の発育による制約が製材ほどありません。よって、加工システムの一般流通材用の長さである6m材まで比較的安価に手に入ります。
LVL材
LVL材(下写真)は、縦方向に薄く積層接着した材であり、これも集成材と同様に6m材まで比較的安価に手に入ります。
CLT材
CLT材(下写真)については、柱や梁の形状ではなく、どちらかと言うと壁形状の繊維方向が直交するように積層接着した巨大な木質系材料です。事例も増えてきましたが、まだ価格的には割高な材料になります。
まとめると、比較的安価に入手できる国産材は、製材で4m(一部6m)、集成材やLVL材でも6mまで、ということになります。用途や目的によってはCLT材も国産材として公共木造化に応用できます。
6mを超える居室への対応
しかし、公共施設は住宅と違い居室に大人数が集まることから、住宅よりも大きく、一般流通材では対応が難しい、一辺が6m超の大きい部屋が必要になります。
たとえば、幼稚園や保育園の保育室で50平方m台、小中学校の教室では60平方m台の居室が必要です。さらに集会や研修等を行う大会議室や幼稚園・保育園の遊戯室では200平方m前後の居室が必要になったりします。
使用形態から大きい部屋が必要なだけでなく、視認性を妨げたり、園児等の衝突の危険性から、部屋内に柱を設けることも敬遠されます。そのため、公共木造化にあたっては、柱のない広い木造空間をつくれる構法や材の採用が不可欠となります。
この大きい居室について、保育室であれば、よく使われる縦横長さが8m×7mの56平方mの部屋を9m×6mの54平方mに変えることにより、多少長い部屋になりますが、一般流通材の使用が可能になります。現に杉戸町でも実践してきました。
しかし、学校の教室や遊戯室クラスの大きさになってくると、縦横比が極端になることから一般流通材を使用して短辺を6m以内に納めることは現実的ではありません。
また、縦横比を考慮して、短辺が10m前後の部屋を設けた場合には、建築基準法告示基準により最低でも約80cm台の特注の梁せい材が必要になります。杉戸町では、泉保育園でその方法を実施したことがあります(下写真)。
公共施設に不可欠な大空間を低コストでつくる構法
ところが、木材の量が少なくなり、一般流通材が使用しやすくなる方法もあります。
実際、杉戸町では三角形の連続体による架構方法である「平面トラス」(下写真①)や「立体トラス」(下写真②)、梁を上下に重ね合わせることによる「重ね梁」(下写真③)、屋根の勾配に合わせて集成材を架ける「登り梁」などの構法も採用することで公共木造の低コスト化を図りました(「トラス工法」と「重ね梁」の説明は後述します)。
トラス構法は細い木材を複雑に組み合わせる構法で、一般流通材が使用可能になります。一方で、木材の端部加工には大工による手刻みが一般的で、その場合、木材は安く済んでも加工費が高くなります。杉戸町が一番最初に実施した公共施設木造化の事例である中央幼稚園遊戯棟(上写真①)も端部は手刻みで実施しました。
それが最近では外国製の高性能なプレカット加工機(下写真)の導入によりトラスの端部の様な複雑な角度のついた加工も可能になりました。これにより材料も加工賃も低コスト化が図られています。
「重ね梁」は木材を上下に組み合わせる構法で、木材ひとつ辺りの高さを少なくできます。そのため、流通材対応を可能にしています(下図)。
そして木造の場合、準耐火建築物や木造2階建ての2階床の梁など一般流通材では対応しにくい場所もありますが、使えるところに使用していくことが安価に抑えるコツです。
木材産地選びのポイント
木材の産地についても注意点があります。木材は産地条件を狭めれば狭めるほど希望する材の入手が困難になり、価格が上昇する傾向にあります。
ですから、公共施設を木造化する際は地元の木で建設するのが理想ですが、時には「該当都道府県産材」指定を「隣接都道府県産材」を可能としたり、場合によっては一部外国産材なども取り入れるとコストを抑制できたりします。
杉戸町も、補助金等の条件になっていない施設で構造材の一部に米松(北米産材)を使用した事例があります。
6つの“コツ”
前編と今回の後編にわけてお伝えした、低価格な公共木造化を実現するコツをまとめると、以下のようになります。
①極力、住宅用一般流通材で架構計画を立てる
②製材と集成材等を適材適所で使い分けを行う
③杉、桧、唐松などの材種の使い分けを行う
④4面節無し材などの割高材にこだわらない
⑤公共施設に必要な大きな居室には、トラスや重ね梁等の架構構法を検討し、一般流通材の使用を模索する
⑥100%地域材や100%国産材など全ての木材を地産にこだわらないで可能な範囲で地域材を使用する
このようなことを実践していくと比較的安価に公共施設の木造化計画が可能になってくると思います。
(「全体の7割を越える『木構造部分』以外のコストカット法」に続く)
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本連載「従来工法より低コスト~杉戸町の『公共施設木造化』実践ノウハウ」のバックナンバー
第1回:林業なき“まち”が証明した「公共木造は低コスト」
第2回:低価格な「“国産”一般流通材」を使うコツ~前編
渡辺 景己(わたなべ かげき)さんのプロフィール
前橋工科大学建築学科卒。鶴ヶ島市(埼玉)職員を経て、前橋工科大学に入学し建築を学び、杉戸町(同)の職員に。現在、建築課主幹。一級建築士、一級管工事施工管理技士、第二種電気工事士など建築系の幅広い資格を取得。木造については設計・施工ともに経験があり、埼玉県木造建築技術アドバイザーとして他自治体への講師も務める。
<連絡先>
電話: 0480-33-1111 (杉戸町役場)