可能な限り「安価な汎用品」を
前回、公共施設を木造で建設する場合の木材や木構造についての価格や特性、工夫点などについて説明してきました。
(参照記事:低価格な「“国産”一般流通材」を使うコツ~後編)
しかしながら、木造公共施設を低コストで実施する場合、“木の部分”つまり木構造部分だけを頑張って工夫しても限界があります。なぜなら、木構造部分は全体工事費の2~3割程度しかないからです。
そのため、木造公共施設の低コスト化を図る場合は他の7~8割を占めるその他の工種も含めて徹底的にコストの見直しを図る必要があります。
基本的な考え方は木質材料と同じです。いかにして大量生産・大量供給している住宅用の汎用品を使えるか検討する、ということです
(参照記事:低価格な「“国産”一般流通材」を使う~前編)
汎用品を使用できる部分は、たとえばアルミサッシや内外装品など多岐に渡ります。
但し、木造公共施設は住宅より施設規模が大きい場合がほとんどであるため、汎用品では法的に使用できない部分や耐久性の面から使用できない部分も出てきます。面倒ですが部分毎に検討し、判断されることが良いと思います。
また、住宅用建材は決まったグリッド(建物を設計する際の基準となる格子状の線)やモジュール(基準寸法・単位)で生産されています。その住宅用のモジュールを可能な限り順守することが効率よく切り無駄などの少ない施工を可能にします。
「コスト感覚」は
最近の公共工事の現場管理を行っていると施工者のコスト感覚はたいへん厳格であり、学ぶべき点が多くあります。
施工者の現場監督さんは契約額において利益を上げるように会社より言われて現場を担当しています。工事入札額決定時に関わっていない監督さんもいますが、それでも利益を上げないといけません。
そうなってくると、あらかじめ設計仕様は決まっているものの施工中にありとあらゆる建材や施工方法について、提案をしてきます。その提案をその現場の工事だけで終わらせることなく、良いものであれば次回の設計計画に活かすようにノウハウを蓄積することが大事です。
例えば、木造公共施設というと構造本体も下地材も内外装材も極力木材を使用して建てるというイメージがあるかと思います。しかし、杉戸町では過去の施工者の提案を活かして壁下地材や天井下地材を軽量鉄骨で実施している施設もあります。その方が低コストで施工も早い場合があります。
一方、設計者は自分の考えに基づき良いものを残したい、具現化したいという考えがあります。そのため時には想定事業費を大幅に超えることも少なからずあります。その施設の地域におけるシンボル性や総事業費、事業における各関係者とよく調整して最適な方向性を導き出す必要があると思います。
「維持管理費」を最適化するコツ
木造公共施設を普及させていくためにはイニシャルコストだけでなくランニングコストにも目を配らなければなりません。杉戸町の場合も、町の置かれている財政状況からそれほど維持管理費に予算をかけることができません。そのような視点で考えると設計事務所に任せきりではなく、行政の担当者が“自分のこと”と捉えてランニングコストを低減しやすい手法を設計者と一緒に考えたり、提言したりしなければなりません。
ランニングコストの低減を図るため、過去の他市町村施設への視察等を通して、杉戸町では外壁への木材使用を極力控えています。これは、やはり紫外線や風雨により木材が劣化するからです。適切な交換時期に予算化されて交換できれば良いのですが、予算の都合で部材を交換できないと施設全体を痛めてしまうおそれがあります。
杉戸町の木造公共施設で、唯一、外部で木材を表しで使用してきた部分は、ポーチやテラスの柱、桁など比較的雨や直射日光を受けにくい場所です。それでも塗料の選択を誤るとすぐに劣化し、再塗装が必要になったりするので注意が必要です。
また、可動建具に県産無垢材を使用した施設では建具同士が反りにより干渉してしまった事例もあります。木材の乾燥の重要性を感じられます。
これらの点に注意すれば、木構造の採用と内装の木質化について、「規定値以下の乾燥材を使用すると木造は維持管理費が掛かる」という不安要素は払拭できるのではないかと考えています。
ちなみに、杉戸町では木促法(公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律、平成22年法律第36号)の実施に合わせて最初に建設した木造幼稚園が完成から10年目を迎えます。9年目の施設もあります。両施設とも上記の不具合を除いて他の不具合報告を受けていません。
「法規制」の2大ポイント
そもそも、日本は江戸時代やそれ以前から木の建物の文化を育んできた国です。お城も寺社仏閣も街の建物もそのほとんどが木造でした。
それが近代になって鉄筋コンクリート造や鉄骨造が外国から入ってきました。そして、太平洋戦争や伊勢湾台風を経て防火、耐風水害のための日本建築学会総会「建築防災に関する決議」、いわゆる木造禁止決議がなされ、住宅以外の木造建築はほとんど建設されなくなりました。
これは、戦時中にたくさんの木造の建物が火災に巻き込まれて消失したことや伊勢湾台風時の木造建築の災害に関係しています。
また、それ以前にも日本は関東大震災や各地域での大火により幾度となく街を消失してきました。そのようなことから公共施設に木造を選択することが控えられてきた時代がありました。
それが第2回でご説明した通り、日本の森林蓄積量の問題や建物が環境に与える負荷等の問題から木造建築に対する考え方が見直されて来ました。
(参照記事:低価格な「“国産”一般流通材」を使う~前編)
また、耐火木造など木造建築物の新しい技術進歩などにより建物や火災の特性を正しく理解して使用する方向に変わってきました。
一方で、公共施設など住宅以外の建物を木造で建設する場合には、施設規模も大きくなることから気を付けなければならない法的な注意点が何点かあります。
これらの基準は、一般社団法人 木を活かす建築推進協議会が出版している冊子『ここまでできる木造建築のすすめ』(下写真参照)にわかりやすくまとめられています。
ここでは2つの基本的な法的注意点を挙げておきます。
ひとつ目は、都市計画区域等における防火地域、準防火地域、建築基準法22条区域(防火地域および準防火地域以外の市街地について指定する区域)の取り扱いです。この区域内では、他の区域よりも火災に対する基準が厳しくなります。
ふたつ目は、規模や用途に対する規制です。建物が大きくなるほど厳しくなります。また、用途として特殊建築物などの不特定多数の利用者が想定される施設は基準が厳しくなります。
その結果、公共木造施設は法的な基準をクリアしやすい1,000平方メートル以下や3,000平方メートル以下におさめた施設や1,000平方メートル以内に区画分けしたケースがよく見受けられます。
(「担当者の役割」と「プロポーザルの注意点」に続く)
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本連載「従来工法より低コスト~杉戸町の『公共施設木造化』実践ノウハウ」のバックナンバー
第1回:林業なき“まち”が証明した「公共木造は低コスト」
第2回:低価格な「“国産”一般流通材」を使うコツ~前編
第3回:低価格な「“国産”一般流通材」を使うコツ~後編
渡辺 景己(わたなべ かげき)さんのプロフィール
前橋工科大学建築学科卒。鶴ヶ島市(埼玉)職員を経て、前橋工科大学に入学し建築を学び、杉戸町(同)の職員に。現在、建築課主幹。一級建築士、一級管工事施工管理技士、第二種電気工事士など建築系の幅広い資格を取得。木造については設計・施工ともに経験があり、埼玉県木造建築技術アドバイザーとして他自治体への講師も務める。
<連絡先>
電話: 0480-33-1111 (杉戸町役場)