【自治体通信Online 寄稿記事】
これからの時代の公務員が「幸せ」になる働き方 #4(さいたま市職員・島田正樹)
前回(#3)に続き、今回も「上司シリーズ」です。前回は上司との人間関係について取り上げましたが、今回は「新しい企画を認めてもらう」という具体的な場面のことを考えます。
「我ながらいい企画!」と思ったのに
上司に何かを提案してそれを了解してもらう。
多くの職場で経験する仕事ではないでしょうか。担当業務について回答する調書、出張の行程、会議で使用する資料、課員の夏休み取得予定の管理…。改めて日々の業務を思い返してみると、上司に了解を求める場面はいろいろとありますよね。
今回は、ひとつの例として「新しい企画を認めてもらう」場面を取り上げて、上司の了解を得るためのちょっとした知恵について皆さんと考えていけたらと思います。
・住民のメリットが大きい
・予算がなくても実施可能
・関係者の感触も良好
「我ながらいい企画を考えた」と思って上司に説明したら、賛同してもらえるどころか目の前の上司はなぜか腕組みしながら渋い顔をしています。
企画を考えた担当者としては「え? なんで?」と思う場面。
結局、その場では上司のゴーサインは得られず、何点か指摘事項について検討したうえで、再度説明の機会をもらうことに。
「なんだよ、うちの上司は頭が固いな。こんなにいい企画なのに」
そんな風に考えてしまうかもしれません。
でも、果たして本当にそうなのでしょうか。
「いい企画を考えた私vs頭の固い上司」ってホント?
仕事の中で「こんな取組をした方がいいのでは」と資料を作成し、「やりましょうよ!」と上司に説明して了解を求めることがあります。前項で書いたのは、そういう場面です。
企画について説明を聞いた上司がすんなり了解してくれればいいのですが、そんなに簡単なケースばかりではありませんよね。
「なんだよ、うちの上司は頭が固いな。こんなにいい企画なのに」と愚痴を吐きたくなるようなケースもあるでしょう。
そのときに自分と上司の関係を「いい企画を考えた私」と「頭の固い上司」と捉えると思うように前に進めなくなります。
このケースでは、互いの価値観の違いを意識せずに、「自分の価値観」の中で企画の内容だけを修正しても恐らく上司の了解が得られるものにはならないでしょう。
実際には企画を実現したい担当者の考えも、それにストップをかける上司の考えも、どちらもお互いの価値観に照らせば合理的だから厄介なのです。
「正しい自分と頭の固い上司」という関係性を変える
こんな時は互いの価値観の間に「橋を架ける」ことが必要だと、埼玉大学大学院・宇田川元一教授は著書『他者と働く』(NewsPicksパブリッシング)の中で説いています※。
※同書においては正確には「ナラティブの溝に橋を架ける」という表現をしていますが、本稿においては「ナラティブ=経験から築かれた個人の価値観」と言っても差し支えないと判断しました。
「橋を架ける」というのは、かみ砕いて表現すれば「いい企画を考えた私」と「頭の固い上司」(と思い込んでいる)という関係から、新しい関係(例:よりよい企画を一緒につくろうとする関係)を築くということです。
同書では橋を架ける手順を以下のとおり示しています(下図参照。一部、この記事に合わせて用語を変更しています)。
例えば③では、説明した企画が上司の価値観の側からどう見えるか考えます。今回の例では、上司の価値観からはこんなふうに見えているかもしれません(下図参照)。
①~④の手順で「正しい自分と頭の固い上司」という関係性から、例えば「一緒に課題解決と課の目標達成が整合する方法を考える仲間」という関係性になることを目指します。
ただし、『他者と働く』にもありますが、橋を架ける作業は簡単には成功しません。いい橋が架かるまで、①~④を繰り返すことが必要です。
企画を実現したいのか、課題を解決したいのか
最後にちょっと視点を変えて、そもそも上司の承認を得ようとする前にできることについて考えてみたいと思います。
いい企画を思いつくと、私たちは「どうしたらこの企画を実現できるか」という考えに囚われてしまうことがあります。これは「企画優先」な状態です。
でも、その企画には、当初の目的があったはずです。
それは「住民同士のつながりをつくること」かもしれないし、「施設の利用者数増加」かもしれないし、「家庭からのゴミの削減」かもしれません。
私たちは、本来目的達成のための手段として取組とそれを実行するための企画を考えて、上司の了解を得ようするわけですよね。企画について上司の理解を得るのは、何かしら解決したい課題があるからです。
その目的を真っ先に上司と共有し、合意しておくのが、このような価値観の違いによるコンフリクト(衝突)を避けるためには有効です。できれば方針や条件についても大枠で共有できていると、企画を考える際の負担も軽減されます。
「どうしたらこの目的(+方針・条件)を達成できるか」を第一に考える「目的優先」の視点で手段としての企画を考え、作業途中で上司に相談しながら内容の妥当性や改善点などのフィードバックをもらえば、その過程で上司の価値観も取り入れることができます。
そうすれば上司を「クリアしなければならない障壁」と考えるのではなく、よりよい企画にするために力を貸してくれる味方という関係が築けるのではないでしょうか。
【参考文献】他者と働く(宇田川元一、株式会社ニューズピックス)
(「職場の前例踏襲主義にヤキモキしたら」に続く)
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島田 正樹(しまだ まさき)さんのプロフィール
2005年、さいたま市役所に入庁。内閣府・内閣官房派遣中に技師としてのキャリアに悩んだ経験から、業務外で公務員のキャリア自律を支援する活動をはじめる。それがきっかけとなり、NPO法人 二枚目の名刺への参画、地域コミュニティの活動、ワークショップデザイナーなど、「公務員ポートフォリオワーカー」として、パラレルキャリアに精力的に取り組む。
また、これらの活動や、公務員としての働き方などについてnote「島田正樹|公務員ポートフォリオワーカー」で発信するとともに、地方自治体の研修や「自治体総合フェア」等イベントでの講演を行う。2021年に国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得し、個別のキャリア相談にも対応している。
『月刊ガバナンス』(ぎょうせい)や『公務員試験受験ジャーナル』(実務教育出版)をはじめ、雑誌やウェブメディア等への寄稿実績多数。ミッションは「個人のWill(やりたい)を資源に、よりよい社会・地域を実現する」。目標はフリーランスの公務員になること。
2021年2月に『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)を刊行。
<連絡先>shimada10708@gmail.com