【自治体通信Online 寄稿記事】
自治体職員のための心の運転方法 #10(寝屋川市 職員・岡元 譲史)
寝屋川市(大阪)職員の岡元 譲史さんが滞納整理というハードな仕事を通じて得た経験、気づきなどをシェアする本連載。今回は人事異動の季節に覚えておきたい心得。まったく畑違いの部署に配属されることも珍しくない公務員にとっての異動は「別会社への転職」ほどのインパクトがある場合も。どうすれば“激震”を乗り切れる!?
新年度の前後に突如現れる“暴れ馬”
「心を乗り物に例えて、その運転方法を共に学ぼう」というシリーズ連載、『自治体職員のための心の運転方法』。今回が、記念すべき第10回目となります! 有り難うございます。
いやはや、しかしながら大変ご無沙汰しておりました。「2月は逃げる」「3月は去る」と言いますが、本当にアッという間で、前回から気付けば1月半が経過しておりました(汗)
自治体通信オンラインの皆様は本当に寛大で、なかなか原稿を出さない私に何の文句もなく、待ってくれて、そしていつも、自由に書かせてくださいます。おかげ様でこうして、怠惰な僕でも連載第10回を迎えることができました。改めて、御礼申し上げます。
突然ですが、記念すべき第10回目に取り上げる心の乗り物は”馬”。そう、馬です(笑)
この馬、3月頃になると颯爽と現れるんですね。しかも、なかなか言うことを聞かない暴れ馬で有名でして、これまでこの馬のおかげで何人もの心の負傷者が出ました。僕も過去、振り落とされて痛い目を見ています。
しかし、乗りこなすことができれば、名馬だったりもします。あなたにとって大きな力となり、行きたい場所に連れて行ってくれる、そんな馬。さて、この暴れ馬の正体は一体なんでしょう?
そう、正解は『人事異動』です。
3月後半から4月にかけてのこの時期、全国の自治体において非常にホットとなるキーワード、「人事異動」。今回はこれをテーマに、心の運転方法を学びましょう。
人『事』万事、塞翁が馬
まずは、「人事異動」というものに対する私の考え方、スタンスをお示しします。それが、
『人“事”万事、塞翁が馬』
というもの(「オイオイ、どれだけ馬が好きなんだよ!」というツッコミは想定内です)。
皆さんは『人間万事、塞翁が馬』という故事成語をご存知でしょうか?
ご存知の方には、既に僕がお伝えしたいことは99%伝わっているかと思いますが、「知らないよ」という方のために、この故事成語について簡単に解説しましょう。
――昔、中国の北端、国境の「塞(とりで)」の近くに、占いが得意な「翁(老人)」が住んでいました。
あるとき、彼の飼っていた馬が逃げてしまったので、みんなが同情しましたが、彼は「これは幸運が訪れる印だよ」と言います。
そして、そのとおり、逃げた馬は立派な馬を連れて帰ってきました。そこでみんなが祝福すると、今度は「これは不運の兆しだ」と言います。
実際、しばらくすると彼の息子がその馬から落ち、足の骨を折ってしまったのです。またみんなが同情すると、彼の答えは、「これは幸運の前触れだ」。
息子はその怪我のおかげで、戦争に行かずにすんだのでした――。
このことから、『人間万事、塞翁が馬』とは、
「一見、不運に思えたことが幸運につながったり、その逆だったりすることのたとえ。幸運か不運かは容易に判断しがたい」
ということを指します。
僕自身も4年前、12年間続けた滞納整理の仕事から企画部門に移ってエースからポンコツに成り下がり、苦渋を嘗め尽くした人間です。人事異動には、ほろ苦い記憶があります。
しかしながら、辛く苦しい思いをしたからこそ、同じく辛い人の気持ちに寄り添えたり、今後、公務員を目指す学生に対して「こういうこともあるから気を付けてね」とアドバイスができたりしているわけで、そう考えると、「あの人事も自分の人生にとっては必要だったのかな」と4年経った今、ようやく前向きに捉えることができています。
そんな自戒も込めて「人間万事」改め「人“事”万事、塞翁が馬」ということをお伝えしたいと思います。
「その人事が良いのかどうかは、軽々にはできない」というのが私の基本的なスタンスです。この春、異動があった方もなかった方も、「人“事”万事、塞翁が馬」と捉えて、様々な側面がある中でも、良い面にフォーカスして頂きたいと思います。
暴れ馬を乗りこなすための”手綱”を手に入れる
その上で、「じゃあ、どうやって暴れ馬を乗りこなすの?」ということなんですが、最近、オススメの本が出版されたので紹介しますね。
それが、群馬県伊勢崎市役所でまさに今、人事行政に携わっている岡田淳志さんが執筆された『公務員が人事異動に悩んだら読む本』(学陽書房)です。
まさにズバリのタイミングで出版され、内容の良さも相まってAmazonランキングジャンル別1位も獲得された良書。僕も読みましたが、岡田さんは国家資格である「キャリアコンサルタント」を取得されていることもあり、人材育成に関する様々な理論を骨格として、実際の人事行政での経験が肉付けされており、まさに人事異動で悩んでいる人には最適な一冊と言えるのではないでしょうか。
詳細は是非、購読してもらえたらと思いますが、同書の中から僕が特に重要だなと思った言葉と考え方を紹介しておきます。
それは『最初から面白い仕事があるのではなく、仕事は自分が面白く感じられるように変えていくもの』ということ。
この言葉は、専門用語で「ジョブ・クラフティング」という考え方に基づくもので、クラフティングというのは、「手作り」という意味。つまり、「自ら仕事を創り上げていく」姿勢が大切というわけですね。
業務内容が多岐にわたり、数年毎にいきなり「はじめまして」の仕事に携わることも多い自治体職員の世界において、必須の考え方ではないかと感じました。
こうした考え方や物事の捉え方は、いわば”手綱”のようなもので、人事異動という暴れ馬を乗りこなすにあたって非常に重宝します。「手綱がなくとも乗りこなせる!」という強者は別として、落馬して痛い思いをしたくない方にはご一読をおすすめします。
今回のまとめ
以上、今回は人事異動をテーマに扱ってみました。
多種多様・千差万別な業種が存在する自治体現場における人事異動は、もはや「転職」といって差し支えありません。「これまでの経験がまったく役に立たない!」と感じることもあるでしょう。そんな中であっても前を向いてパフォーマンスを発揮していくにあたり必要なことを、“馬”を軸にして語ってみました。
今回のお話を参考に、これから何度も訪れるであろう人事異動を、“ウマ”く乗り切ってください!
最後をダジャレで締めるような、こんな自由な連載にお付き合い頂きまして、本当に有り難うございます。今年度もこの調子で続けていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
(「《“複利の効果”で大きな成長を》1%でいい。心の性能を少しずつ改善しよう」に続く)
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岡元 譲史(おかもと じょうじ)さんのプロフィール
寝屋川市(大阪)経営企画部 企画三課 広報編集長
1983年生まれ。2006年に同市入庁後、12年間にわたり、様々な債権の滞納整理に従事し、市税滞納額70%(約25億円)削減に貢献。2022年より現職。
「滞納整理に価値を見出して伝えることで、受講者の不安や葛藤を取り除く」という独自スタイルによる研修を全国で実施し、6年間で延べ3,700人が参加。受講者が給食費の滞納ゼロを達成するなど、すぐに使えて再現性の高いノウハウを伝えている。
執筆に「滞納整理のための空地・空家対策」(『税』2018年2月号)など。
「地方公務員が本当にすごい! と思う地方公務員アワード2018」受賞。
プライベートでは2男児の父。PTA会長を務めるなど地域の活動も行う。
2021年5月21日に『現場のプロがやさしく書いた 自治体の滞納整理術』(学陽書房)を刊行。同書の印税は「全額、寝屋川市の発展のために使う」としている。
<連絡先>okamoto.joji@city.neyagawa.osaka.jp