【自治体通信Online 自治体レポート】
インパクト大で地域も活性化する新しい取り組み
自治体がプロ野球球団とコラボし“冠ナイター”を実施―。こんな珍しい取り組みに丹波篠山市(兵庫県)が力を入れています。地元出身選手の応援とシティセールスを融合させたこの独自の取り組みの内容や効果などをお伝えします。
きっかけは地元初のプロ野球ドラフト選手誕生
丹波篠山市がコラボしているのは千葉市(千葉県)に本拠地を置く千葉ロッテマリーンズ(以下、マリーンズ)。マリーンズのホームグラウンド「ZOZOマリンスタジアム」(以下、マリンスタジアム)で昨年7月に同市初の冠試合を実施、今年7月に2回目を実施しました。
冠ナイターの名称は、同市の特産品の黒豆にちなんだ「丹波篠山市 黒豆ナイター」(以下、「黒豆ナイター」)。黒はマリーンズのチームカラーのひとつで、黒豆が名産の丹波篠山市とマリーンズのコラボは“運命的な組み合わせ”(!?)とも言えそうです。
~丹波篠山市の概要~
〈人口〉4万3,263人(平成22年国勢調査より)〈総面積〉377.61k㎡〈丹波篠山市の特徴〉平成11年4月、多紀郡4町(篠山町・西紀町・丹南町・今田町)が合併し、市制施行による「篠山市」が誕生し、令和元年5月1日には市名を「丹波篠山市」に変更。四方を山に囲まれ篠山盆地を形成し、市の中心部は盆地内に位置する。豊かな「山の幸」に恵まれており、なかでも黒豆の最高級品、丹波篠山黒豆が有名。年間を通じて市内では黒豆オリジナル料理を味わうことができる。丹波松竹、丹波栗も高級品で人気が高い。
丹波篠山市とマリーンズがコラボするきっかけとなったのは、一昨年のドラフト会議で同市出身の中森 俊介 投手がマリーンズに2位指名されたこと。同市初のプロ野球ドラフト選手誕生に地域は沸きました。
そうしたところにマリーンズ側から丹波篠山市に冠試合の打診が。その理由は「球団の選手は全国から集まっています。選手の地元と球団を結ぶことでマリーンズの人気を押し上げ、選手の励みにもなる取り組みができるのではないかと考え、選手の地元自治体さんに冠ナイター主催を打診してみよう、ということに。そこで初めてお声がけしたのが丹波篠山市さんでした」(マリーンズ担当者)とのこと。
そして、丹波篠山市初のプロ野球ドラフト選手誕生に地元が大いに盛り上がっていたことや首都圏でのインパクトがあるシティセールスを模索していたことなどから同市も前向きに検討を進め、「黒豆ナイター」が実現しました。
企業等がスポンサーになった冠ナイターは珍しくありませんが、自治体が実施するのはきわめて珍しいケースです。
~丹波篠山市出身 中森 俊介 投手~
2002年5月、丹波篠山市生まれ。投手。右投左打。背番号56。
明石商業高校卒業。高校時代は、春夏連続でベスト4を経験。クレバーな投球術は高校生離れと評価され、2020年、ドラフト2位でマリーンズに入団。
2年目の今季は2軍で初勝利を挙げたほか、ここまで5試合18回を投げて15奪三振、無四球、防御率1.00というみごとな投球を見せている(2022/9/1現在)。
球団から、将来は佐々木 朗希 投手との2枚看板になってくれることが期待されていている。丹波篠山市のふるさと大使も務める(下の画像参照)。
確かな手応え、試合にも勝利!
冠ナイター当日は球場内で丹波篠山市PR動画の放映や名物の「デカンショ踊り」を正装の編み笠姿で披露したほか、黒豆など同市特産品の物販ブースの設置などを実施。2回目となる今年はデカンショ節の生演奏を行い、スタンドを盛り上げました。
黒豆製品などを販売した物販ブースは盛況で、多くのマリーンズファン等に特産品をアピールできたほか「自然資源が豊かな丹波篠山市に興味をもってくれた方も多く、関東圏から観光に訪れる人も増えてくれるのではと期待しています」(丹波篠山市の担当職員)とのこと。冠試合というユニークなシティセールスに手応えを感じているようすです。
初めて実施した昨年の「黒豆ナイター」の模様(上の動画リンクから視聴できます)
昨年はコロナ禍の影響で冠ナイターへの応援団を計画よりも縮小せざるを得ませんでしたが、今年は約100名からなる地元応援団がマリンスタジアムに駆け付けました。この“応援パワー”の後押しもあり、マリーンズは「黒豆ナイター」での対戦相手、北海道日本ハムファイターズに5対4というスリリングな接戦の末、勝利しました。
シティセールスの“新しいカタチ”
丹波篠山地域の黒大豆(黒豆)栽培が日本農業遺産に認定された(2021年)ことも「黒豆ナイター」実施の背景にあります。
「丹波篠山の黒豆」と言えば全国区の知名度がある高級ブランド品ですが、お正月のおせちで縁起物として食べる以外、あまりなじみがないのも事実。
そこで「枝豆として食べても最高」(丹波篠山市の担当職員)な黒豆の魅力を特に首都圏で広く周知し、需要拡大につなげることで日本農業遺産に認定された独自農法を後世に伝え、高品質な黒豆生産を守り続けていきたいというサスティナビリティへの地元の願いが冠ナイターの取り組みには込められています。
~日本農業遺産に認定された「丹波篠山の黒大豆栽培」~
丹波篠山では、水不足のため稲作をしない「犠牲田」を集落で協力し合いながら設け、そこで黒大豆栽培が始まりました。当時、丹波篠山の多くの水田が過湿・重粘土な湿田で、これを乾田化することは技術的に困難でしたが、溝を掘り、畝を高くすることで、黒大豆栽培を可能にしました。(乾田高畝栽培技術)豪農大庄屋 波部本次郎らによって在来種(多様な遺伝資源)の中から優良な種子を選抜育種し、現在では採種ほ場を分散設置するなど持続的に優良な種子を生産しています。(優良種子生産方式)水の少ない丹波篠山では、多くのため池が築造されたことで希少な両生類などが生息しています。また、灰小屋で粗朶や落ち葉を焼いて作る灰肥料が用いられるなど、農の営みの中で自然環境が守られています。(自然循環システム)~農林水産省「世界農業遺産・日本農業遺産」(https://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_3_sasayama.html)より抜粋~
初のプロ野球ドラフト選手誕生で地域が活性化する丹波篠山市。同市では職員の発案でマリーンズのユニフォームをかたどった球団公式Tシャツを着用して勤務することが今年の夏から解禁。また、同市がある兵庫県は熱狂的なファンが多いことで知られる阪神タイガース(以下、タイガース)の地元で「子どもたちがかぶる野球帽といえばタイガースでしたが、今ではマリーンズの黒いキャップをかぶる子どもたちも増えています」(丹波篠山市の担当職員)とのことで、「選手の地元とつながる」という球団側の期待も成果を見せています。
同市では来年も「黒豆ナイター」を実施する計画です。集客力がある外部のプロと自治体がコラボする取り組みは、マーケットに直接飛び込んで大きなインパクトを残し、地域活性化も促進する“シティセールスの新しいカタチ”として、他自治体からも今後注目されそうです。
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