【自治体通信Online 寄稿記事】
自分にしかできない仕事を企画 実践できる自治体職員になる#3
(糸島市 経営戦略部企画秘書課 行政改革推進係長・岡 祐輔)
「自治体職員が『学びたい』『おもしろそう』と感じたことを学び続け、リスキリングしていくことが“まち”をより良くしていく」。こう話すのは糸島市(福岡県)職員の岡 祐輔さん。本連載ではリスキリングの成果を仕事に活かして「*糸島市マーケティングモデル推進事業」を推進するなどした岡さんが自身の体験等を踏まえて「自治体業務に活かせる実践的リスキリング法」をお伝えします。第3回は、スキルの選択方法。自分の価値と地域の価値を高め、みんなに喜んでもらえる“三方良し”を実現するには?
4つの視点で選択する
環境部門にいるとき(※第1回参照)廃棄物の勉強をして詳しくなることと対照的に、クレーム処理はどの部署でも通じる汎用性が高いスキルです。
(参照記事:#1:自治体業務に活かせる実践的リスキリングとは?)
しかし私は、クレーム処理が好きでも得意でもなく、一方で経営学の特に組織戦略や経営分析、マーケティングといった分野が好きでした。一応理系で、高等数学を学んでいたこともあり(成績はそんなによくなかったのですが)、これらの分野は少しは得意と言えるのではないかとも思います。そして、いまの公共分野を見ていただくと、EBPM(Evidence Based Policy Making)やシティプロモーション、デザインなど民間の経営手法が行政の中に勢いを増して導入されていることがわかります。
振り返ると、「汎用性」、「好き」、「得意」、「希少性(競合が少ない)」という4つの視点があったことに気づきます。すべての人間の中で、得意や希少になる必要はありません。この4つの視点で考えれば、自分に合った、そして自分の価値を高めてくれる具体的なリスキリングの方向性が見つかると思います。ナンバー1ではなく、オンリー1(限られた範囲のナンバー1)になれる分野が、自分の強みに変わります。
好きで得意な分野を
まず、「好き」×「得意」の視点でリスキリングしていく分野を選ぶことは大事です。私の例では、行政分野の仕事の中でも政策立案の仕事が好きです。反対に、定型業務や雑用は、うんざりするので、なるべくしなくていいように効率化を考えます。マーケティングやデータ分析は先に述べたように、一応は理系で、学部の数学までは習ったので、多少の知識はありました。
今はリスキリングで高校数学を学びなおそうとする動きもみられますが、実は私も微積分や行列、条件付き確率などを学んでいたため、経済学や統計学、データサイエンスを学んだときに、なんとか挫折しませんでした。マーケティングなどで使う統計分析はもちろん、産業連関表で経済波及効果を求める(逆行列)、プログラミングで画像認識するなど(ベクトル)、より高度な分析が出てきても理解することができ、とても役に立ちました。
好きだと継続しやすく、得意だとより高度なスキルを身に着けやすいと思います。ただ、どちらの方が大事かと考えると、好きであることがより重要だと思います。「好きこそものの上手なれ」と言いますが、得意ではなくても継続すれば一定以上のスキルは身につきやすいからです(下図参照)。
統計的に、プロ野球選手に4、5月生まれが多いのは、小さい頃に体力差によって周りよりうまくプレイができ、好きになったり、自信がついたりすることから練習をよくするようになり、野球を継続するから、と言われています。
自治体職員の仕事では、後に述べる希少性や汎用性を考えても、そこまで高度なスキルが要請されることはありません。好きで関心がある分野に少し目を向けてみてください。
スキルニーズと人材価値
繰り返しになりますが、第1回の記事で、配属当初、環境部門で関連法令やクレーム処理について学んだことを書きましたが、思い返せば私の自治体職員生活約20年のなかで環境部門特有の知識、例えば廃棄物処理の知見や経験を他部署で活用した経験は稀です。しかし、クレーム処理の経験やノウハウは、どこの部署でも役立つ可能性は高く、活用頻度も多いものです。この分野を学べば、交渉術やファシリテーション、心理学といった関連分野にも関心がわいて、勉強するかもしれません。
また、自治体職員である以上、どこに異動しても使えるスキルが欲しかったことから、経営学を学ぼうと思いました。このように、もしリスキリングをするならば、基礎的で、汎用性の高いスキルを選択する方法があります。
これをマーケティング的に表現すれば、市場規模が大きく、多くのお客様のお役に立てるということ。つまりスキルニーズが高いのです。ニッチ戦略という競合が少ない隙間のニーズを狙う場合にも、ある程度の市場規模なくしては成り立たないので、やはりこの側面に注目する必要があります。
しかし、その分野にすでに多くの人がスキルを獲得している場合、自分が役立つ人材になれるかは難しいところです。先にも書いたファシリテーション、デザイン、プログラミング、マーケティング、統計などのスキルは汎用性が高いものの、専門性も高く、自分よりもっとそれらの分野が得意なほかの人に任せた方が職場でも社会でも良いかもしれません。
スキルニーズが高くても、私の場合のように「好きで得意」な戦略立案やそのための分析手法は、専門調査員やコンサルタント、研究者などの高度な専門技術を有する人たちからすると、希少性は高くありません。しかし、自治体職員の分野では希少性は高く、たとえば私が住んでいる福岡県内という場所や働く職場内で考えると、それらを得意としている人は多くありません。
上の図をご覧ください。希少性を考える場合は、「範囲を区切った」ナンバー1、つまりオンリー1を目指してみてください。汎用性が高く、活躍したい範囲も広い場合は、より好きで得意な分野をしっかり決める必要があります。
「好き」、「得意」、「汎用性」、「希少性(競合が少ない)」。この4つの視点を持って考えると、自分がどのようなスキルを学ぶのかを考えやすくなると思います。第2回で書いたように、目的と長い目をもって、自分に投資してみてください。
早いもので全3回の連載が終わり、短い期間でしたが、私の経験が少しでもご参考になればうれしい限りです。
糸島市 経営戦略部企画秘書課 行政改革推進係長/MBA(経営修士)/Ph.D(学術博士)
2003年に糸島郡二丈町(現・糸島市)に入庁。民間の経営手法を公共経営に活かすため、仕事の傍ら、九州大学ビジネススクールに飛び込み、MBA取得。九州大学大学院博士課程で経済地理学を専攻・修了し、2023年3月に博士号を取得。2023年4月より現職。
- 受賞歴
2015年:QBSビジネスプランコンテスト準優勝
2016年:内閣府地方創生☆政策アイデアコンテスト・地方創生大臣賞
2017年:内閣府地方創生☆政策アイデアコンテスト・帝国データバンク賞
2018年:HOLG地方公務員アワード賞、QANアワード最優秀賞
■ 著書紹介
※書名をクリック・タップすると版元の著書紹介ページに移動します。
『スーパー公務員直伝! 糸島発! 公務員のマーケティング力』(学陽書房)「アイデアがあってもどうせ組織では何もできない」など、これまで政策アイデアの作り方や実現方法に悩んでいた方に、経営学、特にマーケティング手法をベースにした政策アイデアや実現方法を自治体の事例に沿って解説。1年目の新人職員はもちろん、若手・中堅職員・ベテラン・管理職問わず、新しいことに挑戦したい方ならどなたにとっても仕事の羅針盤となる一冊。
『地域も自分もガチで変える! 逆転人生の糸島ブランド戦略』(実務教育出版)
福岡県の最西端に位置する「糸島市」。海があるだけ・自然があるだけ、だったまちが「行ってみたい」「住んでみたい」人気のまちへ。置かれた場所で挑戦しては壁に当たり乗り越えてきた公務員の実話。お役所仕事のイメージを覆し、「糸島ブランド」を発信し続ける著者が、若手公務員・若手サラリーマンへ、その手の内を明かす。
『ゼロからわかる! 公務員のためのデータ分析』(学陽書房)自治体職員の方々に向けて、自身のスキルひとつでデータを思う存分に活用できるようになるための考え方と方法やアイデアをとことんわかりやすく紹介。日々の実務で求められるアンケート、インタビュー、行政評価といった方法をより正確に、かつ効率的にすることはもちろん、その実践事例、今日から活かせるスキルが手に取るようにわかる!
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