【自治体通信Online レポート】
シン・行政 #1:農林水産省のYouTubeチャンネル「BUZZ MAFF」その成長要因を探る(前編)
農林水産省のYouTubeチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」(https://www.youtube.com/channel/UCk2ryX95GgVFSTcVCH2HS2g )の登録者数が2021年9月下旬、10万人を突破しました。行政が人気YouTuberの証(あかし)とされる“銀の盾”(登録者数が10万人になったチャンネルにYouTube運営から贈られる表彰)を受賞するのは異例なケース。BUZZ MAFFが“バズった”理由に迫り、自治体の情報発信にも応用可能なヒント等を探ります。
“霞が関”で突出
BUZZ MAFFは「ネットを使った情報発信にもっと力を入れよう」との目的でスタートした「農林水産省職員自らが、省公式YouTubeチャンネルでYouTuberとなるなど、担当業務にとらわれず、その人ならではのスキルや個性を活かして、我が国の農林水産物の良さや農林水産業、農山漁村の魅力を発信する」(農林水産省ホームページより)プロジェクト。
最初の動画が公開されたのは2020年1月。その後、1年8ヵ月で人気チャンネルの節目とされる登録者数10万人を2021年9月下旬に達成しました(2021年10月下旬現在では約12万2,000人)。
中央省庁が運営するYouTubeチャンネルのなかでは突出した数字(下グラフ参照)で、BUZZ MAFFより上位にあるのは熱心なファンやマニアがいる陸海空の各自衛隊3チャンネルだけです。
グラフは国の機関・組織で登録者5万人以上のYouTubeチャンネル一覧。都道府県では東京都と茨城県のYouTubeチャンネルが登録者10万人超えを果たしています。画像はBUZZ MAFF登録者10万人突破を記念し、急きょ農林水産省内で行われた実況の様子(画像はBUZZ MAFFより)。
BUZZ MAFFの成長要因はどこにあり、自治体にどんなヒントを投げかけているのか? そのカギを探るため、まずはBUZZ MAFFのディレクションのあり方から見てましょう。
《成長のカギ~其の壱》上司が口を挟まない!?
BUZZ MAFFは他省庁等のYouTubeチャンネルとは、おそらく、まったく異なるディレクションがされています。それは、「若手を主体とした職員で構成する制作チームにコンテンツづくりがまかされている」こと。
BUZZ MAFFの運営担当者で農林水産省 大臣官房広報評価課広報室 広報企画第1係の白石 優生さん(BUZZ MAFF内チャンネル「タガヤセキュウシュウ」のメンバーでもある)は「企画・編集はそれぞれのチームに完全にまかされています。月に1回、全チームがオンラインで集まって企画会議を行いますが、どんなコンテンツになるのか、実際にできあがってくるまで私もわかりません」(白石さん)と話します。
ファクトチェックや権利関係のチェックは広報部門や関係部局、さらに外部の三層構造で実施しているものの、リスナー(視聴者)を引きつける“キモ”の部分である企画や構成には上長等の“縦のライン”でのダメ出しや細かいチェックはしない、というのがBUZZ MAFFのルール。取り上げるテーマ、内容、表現方法に上司が口を挟まない仕組みでつくられています。
BUZZ MAFFの方法論①
~チームにまかせる~
BUZZ MAFFのコンテンツは全国各地の21チーム(2021年10月時点)が制作(下画像参照)。企画から編集まで、それぞれのチームに動画づくりはまかされています。組織図上は農林水産省 大臣官房 広報評価課 広報室が所管し、農林水産大臣が「名誉編集長」を務めています。
チームは1クール=3ヵ月ごとに公募され、個人の職員がひとりで制作したり、課全体で取り組むチームもある等、多様な構成。現在は8クール目に突入。
《成長のカギ~其の弐》堅いところは堅いまま!?
一方で、各チームにディレクションをまかせることでそれぞれの個性を活かしたバラエティ豊かなコンテンツができるとしても、関係する人が多くなるほど“質の担保”は難しくなりがち。方向性等の足並みをそろえるため「こういうことをしよう」とか「こういうのを目指そう」といった基本的な認識合わせはどうしているのでしょうか?
白石さんによれば「役所が発信するものですので、特定の民間企業等の宣伝になることはしない、数字などのファクトチェックはしっかり行って間違ったことは伝えない、収益化はしない等、役所の業務として当たり前のルールこそありますが、それ以外には特にありません」とのこと。
BAZZ MAFFはあくまでも農林水産省の業務の一環、ということですが「それでリスナーを引きつけられるコンテンツがつくれるのか」とほとんどの人は感じそうです。
しかし、白石さんは「それこそが僕らの独自性。堅いところは堅いまま、失敗したら失敗したまま、そのままを流します」と話します。
「『国家公務員がYouTubeをしている』ということが私たちの強み。まじめで堅いイメージの私たち公務員がYouTubeをやらされていること自体が視聴者にとっては面白いんです(笑)。ほかのYouTuberさんは国家公務員ではありませんから、真似しようとしても絶対に真似できません。BUZZ MAFFは“上位互換がないジャンル”なんです」(白石さん)
予算をかけて芸能人等を起用したり、プロの制作会社に発注して凝ったコンテンツを作成しても、それらには常に“上位互換”が存在します。しかし、堅い話をわかりやすく伝えようと、公務員らしく真面目に取り組む姿は、確かにほかにはない、公務員にしかできないコンテンツと言えそうです。
BUZZ MAFFの方法論②
~上位互換がない~
「堅いものをおもしろおかしく変換」するのではなく、「わかりやすさを追求しつつも、堅いものは堅いまま、真面目に伝える」という公務員らしい姿勢でコンテンツ制作しているのがBUZZ MAFFの特徴のひとつ。
その一例として「地理的表示(GI)保護制度」という、いかにもお堅い農林水産省の制度の内容・趣旨を解説した動画「【農水省】お堅い文章をラップにして歌ってみた。」を紹介します(下画像参照。画像はBUZZ MAFFより、編集部で加工)。
制度の内容や趣旨をわかりやすく伝えるため公務員がラップで解説したり、冒頭に登場したGI制度を担当している農林水産省 食料産業局 知的財産課の女性職員が意外な再登場の仕方をするといったインパクトのあるコンテンツ。堅くて真面目な公務員だからこそギャップがあり、リスナーを引きつける“意外性”が生まれています。解説部分のラップの歌詞にはおふざけの要素はなく、“例え話”を使ってわかりやすく、あくまでもストレートに制度の趣旨・内容を伝えています。2020年10月に公開され、再生回数は15万回以上(2021年10月時点)。
※動画本編※
www.youtube.com
動画本編のURLはhttps://www.youtube.com/watch?v=Sfk8YYYZdgE
(後編「共感生んだ『官僚の“素の姿と志”』~農林水産省のBUZZ MAFF」に続く)
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