地域にさまざまな波及効果
大東市式総合事業の要である「住民主体の通いの場」と「住民主体の生活支援」は介護給付費削減だけでなく、地域にいろんな波及効果を生み出しています。
「住民主体の通いの場」である「大東元気でまっせ体操」には令和元年11月現在125団体で約2,450人の高齢者が週1~2回体操を行っています。この「大東元気でまっせ体操」の会場には元気な高齢者から要介護5の重度な高齢者まで、いろんな状態の方が参加しています。
(参照:公と民の地域資源フル活用で介護給付費「年間3億円超削減」)
認知症や難病、車椅子の方も参加しています。他の地域では通所介護や通所リハビリテーションにしか行くところがないレベルの高齢者が、近所の人たちと“同じ場所”で“同じ時間”を過ごすことができているのです。
特に軽度者は毎日通所介護に行く人は少ないので、通所介護に行っていない日は自宅に閉じこもりがちです。そういった人たちに「大東元気でまっせ体操」に参加してもらうことで、閉じこもりから脱出してもらっています。
「将来の自分のための互助」が浸透
体操は週1~2回ですが、ご近所が集まる場では体操だけではなく、他の曜日に茶話会や絵手紙教室、小学生の下校時の見守り等、さまざまな行事や活動があります。
通所介護に行っていた虚弱な高齢者が「大東元気でまっせ体操」への参加をきっかけに、元気な高齢者に引っ張り出され、毎日のように出かけるようになっています。結果、通所介護に行く時間がなくなり、通所介護に行かなくても大丈夫=自立になる人が次々と出ています。
この現象は逆に言えば、認知症、難病、車椅子など、どんな状態になってもご近所さんが集まる通いの場から追い出されない、通い慣れた、楽しい場所に通い続けることができる安心感に繋がっているのです。その安心のために、通いの場の参加者たちはお互いに見守りやちょっとした助け合いをしています。
「いつかは自分もなる」だから「今、できることをやっておく」―。それが見守りや生活支援といった互助なのです。みなさん、将来の自分のためにやっていることです。
この見守り活動では、欠席の連絡がなく姿を見せなかった参加者を近くの人が帰りに様子を伺うことになっています。その中で、倒れているのを発見し、救急搬送されて助かった人もいます。
亡くなっている人が発見されたこともあります。でも、これは孤独死ではありません。1週間顔をみなければ心配して自宅まで来てくれる関係性の中で生活していた人が突然死しただけのことです。これこそが誰もが望む“ピンピンコロリ”なのです。
介護も入院もしていない人が突然死をすると、異臭や新聞受けに新聞が入らなくなって、ようやく発見されることが多く、ひとり暮らしの人がピンピンコロリとなると孤独死腐乱死体というパターンがこれからますます増えることが予想されます。
しかし、「大東元気でまっせ体操」の参加者たちは、ひとり暮らしでも寂しくなく、孤独死も防げているのです。
最初に庁内で理念統一
本市が総合事業によりこのような状況を生み出すことができた要因はいくつか考えられますが、一番大きな要因は何よりベースに地域資源(住民主体の通いの場・生活支援)があることだと考えています。
本市の総合事業は、その地域資源を主軸に組み立てられています。そして、総合事業を行う意味と、総合事業によってどのような地域を目指すのかという市の方針をつくり、それを庁内関係部署で共有し、本市における総合事業の理念の統一を行いました。
これを最初に行ったことが、全てにおいてよい影響を及ぼすことになったと思います。
「民の意識改革」も促す
総合事業移行開始までの2年間に、この理念の統一を含めて様々な準備を行ってきました。
庁内の理念統一の後に委託の地域包括支援センター、ケアマネジャー、介護事業者、住民の順に本市の総合事業の方針を伝えていきましたが、理念の統一とともに、自立支援に必要なマネジメント力と技術の向上を目的に事例検討会や技術講習会を繰り返し開催しました。
また、介護サービス提供事業者には総合事業の理念だけでなく、総合事業移行開始までに“自身の事業のあり方の見直し”を行うことを勧めました。
これまでと同様の姿勢では、本市では経営が成り立たなくなることもあり得ること、これからの介護保険は重度者へのサービスに重点がおかれる、点数も大きくなっていくこと等、事業者たちが時代を読み間違えて経営不振に陥らないための経営コンサルティングを行っていたようなものです。
「迫る危機」を住民とつまびらかに共有
介護の関係者だけでなく、住民の意識改革も必要だと考え、総合事業移行開始の2年前から住民への説明会を開始しました。
そこでは、総合事業のフレームの説明よりも、これからの大東市がどのような状況に陥るのかを人口推計を紹介しながら伝えていきました。
また、介護サービスの調査結果で明らかになった予防給付の現状をつまびらかに伝えました。そして、このままで行くと介護人材は確実に足りなくなり、介護保険料を払っても介護サービスが提供できない状況が生じる可能性が大きいことを伝えていきました。
と同時に、今、住民は何をすべきなのかを伝え、住民主体の通いの場づくりや生活支援のサポーターへの協力を呼びかけました。
以上が総合事業移行開始までの2年間の準備期のプロセスです。
「地域資源を増やす」ことが最重要
多くの自治体が「総合事業移行の準備期には要綱づくりやサービスのフレームづくりで手一杯になり、住民主体の通いの場づくりや新たな担い手がつくれない」といった状況であった中、本市ではこの準備期の2年間にひたすら住民主体の通いの場づくりや生活支援のサポーターを増やし続けていました。
それは、総合事業開始までにできるだけ地域の資源を増やしておくことこそが自分たちが目指す地域の実現に必要ということがわかっていたからです。
(「高齢者の安心は『地域の介護』がつくる」に続く)
本連載「高齢者が続々と介護を“修了”できる『大東市式総合事業』の仕組み」のバックナンバー
第1回 :公と民の地域資源フル活用で介護給付費「年間3億円超削減」
逢坂 伸子(おうさか のぶこ)さんのプロフィール
医療法人 恒昭会 藍野病院に勤務後、大東市役所に入庁。IBU 四天王寺大学人文社会学研究科 人間福祉社会専攻 博士前期課程 修了、大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究科 生活機能・社会参加支援領域 博士後期課程 修了。厚生労働省「地域づくりによる介護予防推進支援モデル事業」広域アドバイザー(2014年4月~2016年3月)、同省「地域づくりによる介護予防推進事業検討委員会」検討委員(2016年4月~2017年3月)などを歴任。現職は大東市役所 保健医療部高齢介護室 課長参事(2019年11月末現在)。
<連絡先>
電話:072-870-0513(大東市 保健医療部高齢介護室 直通)
メールアドレス:ohsaka@city.daito.lg.jp