岡元 譲史おかもと じょうじ
寝屋川市 教育委員会事務局 社会教育推進課長。1983年生まれ。2006年に同市入庁後、12年間にわたり、様々な債権の滞納整理に従事し、市税滞納額70%(約25億円)削減に貢献。2024年より現職。「滞納整理に価値を見出して伝えることで、受講者の不安や葛藤を取り除く」という独自スタイルによる研修を全国で実施し、9年間で延べ6,300人が参加。受講者が給食費の滞納ゼロを達成するなど、すぐに使えて再現性の高いノウハウを伝えている。執筆に「滞納整理のための空地・空家対策」(『税』2018年2月号)など。「地方公務員が本当にすごい! と思う地方公務員アワード2018」受賞。プライベートでは2男児の父。PTA会長を務めるなど地域の活動も行う。2021年5月21日に『現場のプロがやさしく書いた 自治体の滞納整理術』(学陽書房)を刊行。同書の印税は「全額、寝屋川市の発展のために使う」としている。
寝屋川市(大阪)職員の岡元 譲史さんが滞納整理というハードな仕事を通じて得た経験、気づきなどをシェアする本連載。今回は“戦う自治体職員”の皆さんにとって一番の味方、パートナーや家族など身近な人を「ほめるコツ」! 黙ったままでは、その感謝の気持ちは伝わりませんよ!?
身近な人をほめるのは「ほめる達人」認定講師でも難しい
以前、本連載でもお伝えしましたが(第4回「心にいつもエアバッグを~ほめる達人という生き方のススメ」)、私には寝屋川市職員とは別に「一般社団法人 日本ほめる達人協会(以下、ほめ達) 認定講師」という肩書きがあります。
この協会では「ほめる=人、モノ、起きる出来事に価値を見出して伝える」と再定義し、ほめることの有用性を伝える活動をしており、全国で「ほめ達検定」を開催しています。検定は3級、2級、1級とありますが、3級合格者は令和6年10月21日現在で75,466人。日本の人口に換算すると約1,700人に1名なので、あなたの町にも1名は、ほめる達人がいるかもしれませんね。
私自身、この“ほめる”ということに助けられた人間であり、全国でほめることの価値、有用性をお伝えしているわけですが、私はほめるにも難易度があると思っていて、パートナーやわが子など身近な人であればあるほど、その難易度が上がる気がしています。かくいう私自身、ほめる達人の認定講師を名乗っていますが、妻をほめるのは難しいと感じているひとりです。
今回は、なぜ身近な人をほめるのは難易度が高いのか? という私なりの分析と、それを踏まえた身近な人をほめるコツを共有したいと思います。
大敵は「慣れ」!
改めて、ほめる達人協会では “ほめる”を「人、モノ、起きる出来事に価値を見出して伝える」と定義しているわけですが、みなさんは、どんな場合に「価値を発見する」ことが多いですか? これまで身近にあったものに比べて、新しく出会うものの方が価値を発見しやすいのではないでしょうか。
理由は簡単。そこに「未知の部分」が多いからです。反面、「見慣れたもの」の価値を改めて見出すのは、なかなか難しい…。
つまり、価値を見出すという行為における大敵は、「慣れ」です。人間は、慣れると感動が薄くなり、心が動きにくくなるんです。だから、毎日一緒に過ごす空気のような存在である家族のことは、なかなかほめにくい。『感謝の反対は、当たり前』という言葉にもあるように、そこに当たり前にあるものに対して、人間は感謝や感動を抱きにくいようにできているんですね。
「職場の人は簡単にほめられるのに、一番大切な家族のことを、なかなかほめることができないんです。私って、人間として終わってますよね?」みたいな方が結構いらっしゃるんですが、安心してください。あなただけではなく、だいたいの方がそうなんです。
人間の本質というか、従来備わっている性質に逆らおうという話ですから、身近な人をほめることの難易度が上がるのも無理はありません。
「身近な人をほめるコツ」三カ条
それを踏まえて、『身近な人をほめるコツ』を、自戒も含めてお伝えしましょう。
1.その人自身や、その人がしてくれていることを、改めてよく見る(観察する)
家族の顔、ちゃんと毎日しっかり見ていますか? 時々、テレビ番組で「朝、起きると家族がソックリさんに変わっていた」みたいなドッキリ企画があり、なかなか気づかない芸能人に「さすがにそれは」とヤラセを疑いたくなりますが、自身を振り返ってみた時にちゃんと見れていないかもなぁと反省しました。毎日、「おはよう」の時に顔をしっかり見る習慣を身に付けたいですね。
また、その人がしてくれていることを、改めてよく見る(観察する)のも大切です。普段なにげなく流していますが、家に帰ってからも色々と動いてくれているもの。もしくは仕事が忙しくて、疲れて休んでいるかもしれません。その様子も、しっかり見る。
実は、“ほめる”の基本は「観察」にあります。相手のことをしっかりと見ないと価値は発見できませんからね。
2.気づいたことを素直に伝える
しっかりと観察できていると、なにかしら気づきがあります。それを素直に伝えるところから始めましょう。できれば、「ありがとう」という感謝や「大丈夫?」という心配やねぎらいの言葉を付け加えると、なお良いです。「キッチンの水回りキレイにしてくれたんだ、ありがとう」「なんか、白目の部分が赤くなってる気がするけど、大丈夫?」といった具合ですね。
身近な人の場合は、「ほめよう=価値を伝えよう」と肩に力を入れるのではなく、気づいたことを素直に伝えるのがポイント。相手を見ている、気にかけているという事実自体が、相手の存在価値を認める(存在承認)=ほめることに繋がっているからです。
3.身体に触れる(スキンシップ)
私見ですが、スキンシップは非常に重要。手をつなぐ・ハグする、などの身体接触は相手を大切にしている(=あなたには価値がある)ことをダイレクトに伝える手段です。スキンシップは子育てにおいても重要視されていますよね。
ここに関して自慢話をすると、私は夜寝る前に家族の足をマッサージするという習慣を10年以上続けていて、出張等で家にいない日やよっぽど仕事が遅くなった日を除き、ほぼ毎日家族の足に触れています。イチロー選手のお父さんが、イチロー選手の足を毎日マッサージしていたエピソードは有名ですよね。
「変わってしまった…」のは自分かも!?
最後にこんなエピソードを紹介しましょう。私の “ほめ達仲間”のある女性は「夫婦仲が冷え切っている」ことに悩んでいたそうなんです。
しかしながら、“ほめる”を実践する中で「夫のことを改めてよく観察したら、『冷たい人』だと思っていたが、愛情表現が自分とは違うだけなんだと気づいた」とのことで、そこから関係が大きく改善したそうなんですね。
娘さんいわく、「傍から見ていて、お父さんは何も変わっていない。お母さんの受け止め方と行動が変わった」とのこと。“身近な人をほめる”という点において、私が師としているのはこの方です。ぜひとも見習いたいなと。
あなたの身近にいる人は「心の運転」においては“同乗者”です。その人たちの価値を見出すことができた場合と、そうでない場合とでは、長期間にわたる心のドライブの満足度にも大きな差が生じます。どうぞ、身近な人たちをほめて、笑顔で快適な心の車内空間を作りましょう!
『~現場のプロがやさしく書いた~自治体の滞納整理術』(学陽書房)の表紙カバー
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