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人、モノ、金、情報を呼び込み民間の力をダイナミックに活用する

人、モノ、金、情報を呼び込み民間の力をダイナミックに活用する

埼玉県横瀬町 の取り組み

人口8,400人弱の小さな町が取り組む新しい官民連携のカタチ

人、モノ、金、情報を呼び込み民間の力をダイナミックに活用する

横瀬町長 富田 能成

横瀬町(埼玉県)が、平成28年10月からスタートさせた『よこらぼ』。この取り組みが大きな注目を集めており、官民連携の新たなカタチを生み出しているのにくわえ、横瀬町の活性化につながっているという。いったいどのような取り組みなのか。町長の富田氏に、取り組みを始めた背景や事業の詳細、今後のビジョンなどを聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.14(2018年8月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

民が官にあわせるのではなく官が民にあわせるスタンス

―横瀬町が取り組んでいる『よこらぼ』について教えてください。

 簡単にいいますと、横瀬町に民間の事業やプロジェクトを誘致するプラットフォームですね。横瀬町とコラボレーションする研究所、略して『よこらぼ』です。

 この町は人口8400人弱の小さい町ですが、ほかの自治体と同様に人口減少が進んでいます。なにか手を打たないと、未来はありません。また小さい町ゆえに、域内の資源は有限。そのため、町をオープンにして外から人、モノ、金、情報をどんどん呼び込み、民間の力をダイナミックに活用しようというのが狙いです。

 官民連携の取り組みは、全国でもたくさん行われています。ただそれは、「この病院をなんとかしたい」「高齢者の健康寿命を延ばしたい」など自治体の設定した課題に対し、民が具体的な提案を行うケースがほとんど。民が官にあわせるんです。『よこらぼ』は、民間側の取り組みたいプロジェクトがまずあって、「それが町のため、地域のためになりそうであれば、我々はお手伝いしますよ」というスタンス。つまり官が民にあわせるんです。

―その狙いはなんでしょう。

 応募のハードルを下げて、幅広く案を集めるためですね。また、プレマーケティングの段階で、地方創生にビジネスチャンスを見出している企業や人は多い一方、そうした人たちは自治体とのコネクションづくりに苦労されているのがわかりました。そこで、「横瀬町は民に半歩寄りそってお手伝いします」という体制にしたのです。

―そのほかに民間が『よこらぼ』を活用するメリットはありますか。

 まず横瀬町は自然が豊かですが、広義では東京圏。そのため、都会からのアクセスがよく、東京から半日で行って帰ってくることが可能です。

 また、コミュニティがしっかりしていて、住民の協力がえやすい点ですね。これは横瀬町を含めた秩父地域の大きな特徴で、お祭りを非常に大事にする文化が残っていて。「秩父地域では、毎日どこかでお祭りが行われている」といわれるくらいです。そのため、住民の団結力が強い。小規模なぶん、たとえば「75歳以上の協力者を10人集めて」と依頼があれば、私がすぐに探せるくらいですよ。

提案総数66件のうち38件がすでに採択された

―実際にどのような成果が出ているのでしょう。

 平成28年の10月からスタートして、提案された件数が66件で、そのうち38件を採択。想定以上の反響ですね。当初は地道に営業することを考えていたのですが、おかげさまでクチコミとメディア露出によってその必要がなく、応募が継続している状況です。

 提案内容は非常に多岐にわたっており、応募者もベンチャー企業や上場企業、外資系、NPO団体、大学、個人と幅広いですね。都市部からの提案が中心ですが、最近では地元からの提案もあります。

―印象的な事業を教えてください。

 たとえば、『横瀬クリエイティビティー・クラス』。これは、都内のWebデザイナーや映像ディレクターといった腕のいい若手クリエイターさんたちが集まって、地元の中学生を巻き込んで「❝もう一度帰ってきたくなる町をデザインする❞といったテーマで1泊2日でアイデア出しのハッカソン(※)をやろう」と実施したんです。

 すると、中学生が刺激を受けて「クリエイターの仕事をもっと知りたい」と。そこから、職場見学やクリエイターが自身の仕事を語る「キャリア教育」に発展。最終的に、中学生自らが絵コンテからシナリオ、撮影を行い、地域を舞台にしたショートムービーを制作するにいたりました。その反響もあり、さらにさまざまな人たちが横瀬町に集まってくる、という好循環が生まれています。

 ちなみに今年の春、中学を卒業した生徒のうち、横瀬町として初めて3人も芸術系の公立高校に入学したんです。それは、この経験が影響したと思いますね。

 一連の取り組みは現在、月に1度、地元と外部のプロが自身のキャリアを語る『はたらクラス』に発展。クリエイターに限らず、たとえば公務員なども語っており、若い世代を中心に参加者は毎回50人を超えています。住民の輪が徐々に広がっていき、町にとってもいい流れをつくっていると思います。ちなみに次回は、私が自分のキャリアを話す予定です(笑)。

※ ハッカソン:もともとはプログラマーやデザイナーからなる複数の参加チームが、数時間から数日間の与えられた時間を徹してプログラミングに没頭し、アイデアや成果を競いあう開発イベントのことを示す

今後は住民への浸透を図っていくことが課題

―その一方で課題はありますか。

 おかげさまで『よこらぼ』は世間では注目されているのですが、住民への浸透はまだまだだと感じています。そもそもソフト事業なので、目に見えにくい。そのうえ、取り組む内容が最先端のものが多く、とくに高齢者の方が理解しづらい面があると思います。そのため、今年の4月に『よこらぼ』の取り組みを冊子にして、全世帯に配布しました。

 その観点でいうと『横瀬クリエイティビティー・クラス』などでは、「ようわからんけど孫がイキイキしとるわい」という反響があり、やはりこうした取り組みは、引き続き行っていこうと考えています。

スピード感を意識しつつ注意深く周囲に耳を傾ける

―『よこらぼ』における、今後のビジョンを教えてください。

『よこらぼ』を中心に、さらなるメディア露出を意識して行っていきます。この町は、まだまだ知名度が低い。定住人口、関係人口を増やすためには、まず知ってもらうことが重要。『よこらぼ』ができたことによって、町を知ってもらう新しいカタチができたと思っており、そういった波及効果を狙っていきます。

 あとは、スピード感を重視していきたいですね。『よこらぼ』自体、構想から9ヵ月でスタートさせました。自治体では事業を行う際、来年度の予算に組み込むため、その半年前くらいから検討を始めるのが一般的。つまり、1年半かかるのです。それでは遅すぎるし、❝旬❞も逃してしまいます。行政全体にいえますが、スピードを出すとついていけない人も出るため、どうしても周囲に温度差ができます。それは必然であり、未来のためにチャレンジングな取り組みを行うためには仕方がないこと。ただ、私が耳を傾けることで、さらにアクセルを踏むべきか、あるいは少しゆるめるべきかの判断を行っていきます。

富田 能成(とみた よしなり)プロフィール

昭和40年、埼玉県横瀬町生まれ。平成2年に国際基督教大学(ICU)を卒業後、株式会社日本長期信用銀行(現:株式会社新生銀行)に入行。法人営業、メキシコ留学、米国支店などを経て、不良債権の投資や企業再生の分野で経験を積む。平成23年、横瀬町議会議員に就任。平成27年、横瀬町長に就任。官民連携プラットフォーム『よこらぼ』を立ち上げるなど、横瀬町の「未来を創る」ためのチャレンジを積極的に行っている。

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