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先進事例2019.12.10

レセプトデータの活用で医療費適正化【自治体(佐賀市、佐賀県)の取組事例】

レセプトデータの活用で医療費適正化【自治体(佐賀市、佐賀県)の取組事例】

佐賀市 /佐賀県 の取り組み

レセプトデータの活用で医療費適正化【自治体(佐賀市、佐賀県)の取組事例】

佐賀市 保健福祉部 保険年金課 保険企画係 主幹 兼 係長 梶山 孝英
佐賀県 健康福祉部 国民健康保険課 国保運営担当 係長 菅 祐亮

医療費が年々増加するなか、「医療費の適正化」は、自治体が早急に対処しなければならない課題であるにもかかわらず、期待されているような成果が出ていない現状がある。そんななか佐賀市は、近年高騰をみせる調剤費に目をつけ、昨年度「適正服薬推進事業」をモデル事業として展開した。同市保健福祉部の梶山氏に事業内容と今後の取組について聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.14(2018年8月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

佐賀市データ

人口: 23万3,542人(平成30年6月末日現在) 世帯数: 9万9,872世帯(平成30年6月末日現在) 予算規模: 1,506億6,600万円(平成30年度当初) 面積: 431.84km² 概要: 佐賀県の県庁所在地で、県内最大の人口を誇る。「平成の大合併」の際、平成17年の10月に佐賀郡諸富町、大和町、富士町、神埼郡三瀬村と合併し、さらに拡大した。アジア最大級のバルーンフェスタ『佐賀インターナショナルバルーンフェスタ』は毎年秋に開催され、バルーンの街としても有名。

佐賀県データ

人口: 81万9,565人(平成30年6月1日現在) 世帯数: 30万9,342世帯(平成30年6月1日現在) 予算規模: 6,324億6,297万3,000円(平成30年度当初) 面積: 2,440.68km² 概要: 全20市町からなり、伊万里、唐津、有田など陶磁器で全国的に名が知られる都市がある。そのほか、吉野ヶ里遺跡をはじめ、多くの遺跡が点在していることで知られる。また、世界有数の干満の差を誇る有明海は、多くの河川からミネラル豊富な栄養塩が流れ、良質な海苔が採取できる。

―「適正服薬推進事業」を実施した背景を教えてください。

 大きく3つあります。ひとつは、佐賀市の国民健康保険の医療費が年々上昇していることから、財政の健全化が早急に求められていること。ふたつ目は、国が定める保険者努力支援制度の評価指標が「取組の実施」から「具体的な実績・成果」に厳格化される見通しのなか、前年度の調整交付金の確保が難しくなる可能性があること。

 そして最後に、今後の更なる高齢化を見据えたとき、保健・福祉分野においては、地域との連携強化が重要になると感じており、本事業を通じて、医療機関や薬局との連携を強化させ、さまざまな領域に広げられる可能性があると考えたからです。

―「適正服薬推進事業」とは、どのような事業でしょうか。

「医療費の適正化」と「薬剤被害の減少」を目的に、多剤・重複服薬患者(※)に対して服薬の適正化を図る事業です。「医療費の適正化」の手法はさまざまですが、適正化効果の実現までの時間が短く、即効性があると考えました。

 平成29年度に10月から3回にわたって実施したところ、予想以上の成果が得られました。

※多剤・重複服薬患者:多くの種類の薬剤を服用している人や同じ効能の薬を複数の病院から処方されるために薬が重複している人

―実施した取組内容について教えてください。

 国民健康保険の患者は、複数の医療機関で診察や薬の処方を受けることが多く、病院間で情報共有が十分になされない場合、薬の重複や飲み合わせが禁止されている薬が処方されるケースがあります。そこで、医科および調剤のレセプトデータ(※)を分析し、薬の服薬状況に課題がありそうな対象者を抽出し、本人の自覚を促す通知書の送付や薬のリスクを伝える電話勧奨を実施しました。ここでいう課題とは、併用禁忌(※)や薬の処方量が多いことに伴う薬害被害のリスクです。

※レセプトデータ:患者が受けた保険診療について、医療機関や薬局が保険者に請求する医療報酬の明細書
※併用禁忌:併用が禁止されている薬の組み合わせがある状態

―どのような成果が得られたのでしょう。

 現在、初回の取組結果の検証が終わったばかりですが、期待以上の成果が出たと思っています。事業実施前後で比較した場合、服薬状況に課題のある対象者を40%以上削減できたうえに、調剤にかかる医療費も20%程度減らすことができたのです。

 今後は更なる詳細な検証を実施しますが、勧奨実施効果がどの程度継続するかなどについても検証を行っていく予定です。

好結果をもたらした医療機関や企業との連携

―期待以上の成果が得られた要因はなんでしょうか。

 市医師会、市薬剤師会、市歯科医師会の三師会から協力を得られたことが、いちばんの要因だと考えています。これまで、佐賀市は三師会との連携事業を行ってきたこともあり、実施にあたっては、事業内容を説明する機会を得たばかりか、事業の進め方についても、医師や薬剤師から多くのアドバイスをいただきました。

 また、企業との連携がうまくいったことも大きな要因です。

 大容量のレセプトデータを効果的に分析することは、庁内で到底できませんので、服薬に課題がある対象者を抽出するにあたっては、専門知識のある民間企業のノウハウを活用し、条件を細かく設定することができました(下図参照)。

―今後の展望を教えてください。

 この事業の実施を通して、薬局との連携体制が強化されましたし、市民のなかには、薬のリスクや薬局の役割など、よく理解していない方が多いこともわかりました。

 今後は、薬のリスクなどについて市民の認知が向上するような取組や、特定健診の受診率向上や生活習慣病の重症化予防の分野にも効果が期待できるような連携を考えており、より大きな成果が実現できればと思っています。

平成30年度から新たな国民健康保険制度がスタートし、都道府県も国民健康保険の共同保険者となった。佐賀県は、医療費適正化の取組のひとつである「重複服薬者等対策事業」を県単位で展開していく。そこで、同県健康福祉部の菅氏に県の役割を聞いた。

「好事例の横展開」による県全体での取組

―県単位で「重複服薬者等対策事業」に取り組むことになった経緯を教えてください。

 佐賀県の医療費は全国的に高い水準にあり、国民健康保険を健全に運営するうえで、「医療費の適正化」は本県の喫緊の課題です。本年度から県と市町で共同運営するにあたって、「どのような事業を県単位で行うと効果的か」について全市町と協議を重ねたところ、複数の医療機関にかかり、複数の薬を服用することによる副作用の恐れや、飲み残しにより残薬となる多剤・重複服薬の事例に対し、市町ごとの対応にバラツキが見えてきました。そのため、多剤・重複服薬者などの対策について、県全体での統一的な取組を実施することにしたのです。

―この事業において佐賀県はどのような役割を担うのでしょうか。

 多剤・重複服薬などの事例においては、本人がお薬手帳を医療機関や薬局に提示しないなど、本人の薬に対する認識・意識の問題がまずあります。

 そのため、「かかりつけ医」や「かかりつけ薬局」による本人への正しい服薬指導が重要となります。そこで、本県では、県医師会、県薬剤師会など関係機関から協力を得て、市町単位では実現が難しかった県内統一の取組のための連携体制の構築に努めました。また、全市町のレセプトデータを取り扱う佐賀県国民健康保険団体連合会と連携を図り、専門業者による市町ごとの対象者の抽出や市町による効果的な通知勧奨の支援を実施しています。

―「医療費の適正化」に向けての方針を教えてください

 今後も市町とともに、保険者として、関係機関との更なる連携体制の構築を図っていきます。そして被保険者の生活の質の維持及び向上を確保していきながら、医療費が過度に増大しないよう「医療費の適正化」に努めていきたいと思います。

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