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県内初の民間出身知事が貫き続ける「信念」とは

岡山の持続的成長のために大切なのは「未来への投資」の視点です

岡山の持続的成長のために大切なのは「未来への投資」の視点です

県内初の民間出身知事が貫き続ける「信念」とは

岡山の持続的成長のために大切なのは「未来への投資」の視点です

岡山県知事 伊原木 隆太

※下記は自治体通信 Vol.37(2022年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


平成24年、地元の老舗百貨店である天満屋の社長を退き、46歳の若さで岡山県初の民間出身知事として就任した伊原木氏。就任から約10年にわたって、企業経営者としての発想や経験を県政に取り入れてきたという。なかでも、岡山県の将来を見すえた「投資」に対する考え方やそれを反映した政策により、持続的成長に向けた基盤づくりを強化しているようだ。今後、どのようなビジョンで岡山県をさらなる発展へと導いていくのか。同氏に詳しく聞いた。

独自の新型コロナ対策で、「民間的思考」の浸透を実感

―知事3期目も半ばを迎えました。この間、県政運営にあたりどのような信念をもってきましたか。

 私は岡山県初の民間出身の知事であり、企業経営者としての発想や経験を行政に取り入れることが、求められている役割だと考えてきました。そこで私は、大きく2つのことを意識してきました。1つは、顧客重視、コスト意識、スピード感といった、行政に不足しがちな「民間的思考」を県庁組織に浸透させること。この思考は、より県民目線に立った行政サービスを提供するために不可欠な要素であると考えたからです。もう1つは、「未来への投資」という視点を重視した政策。これも、岡山県の持続的成長に向けた基盤づくりのために大切なことです。

 1つ目の「民間的思考」については、ここに来てより一層職員に浸透している手ごたえを感じています。たとえば、今回の新型コロナウイルス感染症対策で、他県では患者の入院調整を保健所単位で行うことが多いなか、私たちは県が一手に引き受けることにしました。県職員の負担は増えますが、県全域の病床使用率を一元管理でき、入院できない地域を出さない対応が迅速に行えると考えたからです。また、昨年春から全国的に高齢者へのワクチン接種が始まった際、当県では集団接種という一般的な方法ではなく、高齢者には「かかりつけ医」のもとで接種してもらう仕組みにしました。高齢者よりも現役世代を集団接種の対象にしたほうが、県全体のワクチン接種率を早期に引き上げられるとの判断からです。

「教育の再生」に向けて、注入した「カンフル剤」

―岡山独自の対策を進めたと。

 ええ。今回のようなケースだけでなく、各自治体に政策判断がゆだねられた場合、ほかと横並びで進めたほうが一種の安心感はあるものです。それでも今回は、対策を検討するすべての職員が、「県民にとってのベストはなにか」という視点に立ち、限られた財源のなかで最大の効果を発揮できる対策をスピーディに検討してくれました。まさに「民間的思考」が浸透している表れだと感じており、今後仮に新たな感染の波が来るような事態になっても、これまで通り臨機応変に対応できると考えています。

―もう1つの「未来への投資」についてはいかがですか。

 企業経営では、未来を見すえた「投資」が会社の持続的成長のカギとなりますが、それは行政運営でも同じだと私は考えています。知事就任以来一貫して、「教育の再生」と「産業の振興」をすべての分野の好循環の起点と位置付け、手厚い予算措置を講じてきたのは、そのためです。岡山の将来を担う子どもたちを育てる教育分野に関しては、知事就任直後からいきなり「カンフル剤」とも言うべき事業を行いました。

 じつはその頃、岡山県は学校での暴力行為の発生率や非行率、学力検査の点数がそれぞれ、全国でワーストクラスでした。私は学生時代、「教育県岡山」と言われたなかで育ちましたが、そのときの様相とはまったく異なっていました。抜本的対策を講じなければ事態は改善しないと考え、荒れている学校には警察官を訪問させ、「当たり前に授業ができる状態」にする政策を打ち立てたのです。

非行率が4分の1以下に減少。「教育県岡山の復活」へ

―賛否両論があったのではありませんか。

 前例のないことだったので、当時の教育委員会からは猛反対を受けました。でも、それくらい事態は深刻と判断したのです。そこで、新たな予算を組み、国の定めた定数を超えて県が警察官を雇用し「学校警察連絡室」という部署を設け、荒れた学校を巡回したのです。

 民間出身の私としては、経営の根幹を揺るがすような問題が発生した場合、徹底してその打開策に取り組むのはいわば当然のことでした。当時の教育現場の問題は、私から見ればまさに「県政の根幹を揺るがす問題」。一部の方々からは「税金の無駄」という意見は出ましたが、そのときの思い切った考えによる「投資」があったからこそ、いまでは非行率が当時の4分の1以下にまで減少したのだと考えています。「20年先の岡山の姿」を見すえて策定した基本計画『第3次晴れの国おかやま生き活きプラン』では、「教育県岡山の復活」を重点戦略の1つに掲げていますが、目指すべき将来像に向けた基盤が整いつつあります。

―「教育の再生」とともに注力してきた「産業の振興」では、どれくらいの成果をあげましたか。

 知事就任以来、6,000億円を超える新規の企業投資を呼び込み、6,700人以上の雇用が生まれました。徹底して、企業ニーズに応えた環境の整備や優遇制度の新設・拡充などに取り組んできた成果だと考えています。

 そもそも、産業が元気で自主財源を生み出せるようにならなければ、持続可能なまちづくりなどできません。県民にいまも慕われる、医師でもあった元岡山県知事の三木行治氏は、県全体の福祉制度を充実させるために水島臨海工業地帯を開発したと言われています。私も同様に、地域で健やかに育った子どもたちが、生涯にわたってイキイキと働ける基盤整備のために投資を積極的に行ってきました。そして、そこでさまざまな経済活動が生まれ、充実した医療や子育て環境など、地域の魅力をさらに高められる財源が生み出されています。そういう豊かな地域から、地域の未来を担う人材は輩出されるもの。この「好循環」を生み出す県政運営こそ、知事としての私の使命だと考えています。

地道な取り組みの積み重ねが、大きな成果を生む

―今後のビジョンを聞かせてください。

 私は、大規模な財政出動といった大きな取り組みだけを「投資」とは考えていません。私たちの生活でたとえると、1日の1%にあたる15分間を仕事のスキルアップへの「投資」に使えば、それを10年続けると900時間以上に。その頃にはきっと大きな成果が表れているでしょう。結局は、地道な取り組みの積み重ねが大事だということです。その先に、すべての県民が明るい笑顔で暮らす「生き活き岡山」を実現できれば、私は本望です。

伊原木 隆太 (いばらぎ りゅうた) プロフィール
昭和41年生まれ。岡山県出身。平成2年、東京大学工学部卒業後、外資系経営コンサルティング会社へ入社。平成5年に同社を退職し、平成7年にスタンフォード・ビジネススクール修了、MBAを取得する。平成8年、株式会社天満屋の取締役に就任し、平成10年には同社代表取締役社長に就任。平成24年、同社代表取締役社長を退任し岡山県知事選挙に立候補、当選を果たす。現在、3期目。
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