宮城県柴田町の取り組み
公民連携による公共施設の建て替え
「建物賃貸借方式」という事業採択で、初期費用を抑えた体育館整備を計画
柴田町 教育委員会 スポーツ振興課 課長補佐(班長) 高橋 秀治
※下記は自治体通信 Vol.46(2023年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
公共施設の新設や建て替えの際、財政の適正化や施設の効率的な設計、建設、運営のために、公民連携で事業を進めるPPP手法を採用する自治体は増えている。そうしたなか、柴田町(宮城県)では総合体育館の整備において、建物はPPP手法のなかでも賃貸借方式、維持管理運営は指定管理を採用。町の財政負担を考慮し、民間のノウハウを活かした整備がされるという。同町担当者の高橋氏に、詳細を聞いた。
[柴田町] ■人口:3万6,958人(令和4年11月末日現在) ■世帯数:1万6,228世帯(令和4年11月末日現在) ■予算規模:251億1,698万円(令和4年度当初) ■面積:54.03km2 ■概要:宮城県南部に位置している。城下町として栄えた船岡、奥州街道の宿場町であった槻木の2町が昭和31年に合併。以来、町でありながら周辺市をしのぐ人口を抱えるなど、宮城県仙南地域の中心地の1つとして存在感を発揮する。またJR東北本線や国道4号などが通る交通の要衝でもあり、食品関連や精密機器関連などの工場が多数進出。県内でも有数の製造品出荷額を誇る工業の町としての一面もある。
公共事業の見直しにより、PPP手法を模索
―柴田町が新総合体育館の整備を決めた背景を教えてください。
町内にある3つの体育館のうち、「柴田町民体育館」は昭和45年竣工のもっとも古い建物でした。それが、東日本大震災により構造体に大きな損害を受け、翌年には取り壊しが決定したのです。その後、平成27年に「柴田町総合体育館(仮称)基本構想」を新たに策定。スポーツ施設を核とした賑わいづくりとともに、災害時の避難所機能を有する拠点づくりを目指して、再整備計画がスタートしました。
―どのように計画を進めていったのでしょう。
当初は町の公共事業として進めていましたが、人口減少に伴い財政事情が厳しくなったことから計画の見直しを行いました。結果、民間のノウハウや技術を活用して事業費の抑制や質の高いサービスの提供を図れるPPP手法を検討。令和3年10月に民間事業者向けに募集要項を公表し、企画提案書を募集しました。
―民間事業者から提案書を募る際に、工夫した点はありますか。
今回の総合体育館には賑わいをもたらすスポーツ活動機能と防災機能を両立させるため、これまでの行政にはない民間事業者ならではのアイデアを重視しました。また、公民連携事業を町で初めて行うことから民間アドバイザーの支援を求め、あえて事業方式を制限しない「選択制」を採用。町からの要求水準も最低限に留め、具体的な手段や方法を民間事業者の創意工夫ある企画提案に委ねました。
初期費用の軽減と、予算の平準化が図れる
―結果、採用された企画提案書のポイントを教えてください。
伊藤忠商事を代表企業とするコンソーシアムを優先交渉権者に選定し、その後、事業契約を締結しました。事業方式は建物賃貸借方式で、同コンソーシアムにより企画、設計、建設、維持管理、運営を行う形です。コンソーシアムの構成企業の1つであるNTT・TCリースが体育館を保有し、町がその体育館を賃借する形で毎年「賃料」を支払うことになります。そのため、初期費用を大きく抑えることができ、財政負担の平準化が図れます。また、賃貸借期間満了後には町へ無償譲渡される点も評価しました。
そのほか同コンソーシアムの提案は、避難所利用時の手法など、民間の創意工夫が随所に盛り込まれています。さらに、地元の仙台大学や町内事業者などの活用や育成による地域貢献、IT導入による利便性向上なども含まれているので、大きな期待をしています。
支援企業の視点
建物賃貸借方式での費用の平準化は、予算の見通しが立てやすい利点も
NTT・TCリース株式会社 専門営業部 不動産営業部門 営業担当課長代理 真野 雄大
―公共施設の新設・建て替えに、PPP手法を検討する自治体が増えているのですか。
はい、増えています。近年は老朽化などの理由で、公共施設が次々と建て替えの時期を迎えています。ただ、多くの自治体が財政問題に直面するなか、いかにコストを抑えつつ魅力的な施設づくりを行うのか。その解決策として、民間のノウハウを活用したPPP手法を検討する自治体が増えているのです。
―PPP手法を検討する際のポイントはなんでしょう。
PPP手法のなかでもPFI((※PFI : 施設の設計から運営までを一体的に民間事業者に委ねて実施する方式))手法などさまざまな手法が考えられますが、当社では自治体に代わって施設を建設・保有し、賃貸借契約により施設を賃貸する建物賃貸借方式を提案しています。これなら自治体は初期費用が抑えられ、費用の平準化が可能。そのため、予算確保の見通しが立てやすいのもポイントです。さらに賃貸借期間満了後は自治体に無償譲渡するので、自治体は引き続き施設を利用できます。民間のノウハウを活用した、施設の企画・設計ができるのもメリットです。
―今後の自治体に対する支援方針を教えてください。
建物賃貸借方式を普及させることで、公共施設の新設や建て替えを支援していきたいと考えています。建物賃貸借方式はコスト面以外にも、PFI法による煩雑な手続きの制限を受けないことで事業検討期間を短縮できるメリットもあります。また、体育館に限らず、図書館や文化ホール、庁舎の新設や建て替えにも対応しますので、ぜひお気軽に問い合わせてください。
真野 雄大 (まの たけとも) プロフィール
愛知県生まれ。大学卒業後、エヌ・ティ・ティ・リース株式会社(現:NTT・TCリース株式会社)に入社。国内リース営業に携わる。令和3年4月より現職。
NTT・TCリース株式会社