※下記は自治体通信 Vol.52(2023年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
多くの自治体で業務効率化に向けたDX推進が課題となっているなか、紙ベースの行政手続きの変革が急がれている。口座振替依頼書や還付請求書を介する公金収納・還付業務は、その代表的な手続きの1つである。同業務の効率化を支援するヤマトシステム開発の小方氏は、「DX推進と合わせて、BPOも取り入れた仕組みで業務効率はさらに高められる」と指摘する。その仕組みの詳細について、同氏に聞いた。
ヤマトシステム開発株式会社
ソリューション事業本部 ビジネスソリューション部 チーフ
小方 香奈おがた かな
平成9年、奈良県生まれ。令和2年、ヤマトシステム開発株式会社に入社。自治体向けに収納業務をはじめとした既存サービスの展開と、新サービスの企画業務を担当する。
「徴収率安定」の利点はあるが、業務負担が大きい口座振替
―公金収納・還付業務の現状を教えてください。
公金収納業務において多くの自治体が、「自動引き落しにより徴収率が安定する」といった理由から、口座振替による収納を推進しています。還付業務も、住民の口座への振込で行われることがほとんどです。しかしそこでは、手続きにかかる職員の業務負担の大きさが課題となっています。
―どういう負担があるのですか。
まず、住民から送られてくる口座振替依頼書や還付請求書に記入漏れがないか、1枚ずつ確認する必要があります。口座振替については、振替登録のために金融機関別に依頼書を郵送する作業も生じます。振替登録が終わった口座情報は自治体へ受け渡されますが、その情報を自治体内のシステムに1件ずつ取り込む必要があります。仮に口座情報に誤りがあった場合、対象者に連絡して依頼書や請求書を送り直してもらう手戻りも発生します。DX推進で業務効率化を目指す多くの自治体が、こういった定型業務こそ効率化すべき課題だととらえています。
―どうすればいいのでしょう。
たとえば、住民が口座振替や還付請求の手続きをWebから直接行えるシステムを構築する方法があります。そうすれば、職員が記入漏れをチェックしたり、口座振替依頼書を金融機関へ送付したりする必要がありません。当社が開発した『公金収納支援サービス』および『還付業務効率化サービス』もそうしたシステムの1つで、住民が自治体のホームページなどから簡単に直接申請できます。住民が口座情報などを間違えて入力した場合は、手続きが完了しない仕組みのため、誤記載による手戻りを減らせます。また、振替登録された口座情報は、自治体内のシステムに自動的に取り込めるデータ形式で受け渡すことが可能です。
「機微性の高い情報を安全に管理できる」との評価
―導入実績はありますか。
『公金収納支援サービス』は、令和5年6月末時点で109自治体に導入済みです。特に、金融機関が振替登録した口座情報をLGWAN上で受け渡す仕組みが、「機微性の高い情報を安全に管理できる」と評価されています。『公金収納支援サービス』『還付業務効率化サービス』は、「便利な手続きの提供」という観点では住民サービス向上にも寄与するため、DX推進に資するシステムです。さらに当社ではこのサービスを通じて、職員の業務効率をより高める支援を始めています。
―具体的に教えてください。
オンラインで住民からの申請を受け付ける仕組みを構築したとしても、従来の「紙申請」はどうしても残ってしまいます。その部分の効率化を支援するBPОサービスです。当社が、職員の皆さんがこれまで行ってきた紙申請にかかる業務を代行します。当社では、DXを推進しても、現状の運用を維持する必要がある部分は必ず残ると考えています。その部分までの支援により、職員の皆さんが定型業務から解放されてこそ、専門性が必要なコア業務に専念できるのです。ぜひ当社にご相談ください。
定型業務の効率化によって、住民サービス向上・多様化を進める
[須賀川市] ■人口:7万3,251人(令和5年7月1日現在) ■世帯数:2万7,866世帯(令和5年7月1日現在)
■予算規模:495億1,323万円(令和5年度当初) ■面積:279.43km² ■概要:福島県のほぼ中央に位置する。10haの広さがある須賀川牡丹園は、国指定の名勝として知られる。
―須賀川市では公金収納業務に課題があったと聞きます。
はい。当市では、金融機関での窓口納付や口座振替以外にも、スマホ決済のアプリ導入など、住民サービス向上の視点で収納手段の多様化を進めてきました。そのなかでも、口座振替を希望する住民は非常に多く、新規で毎年約3,000件の申請書が市に届き、その処理業務が職員の大きな負担でした。その改善策として、ヤマトシステム開発から口座振替申請のオンライン化の仕組みについて説明を受けました。
―その仕組みをどのように評価しましたか。
申請情報が金融機関へ直接届く仕組みのため、申請書類の内容不備の防止が図られ、また、職員の業務負担も大幅に軽減できると感じました。住民にとっても、オンライン上で24時間365日、口座振替の申請手続きを行えるメリットが生まれます。同社以外のサービスも検討したところ、我々が調べた範囲内では、口座情報をLGWAN環境内で管理できるのは同社のサービスだけでした。個人情報保護の観点から重要な機能だと判断し、導入を決めました。令和4年4月から運用しています。
―導入後の状況について教えてください。
直近の令和5年4月と5月の実績は、口座振替申請のうち約25%がオンライン経由でした。この割合は増加基調にあり、職員の業務負担はさらに改善されると期待できます。こうした結果を受けて、『還付業務効率化サービス』も導入しようと考えています。一方で「紙申請」も半分ほどの割合で残ることを想定しており、その部分は今後、同社のBPOサービスの活用も検討し、さらなる業務の効率化と住民サービスの向上・多様化を図っていきたいと考えています。