※下記は自治体通信 Vol.54(2023年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自治体DXの機運が高まる昨今、あらゆる業務の改善にシステムの力が活用されているが、実は防災活動もその例外ではない。実際に須賀川市(福島県)では、地元の消防本部と、市内各地域の防災活動を担う消防団との情報連携を強化するために「防災アシストアプリ」という専用アプリを導入。地域防災力の強化に役立てているという。アプリ導入の経緯とその効果について、同市総務部の室氏に聞いた。
[須賀川市] ■人口:7万3,103人(令和5年10月1日現在) ■世帯数:2万7,887世帯(令和5年10月1日現在) ■予算規模:495億1,323万円(令和5年度当初)
■面積:279.43km² ■概要:福島県のほぼ中央に位置する。東北縦貫自動車道、国道4号、東北本線、東北新幹線、水郡線が通り、首都圏や仙台圏へのアクセスが容易で、高速交通体系に恵まれた特徴を持つ。さらに、県内唯一の空の玄関口「福島空港」を有し、「臨空都市」として成長を遂げた歴史がある。
消防団への情報伝達の遅れが、初動対応の支障に
―防災活動において専用アプリを導入した経緯を教えてください。
当市では、火災発生時に消防本部へ通報が入ると、消防本部から消防団の幹部にメールが配信され、そこから所属の各団員に電話やメールで発生場所や発生状況を連絡していました。しかし、団員は生業の傍らで消防団活動をしているため、時間帯などによっては連絡がつかず、時間を要する場面も多くありました。また、電話やメールでは共有できる情報は限られるので、そうしたタイムロスや情報の齟齬により、消火活動でもっとも重要とされる初動対応が遅れるケースもありました。そのため、団員への一斉通知や、詳細状況の共有といった情報伝達を強化できる方法はないか検討していました。そうしたなか、当市消防団に所属する情報整備局社代表の斎藤さんが、日頃の消防団活動の経験をもとに独自の防災活動支援システムを開発したと聞いたのです。
―どのようなシステムですか。
地区の消火栓や防火水槽といった消防水利の位置を一目でわかるように、スマホやタブレット端末の地図上にマッピングするシステムでした。すでに現場において、応援要請で隣接地域から団員が派遣される際に、有効に活用されていると知りました。アプリを使う団員だけがクローズな環境で情報共有できる仕組みにも当市は注目。課題だった情報連携にも活用できれば、消防団の活動を支援でき、地域の防災力強化にもつながると考えたのです。そこで、さらなる機能強化を依頼し、防災アシストアプリ『S.A.F.E.』として市内全域での導入を決めました。
アプリの機能強化で、消防団活動の最適化を図る
―具体的にどのような機能強化を図ったのですか。
団員が「火災発生」を認知しやすいよう、スマホへのポップアップ通知とサイレン音で一斉通知することを最優先に考えました。また、団員の出動可否や現場への到着予定時間などの情報を、所属班内で共有する機能も追加しました。この機能があれば、出動団員に不足などがあった際、事前に隣接地域の団員に応援要請できます。そのほか、団員の出動状況や現場での車両の位置を表示・共有する機能も実装しています。さらに、火災や土砂崩れなどの被災現場や周辺環境の状況を写真でリアルタイムに報告・共有できる機能も実装し、現在試験運用を行っています。
消防水利や被災状況に関する情報共有は、災害現場へ向かう団員の適切な準備にもつながるため、「市民の安全はもとより、団員自身の安全も守りたい」と考える当市消防団の運営方針にも寄与すると考えています。こうしたアプリの機能強化で消防団活動の最適化を図りながら、地域の防災力強化につなげたいと考えています。
消防団員専用の連携アプリは、災害弱者を救う情報基盤にもなる
夏井 淳一なつい じゅんいち
昭和45年、福島県生まれ。医療機器メーカーに勤務しながら、平成24年、バーズ・ビュー株式会社の設立に関与し、平成28年から現職。情報整備局株式会社の取締役副社長も務める。
斎藤 浩平さいとう こうへい
昭和57年、福島県生まれ。システムエンジニアとして働く傍ら、消防団として活動。東日本大震災の経験から消防団のDX化による地域防災への貢献を志す。
―防災アシストアプリの開発には、現役消防団員としての経験が活かされているそうですね。
斎藤 ええ。消防団員として東日本大震災を経験した際、災害時には電話による指示命令系統が機能しなかったという苦い体験があります。その教訓から、情報連携の重要性を痛感し、消防団活動に資する情報共有の仕組みを開発。その後、消防団活動に必要な機能をオールインワンで実装するアプリを志向し、機能を強化してきました。
―特徴を教えてください。
夏井 『S.A.F.E.』では、消防団員に最適化されていることに加え、消防団員の出動状況などを可視化できるため、団員の報酬計算といった自治体職員の業務も効率化できます。災害時の有用性と同時に、日常業務の効率化にもつながる機能は、導入自治体に歓迎されています。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
夏井 災害対策として今後、各自治体は自力避難が困難な「災害弱者」への対応を強化しなければなりません。その際、消防団員のみが情報連携ができる『S.A.F.E.』の仕組みは、災害弱者に関する個人情報を扱うプラットフォームとして活用できる可能性があります。地域の防災力を高めるためのツールとして、『S.A.F.E.』を積極的に提案していきます。
情報整備局株式会社設立/令和5年3月 資本金/900万円 事業内容/防災アプリ、システムの開発運用 URL/https://www.j-s-k.info/ お問い合わせ先/050-5587-7475(平日 9:00~17:00) info@sukapo.jp