※下記は自治体通信 Vol.57(2024年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
平成28年の発達障害者支援法改正により、乳幼児期から高齢期までの「切れ目のない支援」が明示されて以降、各自治体では、ライフステージに応じた医療、教育、福祉などの関係機関の連携強化に取り組んでいる。その一方で、組織の壁が立ちはだかり、個人情報などの機微な情報を関係機関の間で共有することの難しさを指摘する声も多い。そうしたなか、市川市(千葉県)では、専用システムを導入し、この課題を乗り越えているという。導入の経緯と効果について、同市担当者2人に聞いた。
[市川市] ■人口:49万2,587人(令和6年2月29日現在) ■世帯数:25万6,246世帯(令和6年2月29日現在) ■予算規模:2,795億1,400万円(令和6年度当初)
■面積:57.45km² ■概要:7世紀には現在の国府台周辺に下総の国府が置かれ、8世紀には現在の国分に国分寺が建立されるなど、つねに地方文化の中心として発展してきた。昭和9年11月に市川町、八幡町、中山町および国分村が合併し、千葉県では3番目に市制施行。その後、町村合併を重ねて市域を拡大。昭和30年代後半からは、急激な人口の増加に伴い、郊外住宅都市として都市化が進んだ。
市川市
こども部 発達支援課 こども発達相談室 主幹
大塚 晶子おおつか あきこ
市川市
こども部 発達支援課 こども発達相談室 理学療法士/相談支援専門員
黒川 諒くろかわ りょう
手書きファイルは膨大な量に
―市川市における発達障害者支援の取り組みを教えてください。
大塚 本市では、発達障害児およびその保護者からの相談については、就学前は発達支援課所管の「こども発達センター」、学齢期は学校教育部所管の「教育センター」が担当しています。両センターでは、「いちかわハートフルプラン」に基づき、地域の中で障害の有無にかかわらず、一人ひとりの特性やニーズに合わせて適切なサポートを受けながら成長できるインクルーシブな支援をしています。
黒川 そこでは、乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点に立ち、「スマイルプラン」と名付ける教育支援計画を毎年個々人につくっています。さらに、個別や集団で行われる相談内容や過去の支援内容といった情報も合わせて個人シートにまとめ、こどもが幼稚園や保育園、小学校に進学する際にはそれらの情報を引き継ぐことで、切れ目のない支援に活用してきました。ただし、そこにはかつて大きな課題があったのも事実です。
―どういった課題でしょう。
黒川 従来は、情報をすべて紙で運用しており、手書きで記録するファイルは膨大な量になっていました。記録を作成、管理する職員の負担は大きいうえに、必要な情報を探すのもひと苦労で、利用者を長く待たせる場面もありました。
大塚 この負担は教育センターでも同様で、当センターとの業務引き継ぎや情報共有も紙ベースゆえに、多くの時間と手間を要していました。そこで、平成30年度の心理士増員に合わせて、ファイルの電子化を決定。日野市(東京都)の先行事例に学び、同市が運用する発達・教育支援システム『INCLSS(インクルス)』の導入を決め、令和2年度から運用を開始しています。
「福祉」と「教育」の情報を、一元的に管理
―どのようなシステムですか。
大塚 「福祉」と「教育」の両分野にまたがる情報を一元的に管理し、組織間でのきめ細かな情報連携と安全な情報管理を実現するシステムです。細かな権限設定を可能としており、組織の枠を越えて機微な情報の中から必要なものだけを共有することができます。現場の声をもとに、開発元のワイ・シー・シーに「スケジュール機能」を開発してもらい、相談の予約受付もシステム上で管理しています。
―導入効果はいかがでしょう。
黒川 シートの作成と管理の負担は大きく減り、これまで1人分に1時間は必要だった作成は、10分程度で終えられます。年間約1万4,000件のシートを作成する当市においては、大きな効果です。組織間の情報連携もより一層円滑化した感覚です。ファイル検索も簡単になり、問い合わせに対して利用者を長くお待たせすることもなくなりました。紙の時代とは違って、ほかの職員が作成した資料を目にすることも多くなったため、記述の方法や支援の内容などを参考にする職員も増えています。今後は組織全体で「支援の質」が高まる効果も出てくるかもしれません。
支援対象者の増加が予想される今、システムによる情報管理は不可避に
鈴木 智也すずき ともや
昭和54年、山梨県生まれ。平成13年4月、株式会社ワイ・シー・シーに入社。自治体担当営業、医療介護関係担当営業などを経て、平成28年4月より現職。
―発達障害者支援をめぐる自治体の課題はなんでしょう。
「切れ目のない支援」を目指すうえでは、医療、福祉、教育、就労など各分野の関係機関が密に連携する必要がありますが、組織の壁が立ちはだかり、情報連携に難しさを感じている自治体が少なくありません。そこには、共有するものが「機微な情報」であることに加え、依然として情報管理が紙ベースで行われている事情もあります。近年の法改正やこども家庭庁の発足を受け、発達障害者支援事業の認知度が高まってくれば、今後ますます支援対象者の増加が予想されます。そこで当社では、システム化による情報管理・連携の強化を支援すべく、発達・教育支援システム『INCLSS』を自治体に提案しています。
―特徴を教えてください。
このシステムは、発達障害者支援の分野で先進的な取り組みが注目される日野市の協力を得て開発したものです。『INCLSS』では、保育園や幼稚園、小中学校での様子や支援内容を1年ごとに対象者のシートに登録・管理します。これを、福祉と教育の両関係機関で共有することで、進学などの際には情報の切れ目ない引き継ぎを可能にします。細かな権限設定によって、必要な情報のみを最小限の職員がセキュアに共有できる仕組みも特徴です。当社では、現場の声を反映したテンプレート設定や新機能の追加によって、システムの改善も日々重ねています。ライフステージを通した「切れ目のない支援」の実現を目指す自治体のみなさんは、ぜひお問い合わせください。