※下記は自治体通信 Vol.58(2024年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
多くの自治体が日常的に行っている、公共施設予約の受け付け業務。近年では、住民がいつ・どこでも手軽に予約を行えるよう、受け付けのオンライン化に取り組む自治体が増えている。高畠町(山形県)もそうした自治体の1つで、SNSのLINEで予約を受け付けられる仕組みを構築。住民サービスの向上に確かな手応えを感じているという。取り組みの詳細を、同町企画課情報戦略係の担当者2人に聞いた。
[高畠町] ■人口:2万1,535人(令和6年4月1日現在) ■世帯数:7,794世帯(令和6年4月1日現在) ■予算規模:250億4,126万円(令和6年度当初) ■面積:180.26km² ■概要:山形県南部の置賜エリアに属する。盆地特有の気候が特徴的で、特に冬季は大陸からの季節風により多量の降雪がある。昼夜の寒暖差が大きく、農産物の成長に好影響を与えている。全国有数のぶどうの産地で、同町によると、デラウェア、シャルドネの生産量は全国1位。ほかにも、米やりんご、西洋梨などの農産業が盛んで、そのみのりの豊かさから「まほろばの里」と呼ばれる。
予約のたびに出向いてもらう不便を、住民に強いていた
―公共施設予約のオンライン化を決めた経緯を聞かせてください。
小野 情報戦略係では、「誰にとってもわかりすく、使いやすい住民サービスの提供」を目指し、当町のDX推進を主導しています。その具体的な取り組みを検討するなか、真っ先に着目したのが公共施設予約でした。当町では原則、営業時間中の施設で書類に記入してもらう方法により予約を受け付けていました。そのため住民には、予約のたびに仕事の合間を縫って施設へ出向いてもらうといった不便を強いてしまっていたのです。そうした不便を解消するために、我々は施設予約のオンライン化に向けた検討を進めていきました。
―具体的に、どのような検討を行ったのでしょう。
菅原 初めは、メーカーが提供している施設予約システムの導入を考えました。そのシステムは、1つのWebページにいくつものフォームやボタンが配置された仕様です。しかし、いざ利用者視点に立って使い勝手を試してみると、「ページ内のどこから、なにをすればいいのか」がわかりにくく、導入決定にはいたりませんでした。そこで改めて別の方法を探すなか、我々はBot Express社からLINEの活用に関する提案を受けました。それは、LINEに便利な機能を追加できる「拡張ツール」を活用することで、施設予約をオンライン化するという提案でした。
小野 操作方法がシンプルで、老若男女を問わず多くの人々が使い慣れたLINEならば、まさに我々が目指す「わかりやすく、使いやすい住民サービス」を提供できると、その提案を評価しました。また同社の拡張ツールについては、施設の解施錠をITで制御する「スマートロックシステム」と連携できる点にも関心を持ちました。
長距離の移動も生じうる「鍵の受け渡し」も不要に
―詳しく聞かせてください。
小野 予約機能とスマートロックの連携により、管理人のいない施設や時間帯でも、施設利用に伴う鍵の受け渡しが不要になるというものです。当町には、鍵の保管場所と施設とが数㎞離れているケースもあり、利用者に、鍵の受け渡しのために長距離移動を強いることもありました。そのため、この仕組みは利用者のさらなる利便性向上につながると期待したのです。
菅原 そこで我々は、同社のLINE拡張ツール『GovTech Express』を導入。今年3月から随時、学校の体育館や町営の運動施設、公民館など12施設の予約を、当町のLINE公式アカウントで受け付けられるよう準備を進めています。
―機能の実装により、どういった成果を期待していますか。
菅原 予約と鍵の受け渡しで複数の移動を住民に強いていた従来と比べ、住民サービスの質を大幅に高められると期待しています。施設予約機能の使い方は非常に簡単で、利用者はチャットボットの案内に従い、施設の種類、利用希望日時、利用目的などの項目を選択・入力していくだけです。予約完了後は、スマートロックの暗証番号をLINE上で取得。利用当日、施設の扉に取り付けられたキーパッドにその番号を入力し解錠すれば、そのまま施設を利用できます。今回の取り組みによって、施設利用に伴うあらゆる手続きの不便さを「ゼロ」にしていきたいですね。
小野 職員にとっては、予約受け付けや解施錠の管理がシステム化されることで、業務負担が軽減できると見込んでいます。今後は「ごみ収集予約」や「通報」「防災」といった機能も『GovTech Express』を用いてLINEに実装し、さらなる住民サービスの向上と職員の業務効率化を目指します。
公共施設予約へのSNS活用②
自由度の高い「LINE拡張ツール」で、住民サービスの利便性を高めよ
ここまでは、公共施設予約の受け付けにLINEを活用し、住民サービスの向上と職員の業務効率化を目指す高畠町の取り組みを紹介した。ここではその取り組みを支援したBot Expressを取材。同社の須藤氏に、自治体がLINE活用を成功させるためのポイントを聞いた。
株式会社Bot Express
パートナーサクセスマネージャー
須藤 健すとう けん
秋田県生まれ。平成27年、仙北市役所に入庁し、税務、財政、選挙執行事務を経験。「行政と住民の間における情報の橋渡し役として、多様な価値観に適したサービス提供を目指したい」という想いのもと、令和5年12月、株式会社Bot Expressに入社。パートナーサクセスマネージャーとして、自治体へのサポート業務を担う。
個々の施設の実情に合った、予約受け付けに対応できるか
―施設予約のオンライン化に取り組む自治体は増えていますか。
住民サービスの向上と職員の業務効率化を同時に目指せる取り組みとして、施設予約のオンライン化を図る自治体は増えています。そこでは、システムベンダーなどが提供する既成の予約システムを活用するケースを多く目にします。しかし、そうしたシステムは一般的に、IDやパスワードの登録といった操作が必要で、住民に「手間」と捉えられてしまうことがあります。その結果、利用が広まらないケースは少なくありません。また、自治体がシステムの仕様をカスタマイズしたい場合、改修に多くの費用や時間を要してしまうという話も聞きます。
―どのような解決策がありますか。
すでに多くの人々が慣れ親しむLINEと、そこへさまざまな追加機能を実装できる「拡張ツール」の活用をおすすめします。利用者は、自治体のアカウントからリッチメニュー*をタップするだけで各種機能を使えるため、IDやパスワード、メールアドレスの入力といった煩雑な操作が不要です。利用者にとってわかりやすいシステムを構築できることで、利用の拡大を目指せます。当社でも、『GovTech Express』の提供を通じ、住民と職員がともに楽になるような施設予約システムの構築を支援します。
―どういった特徴がありますか。
豊富な「機能パーツ」を用いて、LINE機能の実装やカスタマイズを、数の制限なく行えることです。それにより、利用形態や利用者属性、周辺環境といった個々の施設の実情に合った予約システムを構築できます。たとえば、施設予約に関するものでは、「抽選予約」や「複数枠の一括予約」、「オンライン決済」、「スマートロック」などの機能パーツを用意。マイナンバーカードを使った本人確認により、当該自治体の住民だけに施設を貸し出すといった対応も可能です。機能は、職員が自らノーコードで開発することもでき、そうして完成したオリジナルのLINE機能は、ほかの自治体と共有もできます。
また当社では、職員が安心してLINEを活用できるようなサポート体制や仕組みも充実させています。
*リッチメニュー : ユーザーを各種コンテンツに誘導するためにトーク画面の下部に大きく表示されるメニュー
自治体専属のスタッフが、機能開発を伴走支援
―具体的に聞かせてください。
『GovTech Express』はLINE機能の実装・開発に関する自由度が高いぶん、十分に使いこなせるか職員が不安に感じるケースもあります。そこで当社では、各自治体に専属するスタッフが伴走支援する体制を構築。各自治体のルールやニーズに合った機能開発を徹底的にサポートします。また、情報セキュリティの観点で自治体にLINEを安心して活用してもらうために、当社ではISMAP*を取得済みのSalesforceをベースに、『GovTech Express』を開発しています。LINEでやりとりされた通信はすべて暗号化され、データは国内2ヵ所にあるSalesforceのデータセンターに格納されます。
―今後、どのような方針で自治体を支援していきますか。
官公庁向けに特化したシステム開発会社として、現場目線に立ってより良い住民サービスづくりを支援していきます。当社が毎月開催しているセミナーでは、そのつど自治体職員に登壇してもらい、LINEの活用に関する情報を共有しています。当社のLINE公式アカウントでは、自治体導入事例や各種イベント情報を受け取れるほか、機能デモを体験することもできますので、ぜひご確認ください。
*ISMAP : 日本政府がクラウドサービスを調達する際の評価制度