

※下記は自治体通信 Vol.58(2024年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
近年、過去には見られなかったゲリラ豪雨や線状降水帯といった局所的な豪雨が各地で頻発し、大規模な被害を受ける自治体が増えている。そうした自治体の1つである福島市(福島県)では、過去の教訓から、新たに河川の水位予測システムを導入し、避難情報発令の迅速化に役立てているという。同市担当者の佐藤氏に、システム導入の経緯やその効果について聞いた。

意思決定のための情報がなく、後手に回った反省も
―河川の水位予測システムを導入した経緯を教えてください。
当市には、令和元年の台風19号で市内の濁川(にごりがわ)の堤防が決壊し、約5,000人の市民が避難するという甚大な被害を受けた経験があります。避難所の開設数は42ヵ所と過去最大規模にのぼり、避難情報の発令は13回にも及びました。ただし、濁川は中小河川であるゆえに水位変化がとても激しいことに加え、1級河川のような詳しい水位情報はなかなか得られない事情もあり、これらの意思決定は後手に回ったという反省がありました。その教訓から当市では、河川改修や流域治水、降雨量や気象情報の収集体制の強化などハード・ソフト両面での水害対策に取り組むと同時に、中小河川の水位予測ができる仕組みを探していました。そうしたなか、『自治体通信』で、神奈川県の川崎市や静岡県の藤枝市など「河川の水位予測システム」を導入した記事を読み、興味を持ちました。
―どのような点に興味を持ったのでしょう。
導入していたのは、構造計画研究所のクラウド型リアルタイム洪水予測システム『RiverCast』でした。気象庁などのリアルタイム雨量情報と当市のリアルタイム河川水位情報を分析することで、30分ごとに15時間先までを見すえた水位予測が可能とのことでした。導入自治体に問い合わせた結果、2~3時間先の予測精度はかなり高く、予測の確率まで算出されることも確認でき、迅速な避難情報発令の一助になるものと期待しました。また、デジタル田園都市国家構想交付金を活用できることもわかりました。すでに運用している当市の「災害情報システム」とAPI連携できることも評価し、正式に導入を決定。令和5年6月から運用を開始しています。
避難情報発令の判断に際して、精神的負担が軽減された
―導入効果はいかがですか。
予測情報の精度は期待通りで、避難情報発令の判断に際して精神的負担が軽減されたことを実感しています。実際、導入後に2度大雨に見舞われたことがありました。その際には、取得した濁川の水位予測情報を判断材料の1つとして活用し、職員は冷静な対応をとることができました。それだけではなく、この2度の経験から、降水量と濁川の水位との関係性がおおよそつかめたのも大きな成果だったと感じています。今後も、気象庁の危険度分布情報「キキクル」を主軸としながら、その補足情報として『RiverCast』を有効活用し、迅速かつ的確な避難情報の発令体制を構築していきたいと考えています。


―河川氾濫などの水害対策を強化する自治体は多いのですか。
はい、多いです。ゲリラ豪雨や線状降水帯は過去に経験したことのない降雨を地域にもたらし、特に中小河川の水位上昇に顕著な影響を及ぼします。対策として、中小河川を管理する自治体が水位計やカメラを独自に設置し、河川の監視に取り組む例が増えています。しかし、水位が急激に変動するので、現況の変化を見てからでは判断が後手に回る恐れがあります。そのため、水位予測情報を求める声は強く、当社のリアルタイム洪水予測システム『RiverCast』への問い合わせも増えています。
―システムの特徴を教えてください。
河川水位の変動を15時間先まで予測できるのが特徴です。そこまで将来を見通すことで、住民に夜間避難をさせない早いタイミングで避難情報発令や水防活動が実現できます。また、天気予報の不確実性を考慮した水位予測を行うことで、基準水位に対する「超過確率」という定量的な数値を得られます。超過確率を防災対応時の判断材料とすることで、円滑かつ合理的な意思決定ができます。導入に際しては現場の測量や調査は必要なく、当社が必要なデータを手配し短期間でシステム提供が可能です。運用後も蓄積データを予測モデルに反映していくことで、予測精度を年々向上させられるのも本システムの強みです。
公的情報では、中小河川の変動を見通すことが困難な場面が増えています。地域の治水対策や河川管理に、『RiverCast』をぜひご活用ください。

設立 | 昭和34年5月 |
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資本金 | 10億1,000万円 |
従業員数 | 670人(令和6年4月1日時点) |
事業内容 | 建物の構造設計業務から構築物を取り巻く自然現象の解析やシミュレーション業務、情報通信分野でのソフトウェア開発、 |
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