全国に先駆けたDBO方式
あらかわクリーンセンターの竣工は平成20年8月。福島市は旧焼却施設の建て替え事業の実施にあたりPFI導入可能調査を実施し、もっとも費用対効果が得られる公設民営方式としてDBO事業とする方針を決定。約3年の建設期間を経て供用開始した。公設公営と比べて、※VFMは約16%に上ると計算されている。
建設費は約90億円で、20年間の運営委託費は約120億円。運営業務は荏原環境プラントが出資する特別目的会社、株式会社あらかわEサービスに20年間にわたり委託されている。同社には、施設の運転および保守管理・補修・更新とその付帯業務すべてが委託されている。DBOとしては全国3番目の事例で、あらかわクリーンセンターの供用開始と前後して、相次ぎ全国でDBO方式が増加した。
※ VFM:Value for Moneyの略。従来の方式とPFI方式を比較して総事業費を削減できる割合
震災から1週間で復旧
あらかわクリーンセンターは、当初期待されていた以上の価値を地元に還元している。
そのひとつが売電事業。新電力事者でもある荏原環境プラントは、あらかわクリーンセンターが地域の家庭ゴミを燃料にしたバイオマス発電で製造した電力(余剰電力)を市内の小中学校に供給。「電力の地産地消」は、〝環境学習〟の題材にもなっている。また、東日本大震災では、地震発生後、1週間で再稼働を開始。その背景には、民間ならではの機動力があった。次ページから、福島市と荏原環境プラントの2人の責任者へのインタビューを通じ、あらかわクリーンセンターにおける効果や震災時の取り組みなどを追った。
豊富な実績という信頼
―福島市はDBO方式での焼却施設運営に、どのようなことを期待していたのですか。
財政負担の大幅軽減です。事業コストの削減、単年度予算にともなう年度ごとの出費の増減の平準化、補修・更新業務に係るすべての費用を委託費に含めることなどができるからです。あらかわクリーンセンターのVFMは約16%。20年にわたる長期委託契約で、公設公営方式やPFI方式と比較して、事業コストの削減効果はDBO方式が最大という結果でした。
―どのような姿勢で住民理解の形成に臨みましたか。
住民への説明はすべて市が行いました。ですから、従来の公設公営から事業方式が変わるからといって住民に対する市の対応が変化するという認識はされませんでしたし、DBO方式の採用について反対はありませんでした。
背景にあったのが荏原環境プラントへの信頼。あらかわクリーンセンターの※EPCや※O&Mを担当する同社は、当時、官需約140ヵ所、民需約40ヵ所の焼却炉の納入実績を有し、約80ヵ所もの運転実績をもっていました。
※EPC:Engineering (設計) Procurement (調達) Construction (建設)の略。建設プロジェクトの建設工事全体を指す
※O&M:Operation & Maintenanceの略。運転管理・保守管理の意味
さまざまな提案
―焼却施設はエネルギー回収施設と位置づけが変化していますね。余熱利用の状況を教えてください。
資源化工場破砕機防爆用へ蒸気供給をしているほか、近隣の福祉施設2ヵ所に温水供給を行っています。
また、バイオマス発電で構内電力を賄い、余剰電力は荏原環境プラントに全量を売電。同社は東北電力の送電線を通じて福島市内の小中学校、約70校に電力を供給しており、「エネルギーの地産地消」を実現しています。
―その経緯を教えてください。
当初は福島市が東北電力に売電してきました。しかし、発電量計画の策定など市の業務負担が増加していたところ、※PPS事業者でもある荏原環境プラントから業務負担を軽減しつつ売電収入の安定化を図るスキームとして売電先を同社に切り替える提案を受け、その後、福島市内の小中学校に電力供給するプランもセットで提案してくれたのです。
売電先を荏原環境プラントに切り替えたことで、実際に業務負担の軽減と売電収入の安定化が実現したほか、焼却施設が小中学校に電力供給を行うという全国でも珍しい先進事例が生まれました。こうした、あらかわクリーンセンターの取り組みを環境学習の題材としてあつかうアイデアが検討されており、この面でも同社からサポートの申し出を受けています。
※ PPS:Power Producer and Supplierの略。契約電力が50kW以上の需要家に対して一般電気事業者が有する電線路を通じて電力供給を行う特定規模電気事業者のこと
地元の厚い信頼
―そのほかに還元されているメリットはありますか。
地元雇用にも貢献しています。あらかわクリーンセンターの焼却炉はストーカー式都市ごみ焼却技術をベースに、排ガス量の低減、施設のコンパクト化、熱回収の高効率化を図った荏原環境プラントの次世代ストーカー技術や焼却灰を溶かして再資源化する灰溶融炉を導入した新鋭施設。一方で、こうした新技術を使いこなせる人材の育成が課題のひとつでした。しかし、この面でも荏原環境プラントに熱心に取り組んでもらい、いまでは運転やメンテナンスなどを行う荏原環境プラントの福島あらかわ管理事務所の約30名のスタッフのほとんどが地元雇用になりました。数年前からは地元高校生の新卒採用も開始しています。
さらに、東日本大震災では民間の機動力を発揮してもらった結果、震災後、わずか1週間で運転再開するなど、住民から厚い信頼を寄せられています。今後も官民協働で荏原環境プラントと一緒にさまざまな施策に取り組んでいきたいですね。