―市が雨量観測システム整備を推進した背景を教えてください。
平成26年7月、台風の影響で、当市に近い南木曽町で土砂崩れが発生。ひとりが亡くなられました。改めて災害の恐ろしさを身近に感じ、観測体制を整えることにしたのです。
―独自の雨量計を設置したのはなぜですか。
「知りたいポイント」の雨量を「知りたい時間間隔」で観測するためです。市内には気象庁、国土交通省、長野県が設置した雨量計があり、従来はそのデータや気象庁などの天気予報により住民に避難を呼びかけるかどうかを判断していました。
しかし、それらの観測ポイントは、水害や土砂災害の危険性を市が判定するために「ここの雨量を知りたい」という場所とは、どうしてもズレがあります。そこで今回は、市にとって必要な6ヵ所を選定。雨量計を設置して、今年4月から本格運用を開始しました。
そして、その観測データを1分間隔で職員がチェックできるようにしました。
従来は、水害や土砂災害の危険を15分~20分前の雨量をもとに判定していましたが、突然のゲリラ豪雨には、それでは手遅れになりかねなかったのです。
イニシャルでもランニングでも低コストに
―日本エレクトリック・インスルメントの雨量観測システムを選択した決め手はなんでしょう。
気象観測機器のメーカーとして豊富な実績があることに加え、システム構築から保守・運用まで一貫して行えるメーカーだったからです。また、今回のシステム導入にあたっては、幅広く技術的な知見を集めようとプロポーザル方式を採用。そのなかで、日本エレクトリック・インスルメントの提案は私たち職員の使い勝手が非常に良いシステムでした。
また、クラウドを利用するため、イニシャルでもランニングでも低コストだったこともあります。さらに、土砂災害の危険性を判定するシステム開発にも取り組んでおり、雨量観測だけではなく、幅広く災害に対応できるシステム構築を提案してくれたのです。
住民にわかりやすく雨量データを公開できる
―使いやすい点はどこですか。
ひとつの画面上に、さまざまなデータを同時に表示できることです。たとえば当市をGoogleマップ上に表示し、そこに観測ポイントをプロット。ポイントごとの現在の雨量の表示の上に、クラウドを介して取り込んだ気象庁の「250mメッシュ高解像度降水予測」画像を重ねて表示できます。
「いま、この地点でかなりの雨が降っている。さらに強い雨雲があと20分で再び市の上空にくる。水害の発生の危険が迫っている」などと、1つの画面だけを見て瞬時に判断できます。従来なら、あちこちの情報源にアクセスして、取りまとめる必要がありました。
その時間を短縮し、より速く、より的確に避難やその解除などを判断できるようになりました。
―クラウドシステムにしたことは、コスト面のほかにどんなメリットがあるのでしょう。
住民への情報公開が手間やコストをかけずにできることです。パソコンやスマートフォンから公開画面にアクセスしてもらえば雨量情報を知ってもらえます。
また、庁舎にサーバ設備が不要で設置スペースや機器の保守管理が必要ない上、クラウドのシステム監視により障害時に迅速な発見・対処が可能です
全国で年間1000件起きる土砂災害対策への活用も
―今後、どのように活用を拡げていきますか。
土砂災害の予測精度を高められるのではないかと期待しています。自前の雨量観測体制を整備したことで、「ここの雨量がこれだけのとき、土砂災害があった」というデータを多く集められます。それをもとに地域の危険性を市で判断し、いち早く周辺住民に警戒を呼びかけられるようにしたい。
その第一歩として、京都大学の知的財産である「斜面崩壊予測システム」を活用して日本エレクトリック・インスルメントが実用化した新しい土砂災害の危険度判定システムに市の雨量データを連動させ、有効性を検証しています。
いま、全国で年間1000件の土砂災害が起きています。幸い、当市では近年、大きな災害はありませんが、決して安閑としてはいられないのですから。