与えられたミッションは、広報紙のリニューアル
―「市政だより くれ」を平成28年2月にリニューアルしました。理由を教えてください。
理由は当時の上司から「広報紙をこれまでとは全く違うものにしてくれ」と言われたからです。呉市の広報紙の発行部数は約10万部。それがあまり読まれず古紙になっているのではないかと。そこで「どうしたら広報紙を読んでもらえるか」を徹底的に議論。その過程で浮かび上がってきたのが「若い世代に地域情報は届いているのか」という疑問でした。
紙の新聞ですら読まない若者がいるなかで、広報紙が読まれているとはとても思えませんでした。
―それでどうしたのですか。
「若い世代にもっと地域や行政の情報を」という方向性を定め、スマホ世代の特性を「オンデマンド(いつでもどこでも)、マルチタスク(~しながら)、インタラクティブ(双方向)」と捉え、それに合った広報紙を目指すことにしました。
―電子化すれば若い世代は読んでくれるものでしょうか。
それは短絡的すぎます。しかし、若い世代が地域情報を目にする機会を増やさなければ、地域への関心はますます薄れていきます。読んでもらうにはスマホ世代ならではの企画、たとえば動画配信など思い切った工夫が必要。だからこそデジタルブック化を実現するべきだと思ったのです。
―デジタルブック化はスムーズでしたか。
いいえ。その手段を探していたところ、広報紙を高い水準でデジタルブック化している市があり、必要な作業や体制について教えてもらいました。しかし、高額な予算に手が届かずその方法は断念。そこで当面はPDFのインタラクティブ機能を活用して、良い手段が見つかるまでアプリで見られるデジタルブック化は待とうと判断。平成26年11月頃でした。
一方で「若い世代に響くものを」という目的実現のために、作業の内製化を認めてもらいました。「伝えたいことを伝えるには自分たちで取り組むべきだ」と考えたからです。職員はDTP技術の習得に励み、その過程でほかの自治体からあるフォントを勧められました。同時に同社が開発した電子配信ツールを知りました。このツールは多言語の自動翻訳や動画埋め込み機能がついていて、簡単にデジタルブック化を実現するというもの。スマホ配信できるのが魅力で導入しました。
「電子端末なら自分に合った文字サイズで読める」と高齢者
―ほかにはどのような魅力を感じましたか。
私たちが印刷データをもとにして、スマートフォンの機能を活かしたデジタルブックのデータをつくれることです。デジタルブックとして、「文字サイズを調整できる」「音声や動画配信に対応」などの機能をもち、しかも価格は以前検討したデジタルブックシステムの半分以下に。「これなら予算も通りやすくチャレンジできる」と思いました。
―どんな変化がありましたか。
編集的には、動画コンテンツに力を入れています。リニューアル第1号はドローンで新市庁舎や市内を動画撮影。呉市で働き暮らす若者へのインタビュー企画も、紙面と連動した動画が好評です。
一方、製作費を年間400~500万円削減できました。編集作業を内製化することにより、印刷会社のオペレーターの作業時間が大幅に減ったからです。また想定していなかった成果も出ています。
―どんな成果ですか。
高齢の方から「紙面の文字は小さくて読めなかったが、電子端末で文字を読みやすい大きさに設定できるので不自由なく読めた」という電話を数件いただいたことです。音声データも活用すれば、視覚障がいのある方にいまよりも情報を伝えやすくなります。また、多言語の自動翻訳は外国人在住者やインバウンドの支援に使えます。
編集の立場からいえば、デジタルブック化によって校了後にデータを付加し、発信したいものをタイムリーに発信できるようになりました。これからも「スマホで見るとおもしろい広報紙」を発信し続けます。