―神戸市ではこれまで、どのような方針で介護予防施策を進めてきたのでしょう。
介護保険計画に沿い、平均寿命と健康寿命のギャップを2年縮めることを目標に、地域の特性に応じた、エビデンスに基づく介護予防を実施しています。神戸市は先の震災の影響から、コミュニティが失われてしまった地域もあり、高齢者がいる世帯のうち、一人暮らしの割合も36%と高いのです。「高齢者の見守り」は、重要テーマのひとつと位置づけてきました。地域交流が高齢者の健康寿命延伸に有効で、要介護認定を下げる効果があるとの研究結果もあります。
―具体的にどういった取り組みですか。
地域に「つどいの場」をつくり、コミュニティの形成を働きかけてきました。外出を後押しすることが介護予防にもつながり、日頃の見守りの効果も期待したのです。そこでは一定の成果が出たものの、一方で行政からの働きかけだけでは必ずしも住民の自発性を引き出せず、活動の広がりに限界を感じてもいました。そんなとき、民間企業から、「協力させてほしい」との声があり、平成25年10月から連携協定を締結し、取り組みを開始しました。
―くわしく教えてください。
地域の交流と介護予防を目的とした「介護予防カフェ」を企画しました。市が介護予防カフェを主宰する協力者を募り、その方々に民間企業のコーヒーマシンを無料で提供して、カフェを運営する「カフェマネジャー」を務めてもらうのです。民間企業のブランド力や発信力を活用できれば、これまでも進めてきた地域コミュニティ形成に勢いがつくという期待もありました。
手軽に自由な発想で運営できる
―どのような成果が得られていますか。
これまでに76ヵ所の介護予防カフェが市内に誕生しています。その数にも驚きますが、なによりカフェマネジャーたちのモチベーションの高さに、取り組みへの手ごたえを感じています。利用登録や細かな制限がなく、手軽に自由な発想でカフェを運営していける。この仕組みがカフェマネジャーの自発性を引き出しているのでしょう。
民間企業からも、事業の発展に向けて、介護予防教室やカフェマネジャー同士の情報交換会の開催など継続的な協力をいただいています。連携協定締結から月日が経ち、担当者が何代か交替しても、変わらず密な協力体制が保たれている。これこそ、市民の暮らしに直結した、意味のある連携協定の姿ではないでしょうか。この取り組みの輪をさらに広げ、神戸市の魅力創出につなげていきたいです。
私が住む地域は、空き家や一人暮らし高齢者が多く、本来は防犯や福祉の観点から、地域コミュニティがしっかりと機能すべきところです。しかし、実際には自治会もなく、なんらかの仕組みが必要だと感じてきました。介護予防カフェの取り組みにはすぐに賛同しました。年々クチコミで利用者は増え、いまでは1日に25人ほどに。なかには電車で通ってくる方も複数いらっしゃるんです。お金と時間をかけてまで来ていただけるのは、楽しんでもらっている証拠ですね。こちらも「おもてなしの心」を刺激され、1杯150円のコーヒーのほか、体操やぬり絵など簡単なレクリエーションも毎週用意。初めは照れて嫌がっていた人たちも、今では率先して参加。その変化を見ると、こちらまでうれしくなってしまいます。カフェでは、来ない人の心配をするなど、お互いを思いやる空気も生まれています。まさに理想の地域コミュニティです。私が続けられる限り、このカフェを運営していきたいですね。