※下記は自治体通信 Vol.21(2019年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
令和2年から小学校を皮切りに順次、新しい学習指導要領がスタートする。各自治体は、文部科学省が打ち出した指針に沿いながら、新時代の学びのカタチを独自に模索している。そうしたなか、いち早く“教育改革"に取り組む自治体では、徐々に成果も見えはじめている。この企画では、そうした自治体の最新動向を紹介し、教育改革の「いま」を概観する。
「アンケート集計・採点システム」を導入、業務効率化から指導の質向上を目指す相模原市
相模原市(神奈川県)は、教育現場の大きな課題、「学校の働き方改革」を推進する取り組みを行っている。同市は「学校の情報化推進計画」を策定。小・中学校における校務の情報化を推進している。平成30年の夏には、アンケート集計を効率化するシステムを全校に導入した。
アンケートの集計は、教員が回収用紙を1枚ずつ目視、入力し、学年・全校単位で取りまとめるなど、時間と手間のかかる作業。アンケートの内容や学校規模によっては、実施から結果報告まで1週間以上かかるケースもあった。それが、システム導入により、「1枚1枚の入力作業がなくなり、明らかに先生一人ひとりの作業負担軽減につながっている」(市立相陽中学校の鈴木成之副校長)という。
このシステムは、採点集計機能も備えており、長時間労働の一因となっている採点業務の効率化につながることから、同市は令和元年の夏には、テスト採点の集計機能活用を推進するため、中学校の校務用PC全台に導入を広げた。
同市立相陽中学校では先行してこのシステムを活用。昨年度の3年生の期末テスト時に、英語、数学、理科の採点に導入。その結果、「科目によっても異なりますが、システム導入により、15時間ほど費やしていた採点時間がおよそ3分の1に短縮されました」(鈴木副校長)と大きな成果が得られている。
同校では今後、定期テストに加え、単元テスト、小テストにも採点集計機能の活用を広げる予定で、業務効率化を推進していく。
また、「システムはクラス単位の設問ごとの正答率を簡単に見て取れるなど、さまざまな観点で集計・分析が可能で、その導入効果は単なる採点時間削減にとどまらない。創出された時間を生徒への学習指導や生活指導の実践、教員の指導の質向上に活用することで大きな働き方改革へつながる」と鈴木副校長は力説し、今後への確かな手応えをあかした。
奈良市、新宿区落合第六小学校では「個別最適化学習」に成果
奈良市(奈良県)では平成28年度から3校のモデル校を指定し、4年生を対象に取り組みを始め、今年度は市内全43小学校の4~6年生の児童を対象に個別最適化学習に取り組んでいる。具体的には、知識や技能、数学的な考えを体系的に重ねていく算数で、児童のつまずきや学習内容の特性の詳細データをシステムで取得、学習の個別最適化を目指している。
授業では、日常行う算数の単元テストの結果をAI的に分析。児童一人ひとりの習熟度や苦手分野に応じた「レコメンド・シート(復習教材)」に落とし込む。同シートは、データ解析によるいわば“オーダーメイド教材”。教員が活用することで、きめ細かな指導ができ、児童にとっては自分の学びに合った問題で復習に取り組め、学習意欲の向上につながっているという。
これを裏づける事例もある。市立大宮小学校の松下教諭は、各児童の1学期間のデータを蓄積した「個人カルテ」から、“みとり”を意識した実践を行った。その結果、児童の成績向上につながり、意識的に取り組む姿勢がみられるようになったことから、データを活用した授業改善の有効性がみえてきた。
東京都の新宿区立落合第六小学校でも「レコメンド・シート」を活用し、一人ひとりの学力定着へつなげている。同校では、試行を経て、令和元年度より4~6年生を対象に取り組みを実施。単元テストの集計データから各児童の誤答傾向を踏まえ、児童に合わせたきめ細かいフォローを行った。
そうした取り組みの結果、単元テストで間違えた児童のうち、87.5%が期末テストで正答するなど、「レコメンド・シートに取り組むことで、児童の学習定着につながることが実感できた」(同校曽我教諭)という。
奈良市・落合第六小学校とも、今後は算数以外の国語・理科・社会で、これまで使ってきた教材会社テストをシステムに取り入れて活用していく意向だ。