※下記は自治体通信 Vol.21(2019年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
頻発する自然災害を受け、多くの自治体が万全の防災・減災体制を整えようと腐心している。情報伝達手段の見直しは、その主要な施策のひとつといえる。和歌山市(和歌山県)では、従来の防災行政無線の運用を見直し、メールや電話との一体運用が可能な新たな情報伝達の仕組みを導入したという。同市担当者に、そのシステムの詳細を聞いた。
和歌山市データ
人口:35万5,686人(令和元年10月1日現在) / 世帯数:15万5,636世帯(令和元年10月1日現在) / 予算規模:2,955億3,616万8,000円(令和元年度当初) / 面積:208.84km² / 概要:徳川御三家のひとつ、紀州藩55万5千石の城下町として栄えた。悠々と流れる紀の川や和歌の浦・加太などの海岸美、豊かな緑をたたえた山々など恵まれた自然環境と、万葉の時代からつながる歴史文化を兼ね備える。関西国際空港まで約40分と至近距離にあり、「世界」にもっとも近い中核市を自認している。令和元年には市制130周年を迎える。
音声合成技術が、防災情報の配信を変える
―これまで、どのような防災対策を進めてきましたか。
柏谷 当市には毎年台風が来襲し、深刻な風水害をもたらしてきました。また、南海トラフ地震では大きな津波被害も予想される地域もあるため、土砂災害や津波など各種ハザードマップを作成し、住民の防災意識を喚起してきました。
八牟禮 一方で、災害発生時には、いち早く気象警報や避難勧告を発令する体制を整えており、防災行政無線や防災メールなどを通じて情報を発信してきました。しかし、従来の無線は職員がマイクを手に原稿を読んだ内容を放送していたため、「聞き取りにくい」との苦情が絶えませんでした。
―そうした苦情に対し、どのように対応したのでしょう。
柏谷 防災行政無線を補完する意味から、平成25年に「和歌山市防災情報メール」というサービスを開始しました。これは防災行政無線で発信した内容をメールでも同時に配信する仕組みですが、これに合わせて当市では、新たなシステムを導入しました。
―どのようなシステムですか。
八牟禮 音声合成ソフトウエアを搭載しており、提供元の民間企業によると、「入力したテキストを音声変換したうえ、電話、メール、FAX、SNSといった複数の媒体に一斉配信する仕組み」とのこと。専用サーバを経由すれば、既存の防災行政無線と接続でき、合成音声による無線放送も可能ということでした。たった一度の入力、あるいは定型文をクリックするだけで一斉配信できるので、情報配信のスピードや精度が大きく向上し、緊急時に肉声で無線放送を行っていた職員の精神的負担も軽減できました。
柏谷 さらに、J-ALERTとの連携も可能になったことで、緊急速報メールの運用が大きく改善されました。従来は、携帯キャリア3社のネットワークへ別々に配信しなければなりませんでしたが、これも統合して一斉配信することができるようになり、この点でも効率化が図れています。
苦情は大きく減った
―住民の反応はいかがでしょう。
八牟禮 合成音声は声音を調整でき、ノイズも入らず明瞭で、「聞き取りにくい」との苦情は大きく減りました。このシステムには拡張性があるため、今後検討している「和歌山市防災情報電話」サービスとも連携し、情報伝達体制をさらに充実させていく考えです。