鳥取県が導入し、その効果を実感した「糖尿病予防プログラム」。このプログラムの開発を医学的な知見をもって支援し、運営にも携わっているのが、日本生命病院だ。このプログラムにはどのような効果が期待できるのか。同病院で糖尿病・内分泌センター長を務める住谷氏に聞いた。
9割以上が継続し、約8割で血糖管理が改善
―本プログラムが多くの自治体でトライアル実施されているようですが、成果はいかがですか。
このプログラムは自治体職員を中心に広く紹介され、今年の3月末時点で約1,000人の方々に参加していただく予定となっております。プログラムを終了された方の結果を見ますと、(下図参照)約8割に血糖の指標である推定A1cの数値が低下したという結果が出ています。今後1,000人のデータが集まると、統計学的な精度は上がり、参加者の属性と血糖管理の相関関係など、新たな知見が生まれる可能性もあり、医学的にも意義のあるプログラムといえます。また、このような介入研究(※)の成果を測定するうえで重要な要素となる継続率については、9割を超えています。これは、当初の想定を上回る結果といえます。
※介入研究:研究目的で、人の健康に影響を与える要因の有無や程度を制御する行為
―プログラムが効果を発揮している要因はどこにありますか。
ICT機器を駆使することで、一定期間にわたり特定の保健師から適切な保健指導を受けられる仕組みにあります。従来の特定保健指導がなかなか成果をあげられない理由は、継続性が保てないからです。このプログラムでは、24時間の血糖変化を2週間にわたってモニタリングできる測定器のほか、体重や血圧の測定値もスマホで簡単に収集し、保健師に送信できる仕組みを取り入れ、生活改善の心理的・物理的ハードルを大きく下げることができました。
―3ヵ月という期間の設定にはどのような意味があるのですか。
HbA1cの有意な変化量を計測できる期間として、3ヵ月程度の時間が必要なのです。さらに、ヒトが行動を習慣化し始めるために必要な時間としても、3ヵ月は最低限必要な設定となっています。
早期の対策で、発症や進行は止められる
―健康増進に関心がある自治体職員にアドバイスをお願いします。
現在、糖尿病患者は全国で約1,000万人とされますが、じつはそれと同数以上の予備群がいると推定されています。これら予備群が糖尿病へと進行してしまう原因の多くが、病気に対する認識不足。自覚症状がないため、つい予防対策や治療を後回しにしてしまうのです。しかし、深刻な合併症を引き起こす恐ろしい病気です。一方で、糖尿病は慢性疾患ですから、一定の段階を踏んで悪化していくもの。早期の対策で発症や進行を止めることはできます。予防が早いほど労力も少なくて済む。一日も早い予防対策をお勧めします。
この「糖尿病予防プログラム」は、ネットワーク環境さえあれば、どこでも保健師との面談が実施できることが特徴です。遠隔でも顔を見ながら話すことができるため、人間関係を構築したうえで、安心して指導を受けていただくことができます。ICTを活用し、正確なバイタルデータを確認できるので、これまで以上に効果的な保健指導を実施することができています。
住谷 哲 (すみたに さとる) プロフィール
昭和35年、大阪府生まれ。昭和61年、大阪大学医学部卒業。平成6年、カナダ・トロント大学留学。平成19年に日生病院予防医学センター副部長に就任。平成31年より現職。