※下記は自治体通信 Vol.28(2021年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
災害や事故の発生時には、迅速な現場状況の確認や人命救助が自治体に求められるが、海や河川、山中では、ときに、人が立ち入りにくい場所での活動が求められることも多い。こうしたなか、藤沢市(神奈川県)では、ドローンを活用した海岸パトロールを実施した。パトロールにドローンを活用した経緯や、その成果について、観光シティプロモーション課の木村氏に聞いた。
藤沢市データ
人口:43万7,664人(令和2年12月1日現在) / 世帯数:19万4,365世帯(令和2年12月1日現在) / 予算規模:2,685億6,461万1,000円(令和2年度当初) / 面積:69.56km² / 概要:東京から約50km、神奈川県の中央南部に位置する。周囲は、横浜市と鎌倉市、茅ヶ崎市、大和市、綾瀬市、海老名市、寒川町に囲まれ、南は相模湾に面し、おおむね平坦な地形を形成している。全国的に有名な江の島や、片瀬・鵠沼・辻堂の各海岸を有し、「湘南」地域の中心的な観光都市としての性格をもつ。
例年より少ない数の人員で、海岸を監視することに
―藤沢市では海岸の安全を守るために、どのような取り組みを行っていますか。
毎年、「藤沢 海・浜のルールブック」という夏期の海岸利用ルールを作成、運用しています。これは、海水浴場の開設を前提に神奈川県が定めるガイドラインにもとづくものです。しかし令和2年は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、神奈川県が「海水浴場を開設しない」と発表。これにより、海の家や関連施設が設置されないことになりました。ただ、毎年約150万人が訪れる当市の片瀬海岸には、やはり一定数の人が訪れることを予測。そこで、市独自の海岸利用ルール「夏期海岸藤沢モデル2020」を策定し、運用することにしたのです。
―どのような内容なのでしょう。
たとえば、マリンスポーツを楽しむ人と海水浴客の接触を防ぐために、海上の利用エリアをすみ分けました。また、民間団体の協力でライフセーバーの活動拠点も設置されることに。しかし、ライフセーバーの数は例年よりも少なく、限りある人員で広い海岸をいかに監視するかが課題となりました。そうしたなか、慶應義塾大学でドローンの運用を研究するコンソーシアムからドローン活用の提案を受けました。さらに、神奈川県の支援も得ながら、7月18日から約3週間にわたり、実験的な意味合いも兼ね、ドローンを活用した海岸パトロールを実施することになったのです。実際の運用では、消防分野でのドローン活用で豊富な実績があるJDRONEの支援を受けました。「人が多い砂浜の上を飛行させない」といった安全性を考慮し、実運用を開始できました。
―どのようにパトロールを行ったのですか。
1時間に1回、片瀬海岸西浜の海岸1.2㎞にドローンを専門のパイロットが飛行させました。ドローンに搭載された最大200倍ズームが可能なカメラが陸上の様子を撮影し、ライフセーバーが監視するのです。その際、禁止エリアでマリンスポーツを行っている人がいれば、スピーカーを搭載したドローンで注意を呼びかけます。このほか、浮力体を投下することで溺者救出を支援するドローンも訓練で使用。浮力体は水に落ちると膨らむ特殊なもので、「ドローンの実用性は活用次第で大きく広がる」ということを実感しました。
遠方の禁止行為にも、スピーカーで注意を促せた
―実際にドローンを活用したパトロールを実施して、どのような効果を感じましたか。
多くのライフセーバーが、「人の目や声が届かない場所も監視できた」と、ドローンの有効性を実感したそうです。たとえば、「離岸流(※)が発生しそうなので、沖の方も見てきてほしい」といったライフセーバーからパイロットへのリクエストは日を追うごとに増え、ライフセーバーのニーズにドローンが応える場面が多くありました。また、落雷があってライフセーバーが海へ入れないときも、ドローンが海上を監視し、泳いでいる人がいないかどうかを確認できました。このほか、対岸の江の島の岩場で、禁止されているバーベキューをしている人をドローンが発見したことも。その場所まで人が移動するには時間がかかりますが、ドローンがスピーカーを使ってすぐに注意できました。
※離岸流 : 海岸に打ち寄せた波が沖に戻ろうとする時に発生する強い流れ
―海岸の安全対策に関する今後の方針を聞かせてください。
コロナ禍が収束し、本来のように海水浴場が開設されることがもちろん望ましいですが、海岸パトロールにドローンを活用した実績を活かし、今後も海岸の安全を守っていきたいです。また、今回の取り組みを通して得られた経験や、ドローン運用に関するデータを広めることで、海岸の安全に限らず、広く災害・危機管理対策の強化につなげられたらと考えています。