※下記は自治体通信 Vol.28(2021年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
社会課題の複雑化、多様化を背景に、近年多くの自治体が公民連携に取り組むなか、ひときわ注目を集めている動きがある。平成27年に「公民戦略連携デスク」という専任部門を立ち上げた大阪府の取り組みだ。府庁が主体となる公民連携の促進はもとより、この間の実績をもとに、いまや府内の市町村と民間企業とのあいだの「橋渡し役」として、公民連携のコーディネート機能も担っている。本連載では、同デスクが府内市町村と進める大阪発の公民連携のつくり方を紹介する。初回は、同デスクでチーフプロデューサーを務める元木氏に、取り組みの詳細や今後のビジョンを聞いた。
大阪府データ
人口:881万5,082人(令和2年11月1日現在)世帯数:413万230世帯(令和2年11月1日現在)予算規模:5兆6,461億円(令和2年度当初)面積:1,905.32km²概要:人口800万人を超える西日本の中心的都市。17世紀以降、「天下の台所」と呼ばれ、日本全国から米や特産物が集まる取引の中心地として栄える。19世紀には、明治維新と近代国家成立に向けての混乱を経験するも、その後、工業都市として発展を遂げ、近代都市への脱皮を図っている。以降、日本を代表する商業の都として、流通、貿易、工業に大きな役割を果たしてきた。令和7(2025)年には、「大阪・関西万博」(2025年日本国際博覧会)の開催が予定されている。
府庁と民間双方にとって、win-winの関係構築が重要に
―大阪府で公民戦略連携デスクが発足した経緯を教えてください。
大阪府では平成27年2月に行財政改革推進プランを策定した際、政策効果を高めるために公民連携をこれまで以上に促進する必要があるとの議論がありました。当時から、府の限られた財源と人材で多様化する社会課題に対応することの限界が共有されていたわけです。
ありがたいことに、企業や大学からは、「幅広い分野で連携したい」というニーズをいただいていましたが、一方で「どこに連絡すればいいのかわからない」「窓口を明確化してほしい」という声がありました。同様の声は庁内からもあり、民間への橋渡し役が必要だと。そこで、公民連携の一元的な窓口機能として、平成27年4月に公民戦略連携デスクが発足したわけです。当時、公民連携の専任部門を組織化したのは、都道府県としては初めてでした。
―具体的に、どういった業務を担っているのでしょう。
広く、深く、継続的な公民連携を実現するために、重要なのは府庁と民間双方にとってwin-winの関係構築です。そのために、たんに庁内と民間とをつなぐだけではなく、対話を通じて、双方の強みを活かしながら課題を解決できる仕組みづくりに注力しています。
公民戦略連携デスクには現在、総勢14人の職員がおり、企業や大学の方々と直接お会いして、あらゆる角度から公民連携につながる可能性を模索しています。職員のなかには民間企業からの出向者もおり、彼らを通じて「スピーディ」や「おもてなし」といった、民間が重視する発想や価値観を取り入れることも心がけてきました。
62社4大学と包括連携協定、700社以上との関係も
―これまで、どういった成果があがっていますか。
令和2年11月現在、民間企業62社、4大学と包括連携協定を締結しています。そこからは、コンビニチェーンと行った「障がい者の就労支援プログラム」のような具体的な成果がいくつも生み出されています。そのほか、包括連携協定というカタチにこだわらず、広く民間企業700社以上とネットワークを構築し、幅広い事業分野にわたる公民連携の土壌をつくり上げてきました。これは公民戦略連携デスクの重要な資産です。最近は成功事例が積み上がってきたことで、各部局に公民連携を選択肢とした課題解決の発想が根づいてきた印象です。
こうした実績を背景に、現在我々は新しい取り組みに挑戦しています。
―どのような取り組みでしょう。
我々が築いてきた公民連携のノウハウを府内の各自治体に展開し、より現場に近いレベルでも公民連携を促進していく取り組みです。我々が手がける公民連携は、府政全般にわたる政策テーマにまつわるものであり、市町村レベルで取り組んだほうが効果が上がるテーマがあれば、これまでも各自治体への橋渡しは手がけてきました。公民戦略連携デスクの職員のなかに府内の自治体からの出向者が6人いるのは、そうした橋渡し機能を重視してきたためです。
公民連携の成果をより広く自治体に享受してもらい、府民の福祉向上につなげることが広域自治体としての責任と考えた場合、各自治体に公民戦略連携デスクと同様の機能を立ち上げることが有効だと考えたわけです。
府内9市で、公民連携の専任部門が発足
―府内の自治体からも組織化支援のニーズは高いのではないですか。
はい。社会課題の多様化・複雑化という事情はどの自治体でも同様ですから、公民連携に対するニーズはどの自治体もほぼ例外なく高まっています。実際に、我々の考え方に賛同してくれた府内の自治体を中心に、現在のところすでに9市で公民連携の専任部門が立ち上がっています。堺市の「さかい・コネクテッド・デスク」や東大阪市の「公民連携デスク」などはその一例です。
―今後も府内全域にこの動きを広げていきたいと。
はい。すでに、ほかにもこれに続く動きがいくつかあります。一方で、それぞれ規模が異なる自治体において画一的に組織を立ち上げるのは、簡単なことではありません。公民連携に対するニーズの強さも自治体によって違いますし、財源や人員といったリソースも異なります。一方、企業から見ても、それぞれの自治体を取り巻く事情や環境によって、ビジネスチャンスの大きさは異なります。そうしたなかで、「公民連携の専任部門を自ら構える必要性は小さい」と考える自治体も当然あるでしょう。
―そうした自治体にこそ、支援が必要になるのでは。
そのとおりです。当初は我々が橋渡し役となるだけではなく、民間企業との対話や、公民連携の枠組み構築までコーディネートし、小さな事例を積み上げる支援をしていく。その成功事例が、公民連携をさらに促進していく基盤になってくれると考えています。
大阪府も各自治体も、目指すところは府民の福祉向上です。そのために、政策効果をより高めていく手段として公民連携がある。府民‐民間‐行政が「三方良し」の姿を追求していく公民連携。それこそが、我々に課せられた重要なミッションだと考えています。
*次回からは、各自治体を舞台に取り組みが進んでいる公民連携の成果をお伝えする。