※下記は自治体通信 Vol.28(2021年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
日本列島を度々襲う大型台風や豪雨の被害を防ぐため、水害を未然に察知し、住民の避難行動を早める河川監視が、中小河川を管理する自治体にも求められている。こうしたなか、電子部品の開発・製造・販売を手がける太陽誘電の髙木氏は、「中小河川に監視システムが普及するには、解決すべき課題がある」と指摘する。その課題とはなにか。システム設置の現状とあわせて、同氏に聞いた。
監視が必要な河川は、1万9,000本にのぼる
―自治体における河川氾濫対策の現状について聞かせてください。
台風や豪雨で中小河川の流域でも大きな浸水被害が相次ぐようになったことで、中小河川への対策が以前よりも求められるようになっています。特に中小河川の水位監視については、国や県が管理する大型河川と比べ、監視システムの設置が遅れており、急務の取り組みとして国から求められている状況です。
―システムの設置が遅れているのはなぜでしょう。
対象が中小河川となると、設置しなければならない箇所が多くなり、結果的に機材や工費を含め高額な費用がかかるからです。国土交通省によると、監視が必要な河川は1万9,000河川ありますが、現在、監視できているのは2,000河川ほど。今後、自治体が河川監視体制を整備していくには、いかにコストや工事の手間を抑えたシステムを導入できるかが課題です。そこで当社は、多くの箇所に設置可能な低コストの河川監視システムを開発しました。
―どのようにしてコストを抑えられるのですか。
水位計を低消費電力化、小型・軽量化したことで、コスト低減を実現しました。まず、低消費電力化により、ソーラーパネルと蓄電池を使った独立電源で必要な電力をまかなえ、高額な電気ケーブル敷設が不要になります。また、小型化によって水位計自体の価格も抑えました。水位計は、縦横10cm、高さ6cmの手のひらサイズで、重量は390g。全体のコスト低減を図れると同時に、システム設置の自由度も高められます。
独自のノイズ除去技術で、水位計の小型化を実現
―水位計を低消費電力化・小型化できたのはなぜでしょう。
当社が光ディスク事業や通信デバイス事業で長年培ってきた、ノイズ除去技術や、部品の小型化技術を応用しているからです。これらの技術により、電波式水位計として、国が使用する既存製品と同等の精度を担保しつつ、低消費電力化と小型化を実現できたのです。
また、当社の河川監視システムは、高感度カメラや冠水センサーなど、河川監視に必要な機材を統合。表示システムが使いやすい点も特徴です。
将来はリース形式での提供も
―どのような表示システムなのですか。
高感度カメラが撮影した画像により、夜間でも昼間のように明るく水面や護岸の様子を見ることができます。水位計やカメラで得たデータは、LTE経由でパソコンやスマートフォンにリアルタイムで送信し、現場の状況を画像で遠隔監視できます。その管理画面は、現時点では自治体向け限定で公開していますが、将来は、浸水時などに危険地域にいる住民に直接公開できるようにする予定です。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
防災・減災に寄与するソリューションとして、河川監視システムをいち早く社会に実装する支援をしていきたいですね。たとえば、データ使用料だけを負担してもらったり、リース形式でシステムを提供したり、予算に縛られずに導入してもらえる体制も整えていきたいと考えています。当社が製造業として培ってきた知見で、安全安心なまちづくりの促進に貢献していきます。
福山市データ
人口:46万6,842人(令和2年11月末現在)世帯数:21万2,132世帯(令和2年11月末現在)予算規模:3,328億6,065万7,000円(令和2年度当初)面積:518.14km²
当市では、平成30年7月豪雨によって市域約2,000haで浸水被害が発生し、被災後から、国や県などと連携して河川の掘削や改修などのハード面の整備を加速させました。こうしたなか、令和2年10月に太陽誘電の河川監視システムの実証実験が、本市の河川や用水路など計6ヵ所で始まりました。
同社のシステムは小型で、電源が太陽光でありケーブル敷設が不要なことなどから、設置は迅速に進み、わずか2日で水位の計測を開始できました。データはリアルタイムで表示システムに発信され、水位を河川の断面図上で確認できるので、非常に見やすいです。高感度カメラが撮影する水面の様子も非常に鮮明です。表示システムのカレンダー上からは、過去のデータをダウンロードできるなど、直感的に操作できる点も評価しています。
水害を防ぐためにハード面の整備は重要ですが、近年、頻発する自然災害への備えには、ソフト対策として市民の避難行動を促せる体制も必要です。そのために河川監視システムを導入するとなると、「点」や「線」ではなく、「面」でカバーする必要があるので、設置のしやすさや低コストは大きな魅力となります。太陽誘電のシステムは、ほかの複数の自治体でも実証実験が進んでいると聞いており、技術のさらなる進歩に期待しています。
髙木 亨 (たかぎ とおる) プロフィール
昭和33年、千葉県生まれ。昭和61年に東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了後、三菱電機株式会社に入社。コンサルティング会社勤務を経て、令和元年、太陽誘電株式会社に入社し、現職。新事業の立ち上げを担う。
太陽誘電株式会社