※下記は自治体通信 Vol.29(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
神奈川県庁の情報データが蓄積されたハードディスク(以下、HDD)が、委託業者によりデータ消去前に転売された問題から1年以上が経過。その教訓から、記憶媒体における情報漏えい対策はさらに重要性を増している。ここでは、そうした情報漏えい対策として、平成28年から磁気破壊装置を導入した富山市(富山県)を取材。担当の横本氏に、詳細を聞いた。
富山市データ
人口:41万3,459人(令和3年2月末現在) / 世帯数:18万1,538世帯(令和3年2月末現在) / 予算規模:3,470億4,981万3,000円(令和3年度当初案) / 面積:1,241.74km² / 概要:富山県のほぼ中央から南東部分までを占める。平成8年には旧富山市が中核市に移行し、平成17年4月には、富山市、大沢野町、大山町、八尾町、婦中町、山田村、細入村の7市町村が合併し、新しい「富山市」が誕生。全国的に「くすりのまち」として有名だが、近年は環境、バイオ、IT関連産業の育成に努めるとともに、立山連峰や越中おわら風の盆などの観光資源を活かした、観光産業の発展にも取り組んでいる。
磁気テープを廃棄するため、必要なツールを模索
―富山市が記憶媒体からの情報漏えい対策として、磁気破壊装置を導入した背景を教えてください。
当市は、平成17年に市町村合併を行ったのですが、その当時からCTと呼ばれる磁気テープを記憶媒体として多く活用してきました。その後、システム更新により記憶媒体をCTからHDDに変更。それにともない、約1万本のCTが不要になりました。このため、廃棄を行うことになったのですが、CTを廃棄するには、総務省のガイドラインに従って、事前にデータを復元不可能な状態にしておく必要があります。結果、データ消去が可能なツールを必要としていたのです。
―ツールを導入するうえで重視したポイントはなんでしょう。
まずは、当然のことですがCTのデータ消去に対応していること。そして、外部機関に認定され、信頼性のあるツールであること。さらに、なるべくスペースを取らないような小型かつ高機能なツールを希望していました。そうして検討した結果、アドバンスデザイン社が提供している磁気破壊装置を導入することに決めました。
―決め手はなんだったのですか。
当市が求めていた条件を満たしていたのはもちろんですが、特に機能面を評価しました。磁気破壊を行うためにはある程度の蓄電時間が必要なのですが、その時間が約17秒と、業界のなかでもトップクラス。次のCTをセットしている間に準備できるため、待機時間の短縮につながると考えたのです。さらに、データの消去方法に関して独自の特許を取得していることも、情報セキュリティ面において信頼性の担保につながりました。
総務省のガイドラインに沿う、対策を行っていきたい
―導入後はいかがですか。
平成28年に導入し、その後1年くらいかけて、保管していた約1万本のCTのデータ消去を行いました。ほぼ毎日、スピーディに実行することができましたね。現場の職員からも「使いやすくて便利だ」と、評価の声が聞かれました。現在は、すべてのCTのデータ消去および廃棄が終了したため、新たにHDDのデータ消去に活用しています。
―今後における、情報漏えい対策の方針を聞かせてください。
引き続き、ツールを活用することで情報漏えいの徹底した防止に努めていきたいと考えています。やはり、神奈川県庁で起こった問題は衝撃的でしたから。そうした背景を受け、当市でも「どのような対策を行っているのか」といった市民からの情報公開請求があり、その対応も行っています。職員に対しても、従前から記憶媒体を廃棄する際の手順を通知していましたが、定期的なセキュリティ研修も含めて、今後もっと強化していく必要があると感じています。
そうしたなかで、新たな課題もあります。
―それはなんでしょう。
令和2年12月、総務省から「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改定版が公表されましたが、「機器の廃棄等の方法」について詳細な記載がありました。今後は、ガイドラインに沿ったカタチで、たとえばSSDの廃棄方法など、記憶装置ごとに応じた対応を専門家の意見も取り入れながら行っていきたいです。