福島県・長野県の取り組み
業務プロセスの改善①
自治体間連携×業務標準化で、生産性向上の効果を最大化する
福島県 避難地域復興局長 (前・会津地方振興局長) 守岡 文浩
長野県 参事(デジタル化推進担当)兼 企画振興部 DX推進課長 大江 朋久
※下記は自治体通信 Vol.31(2021年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
DXの推進や行政改革に取り組む自治体が増えているなか、具体的にどういった業務に対してどのような改善を進めるか、悩む自治体は少なくない。こうしたなか、福島県の会津地方振興局と長野県ではそれぞれ、複数自治体間における「業務の標準化」を第一歩に、DX推進の道筋を探っている。取り組みの詳細について、各自治体の担当者に聞いた。
[福島県] ■人口:181万286人(令和3年5月1日現在) ■世帯数:75万9,216世帯(令和3年5月1日現在) ■予算規模:1兆5,582億4,898万6,000円(令和3年度当初) ■面積:1万3,784.14km2 ■概要:東北地方の一番南、東京からは概ね200km圏内に位置する。福島県の3地域の一つで西部に位置する会津地域では、「会津地域課題解決連携推進会議」のもと、「DXの推進」のほか、「移住・定住の促進」や「鳥獣被害対策」といったさまざまなプロジェクトが推進されている。
広域のDX推進に向け、まずはICTの共同利用を
―福島県会津地方振興局がDX推進に取り組んでいる背景を聞かせてください。
会津地方振興局管内の13市町村は、県内の他自治体と比べて少子高齢化が進んでいる現状があります。そこから生じるさまざまな地域課題を解決するため、令和元年に「会津地域課題解決連携推進会議」を設置し、翌年に16のプロジェクトを立ち上げました。そのひとつに、DXの推進を掲げ、管内の複数の自治体が連携しながら、職員の業務負担軽減や行政サービスの向上を目指しています。
―複数の自治体でDXを推進するのはなぜでしょう。
たとえば、共通のICTツールを複数の自治体間で利用すれば、共同調達によって導入費用を抑えられるうえ、活用ノウハウの共有により導入効果を最大化できるメリットが期待できるからです。管内の自治体で一斉に行政サービスを向上させることもできるでしょう。ただし、ICTの利用で共同歩調をとるには、各自治体にとってICT化が最善の策であることを示す根拠が必要です。場合によっては、外部委託や業務プロセスの見直しでも生産性向上が見込める自治体があるかもしれません。そのため、ただICT化を急ぐのではなく、まずは現状の業務を「見える化」する必要があると考えています。
―業務の「見える化」に向けて、今後はどのような取り組みを進めていきますか。
昨年は、自治体への行政改革支援で豊富な実績と知見をもつコニカミノルタの協力のもと、管内自治体で業務量調査を実施しました。これにより、職員の負担が大きな業務や改善可能な業務が「見える化」されました。今後は、各自治体における業務の標準化も進め、ICTの共同利用を実現するための基礎づくりを行っていきます。
[長野県] ■人口:202万4,174人(令和3年5月1日現在) ■世帯数:83万7,419世帯(令和3年5月1日現在) ■予算規模:1兆5,171億5,991万2,000円(令和3年度当初) ■面積:1万3,561.56km2 ■概要:本州の中部に位置する。周囲8県に隣接し、東西約128km、南北約220kmと、東西に短く南北に長い県域を有する。「長野県DX戦略」では、住民と行政を対象とした「スマートハイランド推進プログラム」と、県内産業を対象とした「信州ITバレー構想」の2本柱でDXを推進している。
ICTツールの導入は、業務標準化の先に
―長野県ではどのようにDXを推進していますか。
令和2年に策定した「長野県DX戦略」にもとづき、長野県全域でDXを推進しています。小規模自治体が多い当県では、「利用者が増えるほどサービスの価値が高まる」というデジタル技術の特長を最大化させるべく、自治体間におけるICTの共同利用を戦略の柱として掲げています。ただし、ICTを共同利用するには、自治体ごとに異なる業務プロセスを見直し、標準化させる必要があるため、現在は県と一部の県内市町村がBPR*1に取り組んでいます。
―具体的にはどのようにBPRを進めているのですか。
今年は、コニカミノルタの支援のもと、県と一部の県内市町村で業務量調査を行いました。これにより、職員の業務負担やICT導入に見込める改善効果を「見える化」できると期待しています。今後は、国の情報システム標準化の推進を見据え、複数市町村と業務の標準化を進めます。これにより、各市町村の業務におけるムダ・ムラをなくしたうえで、高い改善効果が見込めるツールやシステムを導入できると期待しています。県内には、すでにICTを積極活用している市町村もありますが、業務が標準化されれば、「RPAで作成したシナリオをほかの市町村に展開する」といった、既存ツールの活用も広がっていくでしょう。
―DX推進をめぐる今後の方針を聞かせてください。
県内77市町村で、行政事務におけるICT共同利用の成功事例を一つでも多く積みあげていきたいですね。さらに、水道や道路の管理業務など、自治体が行っている幅広い業務領域においても、県内市町村が一丸となり、職員の生産性と行政サービスの向上につなげていきたいと考えています。
神奈川県鎌倉市の取り組み
業務プロセスの改善②
業務手順の「見える化」を、次なる施策の検討につなげる
鎌倉市
共生共創部 次長兼デジタル戦略課長 宮寺 通寿
共生共創部 デジタル戦略課 デジタル活用担当 主事 大島 直樹
ここまでは、DX推進に向けて業務の標準化に取り組む福島県の会津地方振興局と長野県の事例を紹介した。ここでは、庁内レベルでの業務標準化に向けて、すでに業務手順書の作成に着手している鎌倉市(神奈川県)を取材。その具体的な方法について、同市の担当者2人に聞いた。
[鎌倉市] ■人口:17万2,932人(令和3年4月1日現在) ■世帯数:7万6,217世帯(令和3年4月1日現在) ■予算規模:1,139億9,540万1,000円(令和3年度当初) ■面積:39.67km2 ■概要:神奈川県南東部、三浦半島の基部に位置し、相模湾に臨む。山と海に囲まれた地形や温暖な気候など、政治を行うための条件に恵まれたことから、12世紀末、源頼朝によって鎌倉幕府が開かれる。鎌倉市は昭和14年に当時の鎌倉町と腰越町が合併して誕生し、昭和23年には深沢村と大船町を編入し、現在にいたる。
明確でない業務フローから、ブラックボックス化の懸念も
―鎌倉市が業務の標準化を目指している背景を聞かせてください。
宮寺 テクノロジーが急速に発達し続けるなか、当市でも行政事務の効率化や市民サービスの向上を目指し、RPAの導入やオンライン申請の推進などに取り組んできました。しかし、こうしたICT化を進めるのと同時に、業務の「見える化」を行う必要性も感じていました。たとえば、各現場の詳細な業務内容を把握しないままツールの導入を急いでも、かえって作業フローが複雑になったり、期待していた成果を得られなかったりします。そもそも当市には共通フォーマットに沿った業務マニュアルが存在せず、業務のブラックボックス化も懸念されていました。そこで、業務手順書を作成して業務プロセスを明確にすることで、今後のDX施策の検討や業務の属人化の回避につなげようと考えたのです。
―具体的にはどのように業務手順書を作成しているのですか
大島 人口が当市と同規模の今治市(愛媛県)の業務手順書を参考に作成しています。今治市では、コニカミノルタの支援のもと、全庁的な業務量調査を経て業務手順書をすでに作成していました。いざ業務手順書をイチから作成するとなると、「どの程度の粒度で業務プロセスを記入すればよいのか」「どのような項目を記載すればよいのか」をイメージしにくいものです。しかし、類似業務の手順書を参考にすることで、各部署の職員に負担をかけることなくスムーズに作成を進められています。
―業務改革に向けた今後の方針を聞かせてください。
宮寺 今回作成した業務手順書をもとに業務の改善点を探り、具体的な施策の実現につなげていきたいですね。今後の業務手順書の運用や更新については、コニカミノルタが提供する「業務標準化定着サービス」の活用を検討しています。これにより、オンラインで業務手順書を管理できるほか、他自治体との業務プロセスの比較もできると聞いています。他自治体との業務比較を通じ、新たな業務改善策や行政サービスの向上につなげられることを期待しています。
支援企業の視点
自治体間比較が可能な手順書が、業務改革の道標になる
コニカミノルタ株式会社
デジタルワークプレイス事業本部 自治体DX推進部
アカウント開発グループ・関東ブロック長/東日本地区標準化リーダー 山内 聡介
プロジェクト推進グループ・ソリューション開発リーダー 塚野 俊樹
これまで紹介したように、DXや行政改革の推進に向けては、その基盤づくりとして「業務の標準化」に着目する自治体が増えている。ここでは、多くの自治体におけるBPRを支援してきたコニカミノルタを取材。業務改革を現場で進めていくためのポイントについて、同社の山内氏と塚野氏に聞いた。
共通の「ものさし」を使い、業務上の改善点を抽出すべき
―全庁的な業務改革を図るうえで、自治体はどのような課題を抱える傾向がありますか。
山内 具体的にどのような活動をすべきか悩むほか、ICTツールを導入しても改善の見込みが立たない、といった課題がよく聞かれます。業務改革を進めるには、業務の現状把握と可視化をしたうえで、改善点を抽出することが重要です。それにより、ECRS*2の観点から改善点を探り、ツールの導入前に「作業自体を省略する」といった改善を行えるようになるでしょう。
―具体的にはどのように改善点を探ればよいのですか。
塚野 業務手順書という共通の「ものさし」を使うことで、他自治体の同一業務と比較することが有効です。そのためには、共通のフォーマットで業務を可視化する必要があります。そこで当社では、業務最適化・標準化を行うプラットフォーム『Govchois(ガバチョス)』の提供を通じ、業務手順書を軸としたBPRを支援します。統一されたフォーマットへの入力によって手順書をつくれるほか、人口規模別に他自治体のデータを比較し、改善点を検討できます。また、法令が変更された際に変更内容を通知したり、電子簿冊を参照したりすることで、手順書の更新や確認も容易に行えます。クラウドサービスであるため、職員が場所を選ばず業務を遂行できる環境づくりにも貢献します。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
山内 当社は、製造業として長年培ってきた業務改善の知見を活かし、50以上の自治体の業務量調査や業務分析を支援してきました。『Govchois』は、そのなかで自治体とともに集めたデータをもとに開発したものです。自治体のみなさんと一緒にこのプラットフォームをさらに良いものにしながら、DX推進や行政改革に伴走していきます。
山内 聡介(やまうち そうすけ)プロフィール
平成2年、神奈川県生まれ。平成26年に明治大学大学院を修了後、コニカミノルタ株式会社に入社。令和元年より現職。関東甲信越エリアの取りまとめや、東日本活動の標準化を担う。
塚野 俊樹(つかの としき)プロフィール
平成元年、千葉県生まれ。平成24年に千葉大学を卒業後、コニカミノルタ株式会社に入社。令和2年より現職。『Govchois』を含むソリューション開発のリーダーを担う。
コニカミノルタ株式会社