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先進事例2022.06.15
連載「大阪発 公民連携のつくり方」第12回

民間事業者をパートナーととらえる、「新しい常識」が庁内に生まれている

民間事業者をパートナーととらえる、「新しい常識」が庁内に生まれている

大阪府公民戦略連携デスク

連載「大阪発 公民連携のつくり方」第12回

民間事業者をパートナーととらえる、「新しい常識」が庁内に生まれている

岸和田市長 永野 耕平

※下記は自治体通信 Vol.39(2022年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


複雑化、多様化する社会課題の解決を掲げ、大阪府では公民連携の促進を目的に、一元的な窓口機能「公民戦略連携デスク」を設置している。このような専門部署を設けて公民連携を強化する動きは、府内の各自治体にも広がっている。連載第12回目となる今回は、令和3年10月に公民連携の専門窓口として「公民戦略連携デスク」を設置した岸和田市を取材。公民連携に対する考え方や取り組みの成果などについて、市長の永野氏や同市担当者に話を聞いた。

[岸和田市] ■人口:18万9,957人(令和4年5月1日現在) ■世帯数:8万8,832世帯(令和4年5月1日現在) ■予算規模:1,973億4,892万円(令和4年度当初) ■面積:72.72km2 ■概要:大阪府南部に位置する。関西国際空港から車で約15分の距離。明治中期以後は泉州綿織物を主とする紡織工業都市として発展。金属、機械器具、レンズ工業も行われ、臨海部の埋立地には木材コンビナート、鉄工団地が建設された。古くから「城とだんじりのまち」として知られているほか、水産業も盛んで、府内屈指の漁獲量を誇る。
岸和田市長
永野 耕平 ながの こうへい

「こんなことができるのか」職員に生まれた新たな気づき

―公民連携の専門部署を立ち上げた経緯を教えてください。

 全国的に見て、行政が抱える社会課題は多様化、複雑化しているわけですが、そのなかでも当市には、子どもの学力問題や生活困窮者支援をはじめ、深刻化している課題も少なくありません。いわば「課題先進地域」と言ってよい。これらの課題のなかには、いまだ解決への道筋が見えないものも多いです。そうであるならば、いかに多くの知恵を集め、実証実験を通じて試行錯誤を重ねるなかで解決への道筋を探るかが重要になると考えています。また、それら一つひとつの取り組みはすべて我々の経験になり、行政の課題解決力を高めてくれるはずです。そうした期待のなかで、大阪府公民戦略連携デスクのサポートを受け、「公民戦略連携デスク」の設置を決めました。

―専門部署設置によって、どのような成果を実感していますか。

 民間企業との対話が増えたことにくわえ、職員の意識に大きな変化が生まれていると感じています。これまでは、「企業は平等に扱わなければいけない」という意識が強いあまり、どこまで連携を深めていいのか迷いもあったようです。しかし、大阪府が率先して公民連携を実践している事例から、「こんなことができるのか」という気づきが職員に生まれていると聞きます。旧態依然とした考えで、社会課題の解決を遅らせていい時代ではないとの意識が醸成され、いまでは民間の企業や団体を行政の大事なパートナーととらえる「新しい常識」がつくられているようです。

―今後、公民連携を通じてどのような行政を実現していきますか。

 公民連携とは、お互いの強みを持ち寄り、弱点を補う取り組みだと理解しています。岸和田市政でもその精神を大切にしながら、だれもがチームの一員として居場所を見つけ、社会づくりに参画できる姿を目指します。公民連携は、そのための重要な手段になります。自由な発想で民間との仲間づくりを進め、多様な社会課題を解決しながら、SDGsが掲げる「だれも取り残さない」まちを実現していきたいと考えています。


地域全体で脱炭素化に取り組み、市民が誇れる「ゼロカーボンシティ」へ

岸和田市 公民戦略連携デスク (総合政策部企画課内) 担当主幹 松田 大樹

岸和田市では、リマテックホールディングス(以下、リマテックHD)と締結した包括連携協定に基づき、脱炭素化の取り組みに着手している。公民戦略連携デスク担当の松田氏によると、この取り組みは、岸和田市の「ゼロカーボンシティ」に向けた第一歩になるという。取り組みの内容や期待する効果などを、同氏に聞いた。

岸和田市
公民戦略連携デスク (総合政策部企画課内) 担当主幹
松田 大樹 まつだ だいき

祭の温室効果ガス排出調査で、「脱炭素化」を身近なテーマに

―リマテックHDとの取り組み内容を教えてください。

 リマテックHDとは、さまざまな分野の包括連携協定を結んでおり、今回は環境分野の取り組みとして、当市、リマテックHDと東京都市大学との共同で「だんじり祭カーボンフットプリント*1調査」を行いました。当市は昨年7月に、「ゼロカーボンシティ宣言」を行い、脱炭素化の取り組みを推進する方針を固めています。脱炭素化は世界的潮流であり、市民もその重要性を理解しているものの、当事者意識を持つのが難しく、どう行動していいのかがわからないといった声もありました。そこで、岸和田の代名詞とも言うべき「だんじり祭」を例に、温室効果ガス(以下、GHG)の排出量を「見える化」して、「排出問題」を身近に感じてもらおうと。そのことが、脱炭素化に向けた行動変容の第一歩になると考えたのです。

―調査結果はいかがでしたか。

 リマテックHDと東京都市大学には、過去に開催された際の「来場者・運営者数」「飲食費」「宿泊費」「通信・運搬費」といった、だんじり祭にかかわるさまざまなデータをもとにGHG排出量の算定・分析を行ってもらいました。調査結果は、来場者一人あたりの平均GHG排出量で見ると、令和元年開催時は約26㎏でした。市民にとって身近なだんじり祭のカーボンフットプリント調査は、市民一人ひとりが脱炭素化に取り組むきっかけとなるものだと思います。

―今後、脱炭素化の取り組みをどのように進めていきますか。

 各部署と連携し、脱炭素化の具体的施策を本格検討していくと同時に、今回のようにGHG削減の重要性を啓発する取り組みも継続します。そうすることで、市民の意識がさらに強まり、地域全体として脱炭素化に向けた気運が高まるはずです。今後もリマテックHDと協働し、脱炭素化の取り組みを多方面から進めることで、市民が誇れる「ゼロカーボンシティ」という岸和田市の新たなブランドを構築できればと考えています。


支援企業の視点

市との相互理解を深めるうえで、デスクの存在は大きな助けに

リマテックホールディングス株式会社 代表取締役社長 田中 靖訓
リマテックホールディングス株式会社
代表取締役社長
田中 靖訓 たなか やすのり

―岸和田市と包括連携協定を締結した経緯を教えてください。

 環境関連事業を展開する当社は、大阪府が主導する公民連携の取り組み「OSAKAゼロカーボンファウンデーション(OZCaF)」の発起人兼代表幹事を務めています。その活動を通じて、公民連携事業の有効性に手ごたえを感じる一方、やはり当社が本拠を構える地元・岸和田市に貢献したいとの気持ちも高まっていました。民間の新たな技術を実証するフィールドを行政が提供するという公民連携事業の有効性は、基礎自治体との間でこそ発揮されるとの期待もありました。

―実証実験に、どのような成果を実感していますか。

 「だんじり祭」という、岸和田市民ならだれもが誇りと愛着を持つイベントを題材とすることができたのは、岸和田市役所全体の支援があったからこそでした。この支援体制が得られた背景には、庁内における「公民戦略連携デスク」の存在がありました。デスクが窓口となってくれたことで、庁内複数の部署とスムーズに連携がとれ、事業自体も迅速に運ぶことができたのです。また、計画を推進する過程で、市長のビジョンや市政全体の課題認識、ニーズなどをつかむことができたのも大きな助けになりました。公民連携を成功させるうえで、行政が民間のシーズを理解することはもちろん重要ですが、逆に民間が行政のニーズを的確に把握することも、同じく重要です。市との相互理解を深めるうえで、デスクの存在は大変ありがたかったです。

田中 靖訓 (たなか やすのり) プロフィール
昭和48年、大阪府生まれ。平成12年、近畿環境興産株式会社(平成22年にリマテック株式会社へ社名変更)取締役に就任。平成26年、リマテックホールディングス株式会社を設立、代表取締役社長に就任。

大阪府公民戦略連携デスクの視点

デスク新設を機に期待が集まる、新たなパートナーシップの形

 令和3年10月に設置された「岸和田市公民戦略連携デスク」では、市が抱える課題の解決を目的に、企業や大学などと「新たなパートナーシップ」の締結を目指しています。同市からは、その前年度まで大阪府公民戦略連携デスクへ研修生が派遣されており、密に情報共有を行っていたことが同デスク設置にいたる一因になったと言えます。また、公民連携のより一層の推進を目的とする「大阪府・市町村公民連携推進協議会」にて、同市は幹事を務めています。大阪府および府内市町村が「オール大阪」で連携・協働を図るべく、同市には積極的な情報共有や相互啓発を通じて、中心的な役割を担ってくれることを期待しています。

*1:※カーボンフットプリント : 商品やサービスの提供にかかる原材料調達から、生産、流通・販売、廃棄・リサイクルにいたるまでの「ライフサイクル」を通じて排出される温室効果ガス量を表示する仕組み

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