東京都目黒区/栃木県足利市/愛知県尾張旭市の取り組み
スポーツを基にした官民協働(1)
住民を自然災害から守るため、全国規模で見直されている防災服
目黒区 危機管理部 防災課 主事 中村 知吉
足利市 総合政策部 危機管理課 副主幹 阿部 修
尾張旭市 総務部 危機管理課 災害対策係長 深谷 仁史
※下記は自治体通信 Vol.40(2022年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
近年、集中豪雨や地震といった自然災害が頻発化・激甚化している。これを機に、住民を自然災害から守るのはもちろん、変化する環境に対応するため、全国の自治体で防災服をリニューアルする動きが見られる。本企画では、防災服のリニューアルを実施した目黒区(東京都)、足利市(栃木県)、尾張旭市(愛知県)を取材。各自治体における危機管理部門の担当者に、詳細を聞いた。
[目黒区] ■人口:27万8,692人(令和4年6月1日現在) ■世帯数:15万7,891世帯(令和4年6月1日現在) ■予算規模:1,708億9,684万2,000円(令和4年度当初) ■面積:14.67km2 ■概要:東京23区の南西部に位置し、北は渋谷、東は品川、西は世田谷、南は大田の各区に接している。昭和7年に、目黒町と碑衾町(ひぶすままち)が合併して東京市に編入され、目黒区が誕生した。令和3年、新たな基本構想を策定し、まちの将来像を「さくら咲き 心地よいまち ずっと めぐろ」とした。
ジェンダーの観点からも、見直しを行う必要性が
―防災服をリニューアルした背景を教えてください。
以前、当区が職員に貸与していた防災服は、導入から約20年が経過していました。近年では、より機能性の高い被服が多く流通していることもあり、災害活動に従事する職員から防災服の改善を求める声が多く聞かれていたのです。また、以前の防災服は、男性がグレー、女性がブルーに分かれていましたが、ジェンダーの観点から男女同一のデザインを求める声も。そのため、令和2年度から防災服を見直す検討を始めたのです。
―見直す際に重視したポイントはなんですか。
まずは、降雨の際や夏場でも快適に着られるかという点です。以前は、綿100%の厚手生地で、雨や汗で濡れた場合は重量が増し、乾きが遅く、現場作業がしづらくなる状況にありました。また近年は、夏場で気温が35度を超えることもあり、熱中症の危険性も指摘されていたのです。次に、パッと見て目黒区職員だと明確に判断できるかという点。災害時に避難者や関係機関で混乱する現場では、統制を図る観点や住民に安心感をもってもらうためにも区職員としての判別のしやすさが重要になりますから。そして、職員に対する安全性の観点から、夜間や荒天時でも視認性を損なわないという点です。
そうした条件からさまざまな候補を検討していった結果、ミズノ社の防災服がいちばん理想に近く、採用することに。令和3年度から、災害活動や防災訓練に従事する機会が多い職員約300人に対し、先行して貸与しました。
区民の認知度を高めて、頼ってもらえるシンボルに
―導入後における、職員の感想を教えてください。
実際に令和3年台風第14号、16号や11月に実施した目黒区防災訓練で着用した職員からは、「動きやすい」「着心地がいい」などの声が聞かれました。この着用感は、スポーツウェアを開発してきたミズノ社の被服ならではだと思います。また、背中に「目黒区」とわかりやすく書かれているので職員だと認識しやすいです。台風の際は夜間に作業をしたのですが、「黄色の蛍光色で認識しやすい」という声も現場の職員から出ています。
さらに今年度、全職員に対する防災服の入れ替えを実施する予定です。今後は区民がこの防災服を見れば職員であることがすぐにわかり、頼ってもらえるシンボルになればいいと考えています。
[足利市] ■人口:14万1,614人(令和4年6月1日現在) ■世帯数:6万1,557世帯(令和4年6月1日現在) ■予算規模:979億630万円(令和4年度当初) ■面積:177.76km2 ■概要:関東平野の北部、栃木県の南西部、東京から北へ約80kmに位置し、栃木県佐野市、群馬県桐生市・太田市・館林市・邑楽郡と接している。古くから織物のまちとして知られており、近年はアルミや機械金属、プラスチック工業などを中心に、総合的な商工業都市として発展を遂げている。
見直しを行う必要性を感じ、リニューアルを実施
―以前の防災服は導入から、どれくらい経っていたのですか。
導入から長年経過し、資料が残っていないほど古くからのもので、もう何十年も前になります。そのため素材が古く、近年の夏の異常な暑さといった環境変化にも対応しづらく、デザイン的にも時流にあわないという話は出ていました。一方で、リニューアルにはそれなりにコストもかかるため、さまざまな防災対策事業のなかで、職員の防災服を見直す優先順位はどうしても低かったのです。ただ、災害時に適切な対応を行うためには今こそが防災服を見直すタイミングであると考え、令和3年度にリニューアルすることになりました。
―リニューアルではどのようなことを重視したのでしょう。
以前のものは、生地が丈夫な一方で、可動域が狭かったため、活動がしやすい着心地を重視しました。また、夏場でも問題なく活動できるような、乾きやすく汗のにおいがつきにくいといった機能性もポイントでしたね。また、上着だけでも使えるデザイン性も取り入れたいと考えていました。防災服は災害時に現場に行ったり、情報収集活動を行ったりするなどさまざまな場面で着用する機会があり、上着だけを羽織るといったような着やすさも必要ですから。以前の防災服は、ズボンに上着をインするタイプだったので、上着のみの使用に不向きだったのです。これらをふまえ、デザインや機能を検討した結果、ミズノ社の防災服を導入することに決定。検討の途中において、『自治体通信』でミズノ社の防災服を知っていたほか、今年に「いちご一会とちぎ国体」が開催される関係で、国体にかかわっていたミズノ社とのご縁があったというのも要因のひとつでした。
防災に力を入れていることを、域内外にアピール
―今年の4月に導入したそうですが、感想はいかがですか。
職員の評判はすごくよく、他部署からも「いいですね」と言われています。速乾性や消臭効果といった機能性はもちろん、腕を伸ばしても袖が引っ張られない感覚は、人間の身体のことを考えてスポーツウェアをつくってきたミズノ社だからこその着心地だと感じています。また、上着だけでも利用できるため、以前の防災服よりも着用する場が広がると感じています。当市は防災に力を入れているため、わかりやすい取り組みのひとつとして、今後、防災服を域内外に広くアピールしていきたいですね。
[尾張旭市] ■人口:8万3,969人(令和4年5月31日現在) ■世帯数:3万6,665世帯(令和4年5月31日現在) ■予算規模:469億8,466万7,000円(令和4年度当初) ■面積:21.03km2 ■概要:名古屋市の北東部に隣接している。名古屋市の中心部まで約15km、電車で約20分という好立地から、おもに住宅都市として発展を続けてきた。また、市内に日本紅茶協会が認定する「おいしい紅茶の店」が15店舗も存在する(令和3年11月1日現在)ことから、近年は「おいしい紅茶のまち」としても有名。
アンケートを実施し、職員の声が反映された仕様に
―今年の3月に防災服をリニューアルしたそうですね。
ええ。それまでの防災服は、夏から秋にかけての台風に備えるためなのか、生地の薄いYシャツタイプでした。暑い時期は涼しいという半面、安全性を疑問視する職員の声が多かったのです。その課題をきっかけに、市長から「広く職員の声が反映された仕様の防災服を」という指示を受け、消防職を除く職員約600人の防災服を一斉更新することになったのです。
―どのようにリニューアルを進めていったのでしょう。
まずは、全職員に「防災服で重視すべき点はなにか」というアンケートを実施しました。その結果、安全性にくわえて快適性を重視すべきという結果に。また、おもに女性職員から「サイズ展開の多さ」といった要望がありました。これまではS、M、Lのサイズしかなく、女性だと着た際にダブついてしまうケースがあったのです。この、安全性と快適性を両立させるという、ある種相反する条件にくわえ、サイズ展開が広いこと。そうした要件を中心にして検討した結果、ミズノ社が提供している防災服がいちばん条件を満たしているという判断にいたりました。まずは、すでにほかの自治体での導入実績がある点を評価しました。また、スポーツウェアメーカーとしてのノウハウが活かされており、丈夫な生地を使用しつつも、作業着とはまた異なった肌ざわりや通気性がある点。さらに、立体裁断や伸縮繊維による動きやすさなどが安全性と快適性を高次元に両立させていると。また、XXSから8XLの幅広いサイズ展開も評価しました。
防災関連グッズの導入も、検討していきたい
―導入後、職員からどういった声がありますか。
「肌ざわりがすごくいい」という意見のほか、「スタイリッシュになってかっこよくなった」という声が出ています。また、今回のリニューアルで光沢のある黄色を取り入れたことで視認性が大きく向上したと感じています。今後は、総合防災訓練などで着用し、この防災服を市の職員が着ていることを広く市民に知っていただいて、災害時の現場において「市の職員が来てくれた」という安心感につながっていけばいいと考えています。また、ミズノ社は、たとえば発熱素材を使ったシュラフなどの防災関連グッズも用意しているということなので、導入を検討していきたいと思います。
▶▶▶column
奈良県生駒市の取り組み
リモート型のコンテンツで、ファミリー層に防災の学びを提供
生駒市 総務部 防災安全課 防災係 係長 宮崎 裕也
[生駒市]■人口:11万8,194人(令和4年6月1日現在)■世帯数:5万1,377世帯(令和4年6月1日現在)■予算規模:722億1,454万円(令和4年度当初)■面積:53.15km2
当市では令和3年度に、「生駒市総合防災訓練」という数年に1度の大規模な訓練があり、そこでミズノ社にイベントの運営を委託し、『リモート型 防災アトラクション®』を実施しました。普段なかなか防災訓練に参加されない、20~40代のファミリー層にアプローチしたいと考え、入札を実施。その結果、当市のスポーツ担当部署で取引があり、防災関連にも力を入れているミズノ社提案のものに決定したのです。映像コンテンツを活用し、謎解きや脱出ゲームの要素をもったアトラクションで、これならお子さまや親世代も楽しみつつ防災を学べるのではないかと考えました。
総合防災訓練の前日に、午前と午後の2部構成で「Zoom」にて開催。自身が大地震に遭って避難する想定で、随所に防災に関する謎解きクイズや、備蓄品を持ち寄りチェックするなどの飽きさせない構成内容でした。午前が156世帯、午後は112世帯が参加しました。狙い通りファミリー層が多く、「家族で楽しめました」という声も。今後も、ファミリー層が参加しやすいイベントを検討したいですね。
※『リモート型 防災アトラクション®』は株式会社フラップゼロαの登録商標です
愛知県尾張旭市の取り組み
スポーツを基にした官民協働(2)
「歩く」に特化したアプローチで、住民の健康への意識づけを醸成
尾張旭市 健康都市推進室 室長 谷口 洋祐
これまで、防災服のリニューアルのほか、防災に関するリモート型のアトラクションに取り組んでいる事例を紹介してきた。そこで紹介したなかのひとつである尾張旭市(愛知県)は、同市が開催する「あさひ健康フェスタ」にて、スポーツを基にした健康面での取り組みもミズノと協働して行っているという。このページでは、同市健康都市推進室の谷口氏に詳細を聞いた。
雨天にもかかわらず、200人以上がブースに
―「あさひ健康フェスタ」とはどのような取り組みですか。
当市が平成16年に「健康都市宣言」を行って以降、市民の健康意識向上と健康都市としての情報発信を目的に毎年開催しているイベントです。ミズノ社とは平成27年に健康都市づくりの協定を締結した関係から、ウォーキングに関する健康関連グッズなどのブースを展示してもらっていました。今回は、コロナ禍のなか3年ぶりのリアルイベント開催ということもあり、同社から新しい提案を受けました。
―どのような提案でしょう。
同社が令和4年3月にリリースした『Motion DNA』というシステムを使ったイベントです。これを使って歩いてもらうだけで利用者の歩行速度や歩幅、歩行軌跡が測定でき、歩行で自身の健康状況を知ることができるというものでした。全国的にも新しい取り組みということで、今年の4月末の「あさひ健康フェスタ」でいち早く実施しました。
―反応はいかがでしたか。
雨天にもかかわらず、ブースには200人以上が来場。高齢者を中心に、ファミリー層など幅広く来てもらえました。ある50代くらいの女性が「歩幅が狭くて歩く速度がゆっくり気味」との結果を受け、「これからは意識して歩幅を広 げて速めに歩くようにします。勉強になりました」とおっしゃっていたのが印象的でしたね。今後もこうした取り組みを続けていくことで、健康への意識づけをより市民に浸透させ、世界に発信できる健康都市を目指したいですね。
支援企業の視点
スポーツを通じた技術やノウハウは、職員や住民にもっと活かされるべき
ミズノ株式会社
ワークビジネス事業部 新規開発担当 専任職 山下 浩二
ライフ&ヘルス事業部 企画マーケティング部 シニアエキスパート 藤本 聡一
―自治体が防災服のリニューアルを検討する際、どのような課題を抱えているでしょう。
山下 現場でヒアリングすると、最後に導入したのがかなり古く、近年の猛暑に対応しづらかったり、素材による着心地の問題だったりといった話が出てきますね。また近年は、豪雨災害時に近隣自治体への応援があることで、安全性の観点はもちろん、自身がどこの所属かを住民や関係団体に伝えるための視認性といった点もポイントになっています。ただ、自治体によってリニューアルで重視する点はさまざま。当社はスポーツウェアの開発で培ってきた技術やノウハウを提供することで、課題解決につながる提案を積極的に行っているのです。
―一方で、「歩く」ことに着目した健康支援も行っていますね。
藤本 ええ。日常生活動作のほとんどに「歩行」が関係しています。また、「歩行能力」と健康寿命には関係があることもわかっています。そこで当社は、住民に自身の歩行能力を知ってもらうことを通じて、自治体に対して「健康づくり支援」を行いたいと考えたのです。そのために開発したのが、歩行能力・歩行タイプ分析システム、『Motion DNA』です。5m歩くだけで、歩行速度、歩幅、歩行軌跡を高精度で測定。さらに、立ち姿を撮影するだけで、その人の「歩行タイプ」も推定できます。この2つの結果に基づき、個々に合ったトレーニングなどを提供できます。こうした支援ができるのも、スポーツを通じて身体の動きなどを研究してきたからこそです。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
山下 今後は、SDGsの観点からエコ素材を活用した防災服の提案も積極的に行っていきたいと考えています。
藤本 「健康寿命の延伸に取り組みたいが、なにをしたらいいかわからない」という自治体の方々は、気軽に相談してほしいですね。
山下 浩二 (やました こうじ) プロフィール
昭和45年、香川県生まれ。平成4年に名古屋商科大学を卒業後、ミズノ株式会社に入社。現在、ワークビジネス事業部に所属。
藤本 聡一 (ふじもと そういち) プロフィール
昭和43年、大阪府生まれ。平成4年に京都市立芸術大学を卒業、ミズノ株式会社に入社。平成24年、研究開発部に、平成31年、ライフ&ヘルス事業部に異動。
ミズノ株式会社
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