大阪府公民戦略連携デスク
連載「大阪発 公民連携のつくり方」第14回
公民連携で民間の価値観を取り込み、庁内の意識改革につなげたい
箕面市長 上島 一彦
※下記は自治体通信 Vol.41(2022年8月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
複雑化、多様化する社会課題の解決を掲げ、大阪府では公民連携の促進を目的に、一元的な窓口機能「公民戦略連携デスク」を設置している。このような専門部署を設けて公民連携を強化する動きは、府内の各自治体にも広がっている。連載第14回目となる今回は、それまでの「箕面営業室」に公民連携の専門窓口機能を持たせた箕面市を取材。公民連携に対する考え方や取り組みの成果などについて、市長の上島氏や同市担当者に話を聞いた。
[箕面市] ■人口:13万8,908人(令和4年6月末現在) ■世帯数:6万2,646世帯(令和4年6月末現在) ■予算規模:1,690億9,413万3,000円(令和4年度当初) ■面積:47.90km2 ■概要:大阪府の北西部に位置し、10km圏に大阪空港、新大阪駅、高速道路(名神、中国道、近畿道、新名神)があり、広域交通についての利便性の高さが特徴。市域には、良好な住環境が形成されており、大阪圏では住宅地として人気の高いエリアの1つとなっている。
限られた財源でも提供すべき、最大の住民サービス
―箕面市が公民連携の専門窓口を設けた経緯を教えてください。
昨今、社会課題がますます多様化するなか、限られた財源で最大の住民サービスを提供するためには、民間の力をフルに活用することが不可欠だという認識は、令和2年8月の就任当初からありました。当時は、大阪府が「公民戦略連携デスク」を設置して、公民連携で多くの成果をあげている動きを見ていました。そこで、当市でも府とスクラムを組める体制を整えたいと考え、それまで観光振興やシティプロモーションを手がけてきた「箕面営業室」に公民連携の窓口機能をもたせ、その活動を強化しているところです。
―専門窓口の設置以降、どのような成果があがっていますか。
この2年弱で、すでに民間企業8社と大学5校の間で連携協定を締結し、各企業・大学の知見とノウハウを活かした取り組みを進めています。一例をあげると、ディー・エヌ・エー社との間では、人事交流を通じて同社の知見を導入し、全庁的なDX推進の基盤を整備する取り組みが進んでおり、たとえば、電子申請システムの導入やRPAの新たな活用の検討を行っています。ただし、そこでは同時に、不可能を可能にする問題解決力や前例にとらわれない発想力、機を逸しないスピード感といった民間が大切にする価値観を学ぶことにより、職員ひいては庁内全体の意識改革にもつながっていくと期待しています。
―今後の市政ビジョンを聞かせてください。
当市は、豊かな自然と交通の利便性に恵まれ、大阪のベッドタウンとしていまも発展しています。特に子育て世代の転入による人口増加は、大きな特徴の1つです。この背景には、将来の課題を先取りし、「子育て・教育日本一」をテーマに掲げてきた施政方針がありました。いまは社会の変化がますます激しくなり、行政が陥りがちな前例踏襲主義では、社会課題の解決はままなりません。つねに時代の先頭を歩む箕面市であり続けるために、今後も民間の活力やノウハウを取り込み、新しい発想で満たされた行政を実現していきます。
DX推進の本質的意義の浸透を図り、全庁的なデジタルリテラシー向上へ
箕面市 地域創造部 箕面営業室 室長 韮澤 宣雄
箕面市の「箕面営業室」は昨年10月、ディー・エヌ・エー社(以下、DeNA)と包括連携協定を結び、DX推進に向けた取り組みを進めている。同室の室長である韮澤氏は、「全庁的なデジタルリテラシーの向上にもつながっている」と効果を語る。包括連携協定を結んだ経緯や、取り組みの詳細などについて同氏に聞いた。
専門家の知見を活かし、業務に対する意識も変革
―DeNAと包括連携協定を結んだ経緯を聞かせてください。
当市では、DX推進の動きを加速させる意味を込めて、令和4年度からは「行財政改革推進室」の名称を、「行政改革・DX推進室」に変更しています。今回の包括連携協定は、DeNAがもつデジタル技術の専門的な知識やノウハウの共有によって、当市の具体的業務にデジタル技術の導入促進を図るものです。昨年11月、同社から紹介を受けた2人を「DX統括アドバイザー」と「DX技術専門官」として迎え、当市におけるDX推進の最適な方法について協議を進めています。
―どのような内容の協議ですか。
AIやRPAといった最新技術の情報共有を進め、他自治体の導入事例を研究しています。また、職員をDeNAに派遣し、デジタル人材の育成に取り組んでいます。そのほか、デジタル技術の導入に合わせた業務プロセスや業務フローの見直しも行っています。この見直しは、業務内容によっては抜本的に取り組むことが必要です。そうしたときに2人の専門家の知見やノウハウをもとに、職員に対してDX推進とデジタル化の本質的な意義について理解を促すことは、業務に対する姿勢や意識の変革につながると感じています。こうした全庁的なデジタルリテラシーの向上に向けた取り組みは、DX推進を成功させる重要なポイントだと考えています。実際に今年度から、「電子申請システム」などの3つの分野で、デジタル技術の導入が決まりました。
―今後の方針を教えてください。
DeNAとの包括連携協定には、「健康寿命の延伸のためのヘルスケア事業の推進」という連携事項があり、この分野における具体の取り組みも進めていきます。さらに、今後は公民連携の窓口である「箕面営業室」が、DeNAをはじめ協定締結先の企業とつねに情報交換を進めていきます。そうすることで、行政と企業のリソースをどのようにかけ合わせれば、行政課題の解決につなげられるかを持続的に検討できます。また、つねに改善を繰り返し、チャレンジし続ける企業の姿勢も学んでいきたいですね。
支援企業の視点
自治体の働き方そのものを変える、大きな波及効果にやりがいを感じる
株式会社ディー・エヌ・エー IT本部IT戦略部 部長 大脇 智洋
―箕面市との取り組みに、どのような意義を感じていますか。
DeNAは、エンターテインメントと社会課題解決という2つの領域で事業を展開しています。社会課題解決のかたちはさまざまですが、自治体とともに、地域住民へのサービス向上に貢献することは、まさに会社のミッションにも合致するものです。
公民連携事業の一環として、相互に人材交流を行い、民間人材を要所に配置して全庁的なDXの推進役を担わせるというアプローチも、ユニークなものだと思います。法令や慣習といった制約があるなかで、設備や環境から一つひとつ見直し、自治体の働き方そのものを変えていくことは、ゆくゆくは住民サービスの質を高めることに直結します。その波及効果の大きさを考えると、とてもやりがいを感じますね。
―「箕面営業室」の役割を、どのように評価していますか。
民間の感覚を取り入れ、各部署へのつなぎ役としてスピード感をもって事業を推進してくれています。包括連携協定を締結した昨年10月から、早くも3つの分野のシステム化が令和4年度予算で執行されていますが、これも公民連携の推進役である「箕面営業室」の活躍によるところが大きいと評価しています。現在進んでいる組織体制の議論においても、全庁横断組織の立ち上げに中心的な役割を担っています。今後は、連携協定のもうひとつのテーマである、健康アプリを使った住民の健康増進施策も検討中です。そこでも、健康福祉部とDeNAとの連携を支える活躍を期待しています。
大脇 智洋 (おおわき ともひろ) プロフィール
昭和52年、愛知県生まれ。PwCコンサルティング合同会社などを経て、平成24年に株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。おもにITを活用した社内業務改革などを担当する。平成31年から現職。
大阪府公民戦略連携デスクの視点
公民連携によるデジタル人材の育成は、自治体のデジタル活用力を高める
箕面市「箕面営業室」は、市にゆかりのある企業や特徴的なノウハウや強みをもつ企業など、多様な業種の企業と「包括連携協定」を締結しており、これをベースに、企業との継続的な取り組みを推進することを大切にしています。
本稿で紹介されたDeNAとの取り組みでは、自治体DXや行政課題の1つである健康寿命の延伸のためのヘルスケア事業を推進し、市民サービスの向上を図っています。注目すべき点は、箕面市が情報システム開発の実務経験者の任用や、市職員の派遣を通じて、デジタル人材の育成に取り組んでいる点です。公民連携による人材の相互交流は、箕面市のデジタル活用力を高める重要な取り組みになると期待しています。