東京都渋谷区の取り組み
住民サービスのオンライン化①
住民サービスをLINEに実装し、「真のDX成功例」を生み続ける
渋谷区 デジタルサービス部 デジタルサービス推進担当課長 宝田 英之
※下記は自治体通信 Vol.43(2022年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
住民サービスの向上や職員の業務効率化を目指し、いま多くの自治体が行政手続きのオンライン化に取り組んでいる。こうしたなか、テレワーク制度の導入やペーパーレス化など積極的なDXの推進で知られる渋谷区(東京都)は、さまざまな行政手続きをSNSのLINE上で行える仕組みを構築。さらに、その手続きの数も職員の手で次々と増やしているという。取り組みの詳細について、同区デジタルサービス部の宝田氏に聞いた。
[渋谷区] ■人口:22万9,553人(令和4年9月1日現在) ■世帯数:14万584世帯(令和4年9月1日現在) ■予算規模:1,552億2,100万円(令和4年度当初) ■面積:15.11km2 ■概要:東京都の東寄り、特別区区域の西南部に位置する。中心部には明治神宮と代々木公園があり、新宿御苑の一部をくわえると全体の10分の1を緑地が占めている。行政区画としては、慶応4年以降、武蔵県、武蔵県および東京府、小管県および東京府、品川県および東京府、朱印外1区などと変更が繰り返された。昭和7年に、渋谷町と千駄ヶ谷町、代々幡町が合併し、東京市渋谷区が成立した。
行政手続きのオンライン化で、「来庁者ゼロ」を目指す
―渋谷区では、どのような方針で行政手続きのオンライン化に取り組んでいるのですか。
「来庁者ゼロ」をキーワードに掲げ、住民が庁舎に足を運ばなくても区のあらゆるサービスを受けられる体制づくりを目指しています。行政手続きをオンライン化する手段についても、人々が使い慣れたツールを活用し、住民に極力負担をかけないものを検討してきました。そうしたなかで我々は、多くの人々が利用しているLINEに注目。LINE社との協定締結を経て、平成29年に公式アカウントを開設しました。
―開設後、どのような活用を始めたのですか。
まずは、子育て支援情報の発信から始めました。LINE上に便利な機能を実装できる「拡張ツール」を併用することで、セグメント配信やAIチャットボットなどの機能を追加し、住民が手軽に情報を受け取れる体制をつくりました。
その後は、Bot Expressという会社が住民票申請をLINE上で行う実証実験を進めているとの情報を得ました。その取り組みは、まさに我々が目指す「来庁者ゼロ」の考えと方向性が一致するものだったため、令和2年にはBot Expressが開発した拡張ツール『GovTech Express』を導入。LINE公式アカウント上で、新たな機能の実装を進めていきました。
―具体的に、どのような機能を実装しているのですか。
現時点で、住民票や税証明の申請、各種講座・面談の予約など、約30の機能を実装しています。これにより住民は、従来、庁舎へ出向いたり電話をかけたりしていたさまざまな申請や予約をスマホ1台で気軽に行えるようになりました。庁内においても、「LINEを通じた予約が半数以上を占めるようになり、電話対応の負担が軽減した」といった業務効率化の成果が多数、報告されています。
『GovTech Express』については、職員自ら機能を簡単に開発・アレンジできる点も評価しています。現在は、庁内のさまざまな部署から「この手続きもLINEを使ってオンライン化できないか」という要望が届き、職員自身がユーザビリティを意識しながら機能を開発する流れができています。LINEは職員も使い慣れたアプリであるため、オンライン化のアイデアが生まれやすいのでしょう。
複数のパーツを組み合わせ、オリジナルの機能を開発
―職員の発想から生まれた機能の例を教えてください。
今年夏に実装した「ハッピーマザー出産助成金」申請機能はまさにその好例です。この助成金事業では、住民がセブン銀行のATMで現金を受け取れるようになるサービスが始まるところでした。その際、「せっかくならば、助成金の申請をLINEで行えるようにもしたい」という要望が庁内からあがったのです。そこで我々は、対象住民へのプッシュ通知や、マイナンバーカードなどを用いた本人認証などの機能パーツを組み合わせ、申請機能を開発したのです。この機能は、住民からも「幼い子どもを連れて区役所へ行かなくて済むので助かります」と好評です。
―今後の活用方針を聞かせてください。
現状、渋谷区LINE公式アカウントの「友だち」登録者数は、30~40代の子育て世代が特に高い割合を占めています。そのため今後は、高齢者向けのサービスなどもLINE上で充実させ、あらゆる世代に対する住民サービスの向上を目指していきます。
『GovTech Express』については、住民サービスの向上と職員の業務効率化を同時に実現するという、「真のDX」を追求できる点を非常に高く評価しています。今後も引き続き、LINEを活用した「真のDX」の成功事例を増やしていきます。
支援企業の視点
住民サービスのオンライン化②
柔軟性の高い拡張ツールを活用し、LINEを有力なDX推進基盤に
株式会社Bot Express 代表取締役 中嶋 一樹
ここまでは、LINE公式アカウントを活用してさまざまな住民サービスのオンライン化を実現している渋谷区の取り組みを紹介した。このページでは、同区を支援したBot Expressを取材。住民サービスのオンライン化を進める際のポイントについて、同社代表の中嶋氏に聞いた。
暮らしや仕事が便利になる、「DXの本質」を追求せよ
―住民サービスのオンライン化をめぐる自治体の取り組みを、どのように見ていますか。
近年、DX推進の機運が高まったことに伴い、さまざまな住民サービスのオンライン化を進める自治体が急速に増えている印象です。ただし、「人々の暮らしや仕事を便利にする」というDXの本質を突き詰めるならば、オンライン化の取り組みにはまだまだ改善の余地があると私は考えています。
―どのようなオンライン化を目指すべきなのでしょう。
住民サービス向上の観点から言えば、住民が説明書を読まずとも、操作に迷うことなく、簡単に手続きや申請を行えることです。貴重な財源を投じてオンライン化を実現しても、ツールの使い方が複雑だったり、専用のツールを用意する手間がかかったりすれば、住民に使われなくなってしまうこともありえるからです。
また、庁内における業務効率化の観点からは、オンライン化で得られる効果を多くの部署・業務に広げられる仕組みづくりも目指すべきでしょう。
―そうしたオンライン化はどのように実現できますか。
UXが優れ、すでに住民に幅広く普及したLINEの活用をおすすめします。これに、いわゆる「拡張ツール」を併用すれば、LINE公式アカウントのリッチメニュー*1上に「行政手続きの申請」「予約」といった便利な機能を追加できるようになるため、オンライン化の対象となる業務を増やすことも可能です。ただしその際は、ツールの選定が重要になってきます。
―ツール選定のポイントを教えてください。
ポイントは2つあります。1つ目は、LINEに実装する機能を柔軟に開発できることです。たとえば当社の『GovTech Express』は、「公的個人認証サービスとの連携」「キャッシュレス決済」「アンケート」など、さまざまなコンポーネント*2を組み合わせることで、職員自ら機能を柔軟に増やすことができます。その際、サブスクリプション契約によって、機能の修正や新規開発に追加費用は発生しません。そのため自治体は、事業者への委託や、そのための予算化に時間をかけることなく、住民と職員それぞれのニーズに合ったオンライン化を、とことん追求することができるのです。
トライアンドエラーを重ね、「スマホ市役所」の構築を
―もう1つのポイントはなんでしょう。
ベンダーによる伴走支援のもとでサービスを作り込めることです。『GovTech Express』は、プログラミングに関する専門知識がなくても職員がオリジナルの機能をノーコードで開発できるのが特徴ですが、実際の業務に使用される機能を自らつくることに不安を感じる職員も少なくないでしょう。そこで当社では、職員がオンライン化の取り組みに向けて自走できるようになるまで、一丸となってサービスの構築と改善を徹底的にサポートする体制を整えています。現在、『GovTech Express』を導入している自治体の数は80以上にのぼるため、ほかの自治体における開発事例なども参考に、職員目線に立ったアドバイスを行うことができます。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
『GovTech Express』の開発コンセプトは、DXの象徴とも言えるスマホにあらゆる行政業務を集約した、言わば「スマホ市役所」を確立させることにあります。「スマホ市役所」はバーチャルでありながらも「組織」と言えるわけですから、当然、短期間にして完成するものではありません。当社では、自治体とともにトライアンドエラーを重ねながら、その完成に向けて伴走します。「スマホ市役所」を通じて住民サービスの向上や職員の業務効率化を追求したい自治体のみなさんはぜひ、お気軽にお声がけください。
中嶋 一樹 (なかじま かずき) プロフィール
昭和53年、大阪府生まれ。平成13年に大学を卒業後、一貫してエンジニアを務める。日本オラクル株式会社、株式会社セールスフォース・ドットコム(現:株式会社セールスフォース・ジャパン)、LINE株式会社などを経て、平成31年に株式会社Bot Expressを設立、代表取締役に就任。
「スマホ市役所」構築事例
沖縄県与那原町
職員自ら機能開発を手がけ、早ければ着手翌日にも実装できる
与那原町では、学校における連絡手段をLINEに置き換える目的で、令和3年に『GovTech Express』を導入。総務課の職員が、Bot Express社員のサポートを受けながら、独自の「欠席連絡機能」を開発した。いまでは、Bot Expressのサポートがなくとも職員が自ら開発を行えるようになり、早ければ開発に着手した翌日にはLINEへ機能を実装できるようになったという。現在、同町のLINE公式アカウントには、「乳幼児健診予約」「ワクチン予約」「臨時職員募集」などの機能が実装され、さまざまな業務において住民サービスの向上と職員の負担軽減を実現している。
株式会社Bot Express
設立 |
平成31年2月 |
資本金 |
1億円 |
従業員数 |
7人(令和4年7月現在) |
事業内容 |
官公庁専用対話型アプリケーション『GovTech Express』の開発提供 |
URL |
https://www.bot-express.com/ |
お問い合わせメールアドレス |
hello@bot-express.com |
Bot ExpressのLINE 公式アカウントはこちら |
デモアカウントより、実際の操作感を体験できます。ぜひお試しください。 自治体事例紹介イベントの情報なども公開。実証実験への参加も先着で募集中。
今年度は無償トライアルを実施中
|
この記事で支援企業が提供している
ソリューションの資料をダウンロードする