福島県鏡石町の取り組み
農産物の六次産業化
農産物に付加価値を与え、新たな地域産業を生み出す糸口に
鏡石町 総務課 まちづくり調整グループ 主査 石井 秀樹
郡山女子大学附属高等学校 食物科 主任 教諭 佐々木 淑子
※下記は自治体通信 Vol.43(2022年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
地域活性化の取り組みとして、地元産品を活用した六次産業化に注目する自治体は多い。しかし、どのような商品をつくればよいかわからず、企画段階から頭を悩ませるケースも少なくない。こうしたなか、鏡石町(福島県)では、いちごを使った新商品を開発し、本格生産の前からファンを獲得するなど、六次産業化のプロジェクトを順調に進めている。プロジェクトを推進している同町と郡山女子大学附属高等学校の担当者に、取り組みの詳細を聞いた。
[鏡石町] ■人口:1万2,210人(令和4年9月1日現在) ■世帯数:4,444世帯(令和4年9月1日現在) ■予算規模:118億8,895万円(令和4年度当初) ■面積:31.30km2 ■概要:福島県中央部、中通り地方の南にあり、北は須賀川市と接する。地形はほぼ平たんで、国道4号線と東北本線、東北縦貫自動車道が町の中央を縦断する。昭和52年に完成した工業団地のほか、郡山地域テクノポリス構想圏域内に立地している。明治13年に宮内省御開墾所として開設された岩瀬牧場は国内初の西洋式牧場で、文部省唱歌「牧場の朝」のモデルとなった。
鮮度を活かす商品アイデアは、流通期間の短さがネックに
―地域活性化の一環として六次産業化に取り組んでいると聞きます。どのような取り組みですか。
石井 令和2年より、県内の郡山女子大学附属高等学校と、町の農産品を使って新たな商品をつくる取り組みを行っています。
佐々木 取り組みは、当校食物科の生徒がさまざまな農産品を使ったメニューを考案するかたちで進めています。商品化に対する生徒の想いが特に強かったのは、県内でもブランド力が高い「鏡石いちご」でしたが、早くも商品企画の段階で計画は滞ってしまいました。
―それはなぜでしょう。
佐々木 生徒からは、商品のアイデアが70案ほどあがったのですが、その多くがケーキやジェラートなど、いちごの鮮度を活かすメニューであり、流通可能な期間が制限されてしまうことが商品化のネックになっていたからです。
石井 そうした課題を感じていたとき、ウェディング事業で有名な八芳園が地域の食材をプロデュースする事業も手がけていることを知りました。そこでさっそく、六次産業化の取り組みについて相談をもちかけ、そこから八芳園も加わるかたちで鏡石いちごの六次産業化プロジェクトがスタートしました。
―そこから、どのようにプロジェクトを進めていったのですか。
佐々木 商品化するメニューについては、八芳園のペストリーシェフの提案により「いちごバター」に決まりました。当校の生徒や町の職員さんは知らなかったのですが、ペストリー業界では近年流行しているトレンド商品とのことでした。保存期間も長く、年間を通して流通が可能なため、この提案は非常に魅力的でしたね。
石井 その後も、生産体制の構築を含め、地域に深く入り込んだ八芳園のサポートによってプロジェクトは順調に進んでいます。
ふるさと納税返礼品への、商品登録も目指す
―具体的に、どういったサポートがあったのですか。
石井 「地域活性化」という取り組みの本質を追求し、パッケージのデザインなども含め、可能な限り地域の人々や事業者を巻き込むかたちで生産体制を築いてくれました。商品のお披露目は今年2月、八芳園が東京・白金台で運営するポップアップ型ショールームで行ったのですが、商品開発に携わった生徒や生産者の声を伝える演出が印象的でした。この演出により、我々の取り組みそのものに共感して鏡石いちごのファンになってくれる来場者も多く現れたそうです。いちごバターの生産は近く本格化し、今後はふるさと納税の返礼品登録も目指します。これに続く商品として、現在は「いちごミルクのもと」の開発も進んでおり、町の新たな名産品を生み出す基盤ができあがってきたと感じています。
支援企業の視点
開発とプロモーションの両輪で、消費者に選ばれる商品づくりを
株式会社八芳園 コンテンツ プロデュース事業部 矢内 加奈
―六次産業化を推進する自治体は多いのでしょうか。
多いですね。たとえば、ふるさと納税の返礼品にはいま、六次産業化の取り組みから生まれた食品が数多く見られるようになっています。しかし、商品数が増えるにつれ、「いかに商品を消費者に選んでもらえるか」に課題を感じる自治体も増えてきました。そこで当社では、商品の開発からプロモーションまで、自治体における六次産業化の取り組みを一気通貫で支援するプロデュースを行っています。
―プロデュースの特徴を教えてください。
当社がブランディング事業で長年培ってきた「食」や「演出」に関する知見や技術を、それぞれのプロフェッショナルが提供できる点です。たとえば商品開発では、和食やフレンチ、イタリアン、中華、製菓などのシェフが、食材の魅力を活かし、かつ消費トレンドにも合ったアイデアを考案できます。また、商品のプロモーションでは、作り手の「想い」や「ストーリー」を伝える企画に強みがあります。その地域の人々しかもちえない固有の要素を商品ブランディングにつなげることで、「この地域の商品だから買いたい」と思ってくれるファンを増やせると当社は考えるのです。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
当社では、映像制作や空間デザインなどでも、地域の魅力を最大化する支援が可能です。六次産業化を一過性の取り組みで終わらせることなく、幅広い支援を通じて地域の活性化に貢献し続けていきたいですね。
矢内 加奈 (やない かな) プロフィール
昭和59年、福島県生まれ。平成19年、神奈川大学外国語学部を卒業後、医療機器専門商社に入社。海外でウェディング業務を経験後、平成28年、株式会社八芳園に入社。婚礼課に配属後、令和2年より現職。地域の魅力を国内外にPRするプランナーを担当。
株式会社八芳園
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