山形県寒河江市の取り組み
ICT人材を活用したDX①
デジタル専門人材の積極登用で、DX計画策定とツール導入が加速
寒河江市 デジタル戦略課 課長 石橋 慶幸
※下記は自治体通信 Vol.43(2022年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
「各自治体がDXに取り組むなか、特に小規模の自治体においては「ICTの知識をもった職員がなかなかいない」と悩むケースは少なくない。そうしたなか、寒河江市(山形県)では、ICTの知識が豊富な人材を外部から登用することで、「デジタル戦略計画」の策定や庁内DXを進めているという。同市デジタル戦略課の石橋氏に、詳細を聞いた。
[寒河江市] ■人口:4万195人(令和4年7月末日現在) ■世帯数:1万4,530世帯(令和4年7月末日現在) ■予算規模:386億7,305万3,000円(令和4年度当初) ■面積:139.03km2 ■概要:山形県のほぼ中央に位置している。西村山地域の中核として発展し、市内を庄内地方と県都・山形市を結ぶ国道112号が走るほか、山形県の中央を横断し、庄内地方と宮城県とを結ぶ山形自動車道には、寒河江ICと寒河江SAスマートICでアクセスしており、県内高速交通網の要衝になっている。さくらんぼをはじめとするフルーツの産地として有名なほか、太平18年(746年)建立の慈恩寺をはじめ、多数の神社仏閣が存在している。
地域には詳しくても、ICTに詳しい人材がいない
―寒河江市ではどのようにDXを進めていったのでしょう。
当市では、本格的にDXを進めていくため、令和3年4月にデジタル戦略課を新設しました。それまでDXというと、行政事務の業務改善など、おもに庁内向けのデジタル化がメインでしたが、今後は地域も含めた寒河江市全体のDXを推進していこうと。そのために、まずは「デジタル戦略計画」を1年かけて策定していくことになったのです。
―どのように「デジタル戦略計画」を策定していったのでしょう。
策定するうえで課題だったのは、地域に詳しい職員はいても、ICTの知識をもった職員が見当たらなかったことです。これは、当市のような規模の基礎自治体であれば、どこでも抱えている課題だと思います。そのため、内閣府の「デジタル専門人材派遣制度」を活用し、NTT東日本からICTの専門知識をもつ川野さんに、デジタル戦略課の新設と同時に着任してもらいました。そして、川野さんの協力を得ながら「デジタル戦略計画」の策定を進めていったのです。
―策定するうえで苦労したことはありますか。
各関係者の理解を得たうえで、どのように調整を図っていくのか、という点です。市全体のDX計画を立てるわけですから、職員や農業団体、商工団体、金融機関などと幅広く意見交換するわけです。そうなると、当然人ごとにデジタル化に対する温度差がある。そんなときにICTの知識がある川野さんから、「現在、このようなツールが活用されています」「ある市ではこうしたDX推進を行っています」と説明すると、みなさん話を聞いてくれるのです。その点で、非常に助かりましたね。我々も、地域の実情を川野さんと共有することで、より地域に合った話ができたと思います。また、計画策定と平行して、庁内システムツールの導入も進めたのですが、そこでも川野さんに力を発揮してもらいました。
知識がある人材が話すことで、説得力が増す
―具体的にどのようなところで力を発揮してもらったのですか。
令和3年度には、AI-OCRとRPA、AI議事録の検討を進めたのですが、ICTツールの比較検討やトライアル、講習会の実施といったところで率先して動いてくれました。特に、AI-OCRとRPAは令和2年度に1度導入したのですが、職員が使うには高スペック過ぎてツールを再検討することになった経緯があったのです。そうしたなか、原課の担当者とヒアリングを重ねて、本当に現場にあったツールの選定をしてくれたと思います。また、我々が言っても「まだ早い」という職員もいるなか、川野さんが言えば説得力が増すので力になってもらいました。
―そうした取り組みを行った結果はいかがでしたか。
令和4年4月に「行政におけるDX」「市民生活におけるDX」「産業におけるDX」という、3つの柱で構成された「デジタル戦略計画」を発表しました。ICTツール別に見ると、AI-OCRとRPAをデジタル戦略課と税務課、AI議事録は各課にて令和4年4月から導入しています。まだ始まったばかりですが、職員、住民、専門人材など関係者が一丸となってDXを進めていきます。
デジタル専門人材の声
良い意味で「よそ者目線」を意識し、市内の人が気づけない解決策を提案
寒河江市 デジタル戦略課 デジタル戦略アドバイザー 川野 翔馬
私のミッションは、「デジタル戦略計画」の策定に対して積極的にかかわりつつ、庁内のICTツールの導入も進めていくことでした。意識したのは、良い意味で「よそ者の目線」で、寒河江市の人たちが気づかない市の課題やその解決策を客観視して伝えること。研究開発中の技術や他地域の検討中施策などを含めた最新のICTのトレンド情報を提供することも心がけました。結果、説得力をもった提案ができたのではないかと。また、ICTツールに関しては、フラットな視点で選定するようにしました。特に、AI-OCRとRPAはツール自体を再検討した経緯があったので、自社ツールも含めて慎重に検討しました。引き続き、俯瞰的な「よそ者の目線」と、これまでの派遣を通じて芽生えた「寒河江マインド」で、より強力に寒河江市のDX推進支援をしていきたいです。
川野 翔馬 (かわの しょうま) プロフィール
平成2年、鹿児島県生まれ。平成26年に東日本電信電話株式会社(NTT東日本)に入社。総務省事業の「多言語翻訳技術の高度化に関する研究開発」など多数の産学官連携プロジェクトに携わり、令和3年4月から寒河江市のデジタル戦略課に派遣され、同市のDX推進に取り組んでいる。
支援企業の視点
ICT人材を活用したDX②
地元の職員とICT人材が交われば、地域全体のDXへの筋道が見通せる
東日本電信電話株式会社 ビジネス開発本部 第三部門 北森 雅雄
ここまでは、寒河江市におけるデジタル専門人材を登用したDX推進の取り組みを紹介した。このページでは、同市にデジタル専門人材を派遣したNTT東日本を取材。担当の北森氏に、自治体がDXを推進していくうえでのポイントなどを聞いた。
「よそ者」の視点による、業務改革が必要に
―各自治体において、DXの取り組みは進んでいるのでしょうか。
具体的に進めている自治体がある一方で、「DXはまだまだこれから」の自治体が多いという印象をもっています。実際に当社が自治体に対してヒアリングを行ったところ、特に小規模の自治体においては「令和5年までにはなんとかしようと思っています」など、具体的なアクションにはいたっていない回答がかなりありました。そうした自治体は、「どこからDXに手をつけていいのかわからない」のが、ホンネだと思います。
―そうした自治体がDXを進めていくにはどうすればいいですか。
ICTの知識が豊富な外部人材から、「よそ者」の意見を取り入れることが重要だと考えています。今後自治体は、庁内をはじめ地域との関係性も含めたDXを目指すことが必要です。そのためには、庁内や地域の実情に詳しい自治体職員の存在は必要不可欠です。ただ、DXという新しいことに取り組むには、複数のICTツールを組み合わせる専門知識や、地域への先入観をもたない斬新なアイデアが必要です。地域の専門家である自治体職員とICT人材である「よそ者」が組み合わさることで、DXの推進計画の策定やICTツールによる業務改革など、地域にあったイノベーションが図れるのです。その支援の一環として、当社では内閣府の「デジタル専門人材派遣制度」を通じた自社人材の自治体派遣や、営業担当によるICTコンサルを進めています。
―自治体に対してどのような人材が対応しているのでしょう。
ICTの専門知識やノウハウはもちろん、地域に寄り添えるような人材が対応しています。当社はインターネットが普及し始めた頃から、自治体向けに庁内LANの整備や地元の住民や企業に対してWi-Fiの整備などを支援してきました。また、「インターネットのことがよくわからない」という人たちに対して、ひざをつき合わせてヒアリングを行うことで、インターネットの利用を促してきた自負があります。
そして、近年では複数のICT要素を組み合わせることなどにより、地域課題の解決に自治体と取り組んできた実績もあります。当社では、そういった経験やノウハウを活かすことで、より地域に合ったDX支援を提供しています。
電子契約が地域に広がれば、DX支援の輪が広がる
―支援している内容を具体的に教えてください。
大量にある書類の電子化やコールセンターなどの受付対応を支援するほか、AI-OCRツール『AIよみと~る』やRPAツール『おまかせRPA』、勤怠管理や契約などのバックオフィスをICT化するサービス『おまかせ はたラクサポート』を提供しています。なかでも、LGWAN対応の電子契約サービス『クラウドサイン for おまかせ はたラクサポート』を利用すると、取引のある地域の企業は来庁せず契約処理ができるようになり、地域企業とのやり取りのDX化につながるのです。また、電子契約に関するサポートを地域企業へ広げることも可能です。こうした支援を提供することで、自治体はもちろん、地域全体のDXに貢献していきたいですね。興味のある自治体のみなさんは、ぜひ問い合わせてください。
北森 雅雄 (きたもり まさお) プロフィール
昭和62年、東京都生まれ。平成23年に東日本電信電話株式会社(NTT東日本)に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングを担当。平成28年から現職にて、AI関連サービスの開発・デジタルマーケティングを担当。
東日本電信電話株式会社
設立 |
平成11年7月 |
資本金 |
3,350億円 |
従業員数 |
4,900人(令和4年3月31日現在) |
事業内容 |
東日本地域*1における地域電気通信業務*2およびこれに附帯する業務、目的達成業務、活用業務 |
URL |
https://www.ntt-east.co.jp/ |
お問い合わせ電話番号 |
NTT東日本 ICTコンサルティングセンタ 0120-765-000 (平日 9:00~17:00 (年末年始を除く)) |
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