富山県の取り組み
自治体専用ツールによる業務改革①
県庁職員の「新しい働き方」を支える、自治体専用ビジネスチャットの実力
富山県
知事政策局 デジタル化推進室 情報システム課 課長 中本 亮
知事政策局 デジタル化推進室 情報システム課 主幹 五十嵐 佳美
※下記は自治体通信 Vol.43(2022年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
今般のコロナ禍による環境変化は、自治体が推進してきたDXの取り組みに大きな勢いを与えている。庁内における情報連携の効率化・円滑化を図るビジネスチャットの活用もその代表的な動きと言えよう。富山県もそうした自治体のひとつで、自治体専用ビジネスチャットの導入によって、大きな効果を実感しているという。同県担当者2人に、導入の経緯やその効果などについて聞いた。
[富山県] ■人口:101万7,973人(令和4年8月1日現在) ■世帯数:40万8,086世帯(令和4年8月1日現在) ■予算規模:9,617億4,228万8,000円(令和4年度当初) ■面積:4,247.54km2 ■概要:南北にのびる日本列島の中心で、本州の中央北部に位置し、東は新潟県と長野県、南は岐阜県、西は石川県に隣接している。三方を急峻な山々にかこまれ、深い湾を抱くように平野が広がっており、富山市を中心に半径50kmというまとまりど対岸諸国との古くからの交流の積み重ねを活かし、環日本海地域の中央拠点として活発な取り組みを展開している。
知事も含めた情報連携を、チャットツールで
―これまで、庁内の情報連携ではどのような課題がありましたか。
五十嵐 当県ではコロナ禍に突入して以降、職員の働き方も変えざるを得ず、試行錯誤を重ねながらテレワークの導入を進めてきました。その際、課題となったのが、庁内と外部をつなぐ安全な連絡手段の確保でした。当時は職員の間で、個人使用のチャットを仕事でも活用するケースが増え、情報漏洩に関する懸念がありました。とはいえ、従来の電話やメールでの情報共有は非効率で、チャットに利便性を感じていた職員が多かったのも事実でした。そのような状況のなかで、自治体専用ビジネスチャット『LoGoチャット』の無料トライアルの情報を得たのです。
中本 新システムの導入となれば、通常は予算確保に数ヵ月を要しますから、直ちに試験導入が実施できる無料トライアルの仕組みはとても助かりました。令和2年4月から、まずはデジタル化推進室の職員約20人で運用を開始し、徐々に幹部職員に対象を広げて効果検証を行うことにしました。
―検証の結果はいかがでしたか。
五十嵐 情報共有が迅速になり、庁内連携がこれまでよりも密になったのを実感できました。トライアル期間中には、記録的な大雪や鳥インフルエンザの発生があり、迅速な対応が必要なケースにおける職員間の連携で効果を発揮しました。また、知事を含めた幹部からの指示が『LoGoチャット』で直接届くようになり、チャットの有用性が庁内に着実に浸透していきました。そこで、令和3年4月から本格導入することを決めました。
中本 本格導入の際、当県では県内11市町村との共同調達を実施しています。これらの自治体では、自治体クラウドを共同運用してきた実績があったため、『LoGoチャット』にも自治体間連携をさらに深めるための基盤になってほしいとの期待もありました。
7割ほどの職員が、スマホ上でチャットを利用
―運用状況を教えてください。
中本 現場の教員など特殊な環境にある者を除くすべての職員分として4,000アカウントを保有しており、そのうち7割がスマホでも利用されています。メッセージ数は順調に伸びており、この7月には初めて10万を超えました。県が模索してきた職員の柔軟な働き方を『LoGoチャット』が支えている実態が明らかになっています。
五十嵐 『LoGoチャット』のスマホアプリには、スクリーンショットの制限・禁止機能やファイルダウンロードの禁止機能などがあり、情報漏洩対策もきちんとされています。情報セキュリティ上の懸念を払拭できるからこそ、安心してスマホ利用を促進できるわけです。
―現場の反応はいかがですか。
五十嵐 『LoGoチャット』の活用で、行政の生産性が高まったといった声が届いています。たとえば、会議の席でなにか不明点が生じた際にも、すぐに自部署にチャットで連絡し、直ちに調べて返答してもらえるため、「持ち帰って、後日返答します」という場面が無くなったというのです。また、幹部への報告や緊急時の一斉連絡、テレワーク時の勤怠管理、議会連絡もチャットを活用しており、作業効率が非常にアップしました。さらに、土木部からは、落石現場からの報告を即時に事務所と共有し、業者への対応依頼が迅速に行えるようになったという話も聞いています。先日は、出張中の職員から「すごく便利になった」という声が寄せられました。今後、この生産性の高まりを行政サービスの向上に活かしていきたいです。
静岡県富士市の取り組み
自治体専用ツールによる業務改革②
誰もが使える電子申請サービスが、庁内のデジタル変革を後押しする
富士市
総務部デジタル推進課 デジタル戦略室 主査 嶋崎 洋介
総務部デジタル推進課 デジタル戦略室 主事 杉澤 江梨花
ここまで富山県が導入したビジネスチャットは、インターネット環境でも庁内の閉域環境でも利用できる点に特徴があった。いま、この特徴をそのまま踏襲した「電子申請サービス」を導入し、行政手続きにおけるDXを推進している自治体が増えているという。ここでは、同サービスの導入自治体のひとつである富士市(静岡県)を取材。同市担当者2人に、導入の経緯とその効果などを聞いた。
[富士市] ■人口:24万9,660人(令和4年9月1日現在) ■世帯数:10万9,722世帯(令和4年9月1日現在) ■予算規模:1,773億5,065万円(令和4年度当初) ■面積:244.95km2 ■概要:日本列島太平洋岸のほぼ中央、静岡県東部に位置し、「世界遺産 富士山」の広大な南麓に広がっている。日本で唯一、「富士山と海があるまち」として知られ、海抜0mから山頂を目指す「富士山登山ルート3776」がある。気候は温暖で豊富な地下水に恵まれ、古くから製紙産業が盛んな「紙のまち」として成長。トイレットペーパーの生産量は39万6,788トン(令和2年)と、全国比36.1%を占める。
システムの操作が煩雑で、電子申請が広がらなかった
―新たな「電子申請サービス」を導入した経緯を教えてください。
嶋崎 当市では、県内自治体が共同運用する電子申請システムを平成19年度から運用してきましたが、契約期間満了を受けて、新たなシステムの導入を検討することになりました。検討に際しては、いくつかの課題がありました。というのも、前システムは利用者にとっては使い勝手が良いとは言えず、利用が進んでいなかった実態がありました。また、申請フォームを作成する職員にとっても、同じ画面を何度も行き来しなければならないなど操作が煩雑で、活用が広がらなかった事情もありました。
杉澤 さらに、最近の電子申請をめぐっては、キャッシュレス決済やマイナンバーカード連携といった新たな機能に対する住民ニーズも高まっています。そうした事情も踏まえて選定し、『LoGoフォーム』の導入を決めました。
―導入の決め手はなんでしたか。
杉澤 静岡市や浜松市といった県内政令指定都市をはじめ、多くの自治体で活用が進んでいることを聞いていました。また、ほかのシステムと比較して、月額の利用料金がリーズナブルであり、無料トライアルも可能でした。そこで、まずは令和3年11月から無料トライアルを開始しました。
嶋崎 庁内でトライアルを募ったところ、想定以上に多くの部署が参加してくれました。その中には、これまで電子申請を利用してこなかった部署もあり、関心の高さがうかがえました。実際の使用感としては、「直感的に操作でき、フォームを簡単に作成できた」といった声が多かったです。LGWAN環境においても接続環境を切り替えずにそのまま使えるため、「業務の生産性が上がる」「庁内向けアンケートにも使える」といった評価も届きました。そこで、令和4年1月からの本格導入を決め、1~3月は前システムと併用、4月からは『LoGoフォーム』に切り換えています。
4ヵ月で約260の手続きに、電子申請が浸透している
―現在、どのような用途で活用しているのでしょう。
嶋崎 特に国が手続きのオンライン化を推奨している「転出届」「職員採用試験の申し込み」「飼い犬の死亡届」などで活用が進んでいます。転出届のオンライン申請は、公的個人認証が必要な手続きであり、『LoGoフォーム』の導入でマイナンバーカードとの連携が実現して初めて可能になったものです。今後は、同様に公的個人認証が求められる手続きにも活用を広げていけると期待しています。
杉澤 先ごろ、『LoGoフォーム』の活用状況を調査したところ、令和4年4~7月の間で約260手続きに利用されていることがわかりました。前システムを利用していた前年4~7月が169手続きだったので、この間、庁内で電子申請の浸透が進んでいることがわかります。それに伴い、電子申請を導入する部署も増え、新たな活用法のアイデアも次々と浮上しているようです。『LoGoフォーム』が、DX推進や業務改革の機運を高めるきっかけになってくれているのを感じます。
―今後の運用方針を聞かせてください。
嶋崎 電子申請の活用をさらに推進し、今後は、基本的に市が主催するすべてのイベントの申し込みを、電子申請対応とする方針です。当市では「富士市デジタル変革宣言」において、「いつでも、どこからでもオンラインでできる手続きの拡充」を掲げています。この実現に向けて、『LoGoフォーム』は大きな力になってくれるはずです。
埼玉県入間市の取り組み
自治体専用ツールによる業務改革③
DXビジョン実現のカギを握る、自治体専用デジタル化ツールの可能性
入間市
企画部情報政策課 主幹 小久保 昌宏
企画部デジタル行政推進課 主事補 森田 七海
ここまでの富山県、富士市での事例では、環境を選ばず、誰もが使いこなせるという特徴をもつ自治体専用ビジネスツールが、現場の働き方を変えていた。こうしたツールの活用は、庁内全体のDX推進を後押しする原動力となりえる。それを強く実感している自治体のひとつが、入間市(埼玉県)である。「DXビジョン」を掲げる同市が、どのように自治体専用ビジネスツールを活用しているのか。同市担当者に詳しく聞いた。
[入間市] ■人口:14万5,890人(令和4年9月1日現在) ■世帯数:6万7,461世帯(令和4年9月1日現在) ■予算規模:836億7,109万円(令和4年度当初) ■面積:44.69km2 ■概要:都心から40km圏に位置する緑に恵まれたまち。海抜60mから200mのややなだらかな起伏のある台地と丘陵からなり、市東南端と西北端には、それぞれ狭山丘陵と加治丘陵とがある。製茶業は地場産業のひとつであり、市域の約10分の1を占める茶畑とともに緑の景観を保っている。狭山茶(埼玉県下全般に生産されるお茶の総称)の主産地としても知られ、その生産量、栽培面積も県下一を誇っている。
懸案だった「市民意識調査」も、フォーム内製で電子化を実現
―入間市での電子申請の導入状況を教えてください。
小久保 当市では、10年ほど前から埼玉県内の全自治体が共同利用する電子申請システムを運用していましたが、なかなか活用が進みませんでした。操作が難しいため、各原課がフォーム作成のたびに情報部門のサポートを必要としていたことが理由だったようです。
しかし、令和2年11月に「来なくても済む市役所」を公約に掲げて現市長が就任したことで、電子申請拡充の動きが本格化することに。そんなとき、『LoGoフォーム』を知り、令和3年3月から無料トライアルを開始したのです。
当時は、同じトラストバンク社が開発した『LoGoチャット』を庁内情報連携の新たな基盤にと考え、トライアル中でした。使い勝手の良さが庁内でも評判でしたので、『LoGoフォーム』にも関心をもちました。6ヵ月間のトライアルというのも、ほかでは聞いたことがなく、実際の使用感を導入前に試せたのはありがたかったですね。
―庁内での評価はいかがでしたか。
小久保 「フォームが簡単につくれた」という声が多かったですね。トライアルには、予想を上回る25部署が参加し、中にはこれまで電子申請と縁のなかった部署も含まれていました。そのひとつである企画課政策推進室では、市民2,000人を対象に、3年に一度行っている「市民意識調査」の電子化が長年の懸案でした。回収や集計に多大な労力を伴う大規模な調査であり、かねてより市議会からも電子化の必要性が指摘されてきました。しかし、前システムではどうしても難しかったと聞きます。今回のトライアルでは、この調査フォームを『LoGoフォーム』で内製化できたといいます。こうした手ごたえを得て、令和3年10月から本格導入を開始しています。
2つのツールの活用度が、「DXビジョン」実現のカギに
―本格導入後に、庁内で活用は広がっていますか。
小久保 はい。『LoGoフォーム』導入後の令和3年度は、住民向けに206、庁内向けに126のフォームを運用しました。前システムの運用実績は、毎年40前後、令和2年度でも41程度だったので、電子申請手続きは確実に広がっています。同時に住民側の利便性も向上していることが、その申請数の増加数からも推測できます。平成30年度の申請数が1,092件、令和2年度でも4,745件でしたが、令和3年度は一気に5万4,382件に増えました。
―今後の運用方針を聞かせてください。
森田 当市では今年4月に、DXの基本方針となる「入間市DXビジョン」を策定しています。ここで掲げるリーディングプロジェクトの第4番目に記された「行かない市役所、申請・手続DX」は、まさに『LoGoフォーム』の活用を広げることで実現していきます。さらに、第5番目の「DXのプラットフォーム、バーチャル市役所」では、『LoGoフォーム』の活用にくわえ、先立って導入した『LoGoチャット』も重要な役割を果たします。『LoGoチャット』が実現する、場所にとらわれない柔軟な働き方は、バーチャル市役所実現への重要な条件になるからです。
小久保 『LoGoチャット』は、アカウント保有者の利用率が約90%を示し、市長も日常的に活用する、いまや欠かせない庁内コミュニケーションツールになっています。『LoGoフォーム』とともに、現場に浸透するこの両ツールの活用度こそ、当市「DXビジョン」実現のカギになるのは間違いありません。
支援企業の視点
自治体専用ツールによる業務改革④
自治体専用デジタル化ツールは、いまやDX推進に不可欠な存在
株式会社トラストバンク 取締役兼パブリテック事業部長 木澤 真澄
ここまで見てきたように、自治体専用ツールである『LoGoチャット』と『LoGoフォーム』は、多くの自治体におけるDX推進を後押しする重要な役割を担っている。ここでは、開発元のトラストバンクにおいて両事業を統括する木澤氏を取材。導入が進む両ツールの利活用実態や新たな機能開発の動きなどについて、詳しく聞いた。
97%の回答者が答えた「DX推進に有効なツール」
―『LoGoチャット』の導入自治体がさらに増えているようですね。
はい。令和4年8月時点で、1,039団体に導入されており、全国の自治体の半数以上が利用している計算です。令和元年9月から提供を開始していますが、この間、ビジネスチャットへの認識が大きく変わっているのを感じます。かつて「先進的な自治体が導入するツール」と見る向きもありましたが、いまや「標準的なツール」との認識が浸透している印象です。
―導入自治体では、どのような利活用が進んでいるのですか。
当社がこの8月に全国の自治体に向けて行った『LoGoチャット』の「利用実態調査」の結果を紹介します。利用形態についての質問によると、76%がモバイルアプリを使ってスマホで利用しています。これは、LGWAN環境からもインターネット環境からも使える利点を活かした活用法だと言えます。
また、67%が他自治体との連携ツールとして利用しています。利用シーンについては、通常の情報共有以外では、ペーパーレスを目的とした利用がもっとも多く、災害対応や庁内回覧でも活用が広がっているようです。
―利活用が進み、DX推進を後押ししている実態が見えますね。
今回の調査では、じつに97%の回答者が「ビジネスチャットは自治体DX推進に有効なツール」だと答えています。また先日、「日経BPガバメントテクノロジー 2022年秋号 自治体ITシステム満足度調査 2022-2023 グループウエア/ビジネスチャット部門」において、当社が第1位を獲得しました。これらの調査結果からは、『LoGoチャット』の利便性の高さや、DX推進に資する有用性があらためて浮き彫りになっています。
あたかも職員が窓口で丁寧に。手続き完了まで導く機能
―一方の『LoGoフォーム』も、現場のDX推進を支えていますね。
こちらは、特別なITリテラシーが無くても現場が使いこなせるノーコードの電子申請サービスとして導入が進んでいます。令和4年8月時点の導入実績は432団体であり、全国の約4分の1の自治体が利用している計算です。
この『LoGoフォーム』は、その使いやすさが評価され、すぐに効果が実感できるツールとして現場にどんどん浸透しています。一方で、活用が進むにつれて新たなニーズも上がってきています。そこで当社では、そうした声への対応として新機能開発に力を入れています。その成果のひとつが「デジタル窓口」という新機能です。
―それはどのような機能ですか。
『LoGoフォーム』では、自治体が作成した申請フォームをオンライン上に公開し、そこで住民や事業者が申請を行います。その際、申請を受理した自治体では、通知書を送付したり、申請手続きが不十分だった場合には再度問い合わせをしたり、といった手続きが発生する場合があります。郵送や電話などで行われていたこれらの手続きを、『LoGoフォーム』上で行えるようにしたのが、「デジタル窓口」です。
自治体と住民が、『LoGoフォーム』上で双方向のコミュニケーションをとれるようになったのです。あたかも、職員が窓口で丁寧に手続き完了まで住民のみなさんを導くような機能と言えます。この機能は、電子申請の適用範囲を大きく広げ、自治体DXをさらに推進するものと考えています。令和5年度から有償オプションとして提供を開始する予定です。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
当社では、ほかにも新機能開発を進めており、現在、多くの自治体で活用が進められている「ぴったりサービス」との連携や、オンライン決済機能の拡張も令和5年度に行えるよう準備しています。こうした機能強化を通じて現場の声を拾いながら、自治体のDX推進を支援していく考えです。
木澤 真澄 (きざわ ますみ) プロフィール
昭和53年、大阪府生まれ。大阪大学を卒業後、平成15年、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(現:日本アイ・ビー・エム株式会社)に入社。システム開発や業務改革プロジェクトに従事した後、株式会社チェンジに入社。海外事業、自治体向け事業開発担当を経て、株式会社トラストバンクに出向。平成30年12月より現職。
株式会社トラストバンク
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