埼玉県入間市の取り組み
公用車へのEV導入①
EVが身近になる体験を提供し、地域一丸となって脱炭素を目指す
入間市 市長 杉島 理一郎
※下記は自治体通信 Vol.48(2023年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
脱炭素社会を目指す世界的な潮流が強まるなか、ガソリン車と比べてCO2排出量が少ないEVを公用車に導入する自治体は多い。入間市(埼玉県)もそうした自治体の一つで、開庁時間以外は車両を一般にも貸し出すEVシェアリングを開始した。同市の調べでは、EVシェアリングを本格的な事業として行うのは県内自治体で初めてという。取り組みに期待する成果などを、市長の杉島氏に聞いた。
[入間市] ■人口:14万5,636人(令和5年2月1日現在) ■世帯数:6万7,627世帯(令和5年2月1日現在) ■予算規模:836億7,109万1,000円(令和4年度当初) ■面積:44.69km2 ■概要:都心から40km圏に位置し、埼玉県所沢市、狭山市、飯能市、東京都青梅市、瑞穂町にそれぞれ接している。海抜60~200mのややなだらかな起伏のある台地と丘陵からなる。産業は、製茶業や繊維工業に加え、昭和44年の武蔵工業団地の造成とともに、電気、機械工業などが中心的役割を担ってきた。特に製茶業に関しては、「狭山茶」の主産地であり、同市によると、その生産量と栽培面積は県下一を誇る。
シェアリング事業の展開で、住民の環境意識向上に期待
―入間市では、脱炭素化の取り組みに力を入れているようですね。
はい。当市では令和3年2月に近隣4市とともに「ゼロカーボンシティ共同宣言」を発表し、2050年までにCO2排出量の実質ゼロを目指す決意を表明しています。それ以降、地球温暖化対策実行計画の策定準備や、再エネ導入可能性調査などを行ってきました。こうした取り組みの背景には、環境政策への取り組みが不十分だと思われかねない過去への反省があります。特に、市の看板を背負ってまちを走る公用車は、むしろ「反エコ」のイメージすら市民に与えてしまっていました。
―どういうことでしょう。
かつて当市の公用車は30年ほど前の古いガソリン車が多く、市民からも「まちを走っているフェンダーミラーの車は入間市の車しかない」などと思われていたくらいでした。その後、車両の入れ替えを進めてきましたが、現在でも、本庁舎にある約50台のうち半数近くを古い年式の車が占めています。こうした背景があるため、公用車は当市にとって環境問題を象徴する存在とも言えました。そこで、ほかの自治体などの取り組みを調べるなかで着目したのが、公用車として導入したEVを一般に貸し出す「EVシェアリング」でした。
―EVシェアリングに着目した理由はなんですか。
脱炭素化に向けた行政の決意を目に見えるかたちで示せるだけでなく、実際にEVに触れる機会を提供することで、住民の環境意識をも向上させる効果があると期待したからです。そこで、EVシェアリングサービスを提供できる企業を募るため、令和4年7月に公募型プロポーザルを実施。市内の入間ガス社を代表企業とする「入間市EV活用ゼロカーボン推進チーム」を受託事業者に選定し、令和5年2月のサービス提供開始を目指して準備を進めてきました。EVシェアリングを本格的に行う自治体は埼玉県内で初めてのようです。
「走る蓄電池」として、災害時のレジリエンスも強化
―事業の概要を教えてください。
まず、車両は日産自動車のハッチバック『リーフ』を2台、軽EV『サクラ』を8台、導入しました。このうち『リーフ』と『サクラ』の各1台を平日夜間と休日に一般に貸し出します。料金は15分220円から。多くの人にとって、ガソリン車と使い勝手が異なるEVを購入することは高いハードルですが、15分単位で手軽に体験してもらうことでそのハードルを大きく下げられると期待しています。このほか、庁舎の駐車場屋上などには太陽光発電設備を設け、そこで発電した電力をEVに供給する仕組みも構築。「エネルギーの地産地消」を行政が率先することで、住民の環境意識醸成につなげる考えです。
この事業は、住民の環境意識醸成以外にも重要な意義があります。
―それはどのような意義ですか。
EVを「走る蓄電池」として使うことによって、災害時のレジリエンスを強化できることです。第1弾として導入したEV10台はすべて本庁舎に配備しますが、今後は出先機関も含め、年間約10台のペースで配備を進めていきます。それによって、入間市全域において災害時のレジリエンスを高め、防災計画の機動力向上につなげていきたいと考えています。
―脱炭素化に向けた今後の方針を聞かせてください。
当市では官民連携の「入間市ゼロカーボン協議会」を令和4年に立ち上げ、「エネルギーの地産地消」に向けたさまざまな計画も進めていますが、それらを実行していくには住民の理解と協力が欠かせません。そのため、EVシェアリング事業の推進規模を拡大することで、市民の環境意識をさらに高め、市民と企業、行政が一丸となってゼロカーボン実現に邁進できる土壌をつくっていきます。
職員の声
実現可能性の高い提案のもと、施策効果の大きな事業を推進
入間市 環境経済部 エコ・クリーン政策課 主事 神田 啓佑
国が「CO2排出量を2013年比で46%削減する」と目標を掲げる2030年まで、残り8年を切るなか、「入間市EV活用ゼロカーボン推進チーム」からは、実現可能性を担保しつつも施策効果の大きな、さまざまな提案を受けました。
たとえば実現可能性の面では、リース契約によるEV導入の提案を受けた結果、10台というまとまった数の車両を一気に導入できました。それにより、年間で約5.2tのCO2排出量を削減できる効果を見込んでいます。
また、住友三井オートサービス社には、公用車の稼働状況から適正な保有台数を算出する分析も行ってもらいました。この分析では、「本庁舎に配備され、複数部署が共有している公用車43台のうち、9台は削減しても業務上支障が出ない」という結果を得られています。この分析結果は今後、ガソリン車を減らしてEV導入予算を捻出する際の、貴重な参考データとして活用していきます。
今回の事業では、EVの利用予約や充電をデジタル化するシステムも提供されており、職員の業務効率化といった副次的な成果も期待しています。複数の民間企業から提供されるさまざまな知見と技術の集結により、非常に費用対効果の大きな事業を推進できていると実感しています。
地域企業の取り組み
公用車へのEV導入②
参画企業が見る、入間市のEV活用事業がもつ意義
ここまでは、公用車として導入したEVを一般に貸し出す入間市の取り組みと、その狙いを紹介した。ここでは、「入間市EV活用ゼロカーボン推進チーム」として入間市の事業に参画している地域企業2社を取材。事業がもつ意義や先進性について、入間ガスの金子氏と、アースシグナルの笠原氏にそれぞれ聞いた。
【サービス提供】入間ガス
EVの利便性をより高める仕組みが、シェアリング事業の大きな意義に
入間ガス株式会社 常務取締役 金子 邦男
車両予約から鍵の開閉まで、スマホで完結できる利便性
―入間市のEVシェアリング事業には、どういったかたちでかかわっていますか。
「入間市EV活用ゼロカーボン推進チーム」の代表企業として、実質的な住民へのサービス提供を行っています。当社の調べによると、自治体が民間企業と契約するかたちでEVシェアリング事業を展開するのは全国でも初めてのようです。当チームには我々と、アースシグナル社という地域の企業2社のほか、「SMASカーボンニュートラル・コンソーシアム」という企業連合もかかわっており、脱炭素化に向けた入間市の取り組みにさまざまな付加価値を提供しています。
―具体的に聞かせてください。
たとえば、コンソーシアムの参画企業であるREXEV社は、EV管理システムを提供しています。このシステムには、職員や住民がEVを利用するうえでのハードルを大きく下げられるようなさまざまな機能が集約されており、人々にEVをより身近に感じてもらうための仕組みを提供できています。職員や住民は、専用アプリの利用登録を行った後、EVの利用予約や決済などをすべてスマホで完結できます。車両の解錠や施錠もすべてスマホで行えるため、鍵を物理的に受け渡す手間がかかりません。こうした、EVの利便性をより高められる仕組みを提供することは、本事業がもつ大きな意義だと私は考えています。
入間市で支援したEV活用を、自社内でも展開へ
―地域の脱炭素化に向けた、今後の支援方針を聞かせてください。
当社は今後も、入間市と協働してEVシェアリング事業を広げていきたいと考えています。このほか当社独自の取り組みとしては、入間市と同様、社屋に太陽光発電設備を設けるのと同時にEVやREXEV社の管理システムを導入し、今年2月から社用車としての利用開始を予定しています。将来は、我々独自でEVシェアリングサービスも展開していきたいと考えています。行政や、我々民間企業が一緒になって脱炭素化に積極的に取り組むことは、周りの企業や住民への刺激にもなり、地域全体における環境意識の向上につながっていくでしょう。そうした連鎖をここ入間市から全国へ発信していけるようなロールモデルを、行政と一緒につくっていきたいですね。
入間ガス株式会社
設立 |
昭和47年3月 |
資本金 |
9,600万円 |
売上高 |
42億3,524万7,000円(令和3年12月期) |
従業員数 |
54人(令和5年1月31日現在) |
事業内容 |
ガスの製造および供給販売業、ガス器具の販売および賃貸業、液化石油ガス販売業、電力販売業 |
URL |
https://www.irumagas.co.jp/ |
【設備の設置】アースシグナル
電力の地産地消を促す「PPA」の採用に先進性あり
アースシグナル株式会社 代表取締役 笠原 喜雄
EVに使う電力は、太陽光由来の再エネで賄える
―EVシェアリング事業ではどういった役割を担っていますか。
太陽光発電設備やEV充電設備などの設計・施工を担っています。当社はこれまで、さまざまな環境関連事業を展開してきた実績がありますが、入間市の事業は、EVのシェアリングに、電力販売契約(以下、PPA)モデルを組み合わせ、電力の地産地消を促す取り組みでもある点に先進性があると見ています。PPAモデルは、電力の需要家が屋根などのスペースを提供し、PPA事業者が発電設備の無償設置と運用を行うもの。需要家は、発電設備の設置費用をかけることなく、再エネ電力の利用を増やせるのです。今回の事業では、日中の晴天時は太陽光発電由来の再エネでEVへの充電が賄えるようになるのです。
―今後、入間市の取り組みをどのように支援していきますか。
脱炭素化を進めていくには、我々民間の事業展開だけでは不十分であり、行政がロールモデルとしての取り組みを目に見えるかたちで示し、住民の環境意識を醸成していくことが重要です。当社は、環境関連事業を長年展開してきた豊富な実績を活かし、行政のそうした取り組みを支えていきます。
アースシグナル株式会社
設立 |
平成21年4月 |
資本金 |
2,000万円 |
売上高 |
15億6,942万5,000円(令和4年3月期) |
従業員数 |
60人(令和5年1月1日現在) |
事業内容 |
再生可能エネルギー事業、不動産事業、建築事業、地方創生事業 |
URL |
https://earth-signal.co.jp/ |
支援企業の視点
公用車へのEV導入③
企業の知見を総動員したEV施策で、サステナブルな社会づくりを
住友三井オートサービス株式会社 執行役員 関東甲信越営業本部長 力武 秀行
これまでは、複数企業による支援のもとで入間市が進めているEV活用の取り組みを紹介してきた。ここでは、車両のリースやモビリティサービスの提供などで同市の取り組みを支援している住友三井オートサービスの力武氏を取材。自治体が公用車へのEV導入を進めるに当たってのポイントを、同氏に聞いた。
導入準備から運用開始後まで、検討すべき事項は多い
―公用車としてEVを導入する自治体は増えているのですか。
脱炭素化の機運が高まるなか、公用車としてEVを導入する自治体は着実に増えています。そこにおいては、固有の地域課題にも着眼しながら、地域のサステナビリティを支える重要なインフラとして活用を模索する動きも強まっています。たとえば、災害時における「走る蓄電池」としての利用や、シェアリングサービスの提供による交通の利便性向上などは、その代表的な例です。
ただし、地域それぞれの課題やニーズに合わせてEV活用施策を成功させるには、多面的な検討を行いながら、施策を進めていく必要があります。
―具体的に教えてください。
たとえば導入前においては、いかに費用を抑えてEVを調達するかがポイントとなります。また、「公務を遂行するために航続距離は十分か」といった、車種の選定も重要です。EV用の電力を賄うために、太陽光発電設備などの調達が必要となるケースもあるでしょう。EV導入後は、「いかに職員や住民にEVを便利に使ってもらうか」「脱炭素化の取り組みとして有効に使っていくか」といった、運用の観点から見たアプローチも求められます。そこで当社では、公用車へのEV導入にかかわる一連のプロセスを多面的に支援できる体制を整えています。
―たとえば、どのような支援が行えるのでしょう。
EV導入前において、当社ではまず、公用車の適正な保有台数を算出する支援を行えます。民間企業への支援実績からは、保有台数の適正化により管理コストを平均20%削減できる効果を確認しているため、ここで捻出した資金をEV導入に充てるという提案が可能です。あわせて、導入時の初期費用を抑えるために、リース契約を提案することもできます。
さらに、当社はREXEV社をはじめとしたさまざまなベンダーと連携し、「SMASカーボンニュートラル・コンソーシアム」という組織を設立。車両・設備の導入や、EV導入後の運用にいたるまで、それぞれの企業がもつ知見やソリューションを「総動員」し、自治体のEV導入効果を最大化するための支援を提供します。その際に我々は、入間市での事例と同様、「コンソーシアム」の参画企業とは別に、地元の企業を巻き込むことにもこだわっています。
地元企業を巻き込み、施策の有効性を高める
―地元の企業を巻き込むのはなぜですか。
地域特有の課題やニーズを熟知している地元企業を巻き込んでこそ、EV導入の効果を最大化するための有効な施策を展開できると考えるからです。たとえば、非常用電源としてEVの配備を増やしていきたいと考えたとき、地域に広く存在する民間企業の協力は欠かせません。そこで当社では、地域に影響力をもつ企業や商工団体などと自治体をつなぐ架け橋となり、EVを活用した防災協定の締結を提案するといった、地域内における事業体づくりをお手伝いしているのです。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
モビリティをめぐる課題解決のプラットフォーマーとして、自治体における持続可能なまちづくりや地域創生の取り組みを支援していきます。たとえば、当社が開発した、公用車の管理をデジタル化するアプリでは、EV導入の有無を問わず職員の業務効率化にも貢献できます。コンソーシアム参画企業との連携のもと、モビリティに関するどのような課題であっても、解決策を提示できる自負があります。ぜひ気軽にご相談ください。
力武 秀行 (りきたけ ひでゆき) プロフィール
昭和37年、福岡県生まれ。昭和61年に慶應義塾大学を卒業後、株式会社住友銀行(現:株式会社三井住友銀行)に入行。平成27年、住友三井オートサービス株式会社に入社。令和3年より現職。関東甲信越営業本部を統括。
参画企業の声
SMASカーボンニュートラル・コンソーシアム
利用に伴う「不安要因」を払拭し、EVの稼働率を高めるべき
株式会社REXEV 代表取締役社長 Co-founder 渡部 健
EVを導入しても、それを使わなければCO2削減は実現しません。しかし実際は、導入したEVを車庫に眠らせてしまう自治体が意外に多いものです。その背景には、充電管理ができていないことや、運転中の充電切れといった不安要因があります。
そこで当社では、そうした不安要因を払拭するシステムを開発・提供しています。当社のシステムは、車両の利用予約と充電管理を一元化している点が特徴です。利用者は、EVを使いたい時間帯をアプリに入力するだけで、利用中に充電が必要になるかどうかを把握できます。充電時も、時間帯や利用距離といった予約状況を考慮しながら、充電のピーク時間を避けて充電するようシステムが自動制御するため、充電管理の手間も低減できます。
当社ではこうした管理システム以外にも、シェアリングサービスの提供において豊富な支援実績があります。今後も、「SMASカーボンニュートラル・コンソーシアム」を通じて、自治体におけるEVの稼働率向上をサポートしていきます。
渡部 健 (わたなべ けん) プロフィール
昭和52年、埼玉県生まれ。平成14年に早稲田大学大学院を修了後、住友商事株式会社に入社。その後、株式会社エナリスを経て、平成31年に株式会社REXEVを設立し、代表取締役社長に就任。
株式会社REXEV
設立 |
平成31年1月 |
資本金 |
1億円 |
従業員数 |
22人(令和5年1月1日現在) |
事業内容 |
企業・自治体向けのEV導入支援およびEV運用システム提供事業など |
URL |
https://rexev.co.jp/ |
住友三井オートサービス株式会社
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