※下記は自治体通信 Vol.59(2024年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
全国の多くの自治体が保有し、日々運用する公用車。移動を伴う業務の遂行に欠かせない資産だが、環境面や財政面といった観点から、保有・運用のあり方に自治体が課題を感じているケースもある。高根沢町(栃木県)もそうした自治体の1つだったが、現在は「管理のデジタル化」を通じ、保有台数の適正化をはじめ、さまざまな成果を得ているという。デジタル化を図った背景や、取り組みの成果を、同町町長の加藤氏に聞いた。
[高根沢町] ■人口:2万8,799人(令和6年6月1日現在) ■世帯数:1万2,982世帯(令和6年6月1日現在) ■予算規模:180億9,411万3,000円(令和6年度当初)■面積:70.87km² ■概要:栃木県のほぼ中央に位置し、県都宇都宮に隣接する。皇室の台所「宮内庁御料牧場」があり、これに象徴されるように、米や麦、大豆、イチゴ、ぶどう、梨などの農産物が数多く生産されている。町の豊かな自然の中で生産された米「高根沢町産とちぎの星」は粒が大きく、甘味があるのが特徴。皇位継承の重要祭祀である令和の大嘗祭に供納されたことでも広く知られている。
「公用車の運用効率化」は、見過ごしてはいけない課題
―高根沢町が「公用車管理のデジタル化」を図った背景には、どのような問題意識があったのでしょうか。
当町では、令和4年5月に行った「ゼロカーボンシティ宣言」を機に、町としても気候変動対策に向けた行動が迫られていたことが背景にあります。その中で、浮上したのがガソリン車である「公用車の運用効率化」という問題でした。当時、町には51台の公用車があり、配分された台数を各担当課が管理していました。しかし、各課での稼働率には大きな差があるように見受けられ、車両の配分やそもそもの保有台数が適切なのか、という疑問がありました。現在、新庁舎建設という大きなプロジェクトを進めている当町としては、環境対策の視点のみならず、経済的なコスト負担の観点からも、見過ごしてはいけない課題との認識があったのです。
―町としてはその後、どのような課題解決を試みたのでしょう。
とはいえ、庁内にはこの問題を適切に解決できるノウハウはありません。そこで、庁外で情報収集を進めていた中で、ある会議に出席した環境課の職員が、住友三井オートサービス(以下、SMAS)が「脱炭素のための公用車の適正化検証」を行うという情報を持ち帰ってきたのです。早速コンタクトをとったところ、この適正車両台数の分析技術を利用できるアプリの無償モニター制度の提案を受け、利用することにしました。
―結果はいかがでしたか。
各車両の稼働状況や運行データをもとに分析した結果、当町の場合は6台の公用車を削減できるという分析結果が得られました。
公用車の削減は、住民への重要なメッセージに
―どのような分析が行われたのでしょう。
無償モニター制度のサービス内容に含まれる車両管理アプリ『Mobility Passport』を通じて得られた公用車の運行データをもとに、SMAS社独自の計算式を用いて算出されるものです。この『Mobility Passport』には、運転日報データを入力する機能があり、この情報を日々の公用車の稼働状況を分析する基礎データとして活用できるのです。これまで紙で運用してきた運転日報の提出・管理の効率化も期待できます。さらに、アプリの予約管理機能を活用すれば、システム上で空き状況が一目で把握できるので、これまで各課単位で運用してきた公用車を全庁規模で効率的に運用管理できるようになるとも聞いています。当初は適正台数の分析が目的でしたが、こうした運用全般の効率化への期待から、令和6年度から『Mobility Passport』の正式導入を決めました。
―正式導入後は、どのような効果が得られていますか。
早速、2台の公用車を削減し、台数適正化に近づけています。公用車削減は、環境負荷低減や経費削減に対する町の取り組み成果を住民にわかりやすく伝えるうえで、効果が大きいと感じています。また、公用車を日常的に利用する職員約160人にIDを付与し、予約管理や運転日報をデジタル化した結果、公用車の管理を担う総務課や利用する各職員の業務負担が大きく軽減されているようです。住民サービスの維持・向上を図るためには、業務のムダを排し、効率性を高めることが必須ですので、これも重要な成果といえます。
所管する総務課からは、アプリ導入に伴う運行状況の「見える化」で、「公用車の空き状況に合わせて業務設計するなど職員の業務面における計画性が高まっている」とのうれしい変化も伝わっています。新庁舎が完成した暁には、これまで分散していた各拠点が集約され、公用車運用はさらに効率化されるはずです。保有台数の適正化をより一層進められれば、削減した経費をEV導入の切り替え原資に充てられるとも考えています。
公用車管理のデジタル化②
職員が実感できる効率化の効果が、公用車運用の現場で相次いでいる
ここまでは、高根沢町における公用車の運用管理のデジタル化の取り組みを紹介した。この取り組みを管轄し、現場での運用を指揮したのが、総務課であった。ここでは、同町総務課の加藤氏に取材。公用車管理アプリの現場における活用状況や、デジタル化が現場にもたらした変化などを聞いた。
公用車の運用効率に対する、職員の意識が高まった
―現場における車両管理アプリの活用状況を聞かせてください。
IDを付与された約160人の職員は、「車両の予約」から乗車前の「アルコールチェック」、運転後の「日報の作成・管理」といった一連の公用車利用の場面で、アプリの機能を活用しています。
―特に効果を感じている機能はありますか。
運転日報のデジタル化は、年2回の定期監査で公用車の使用状況を提出する際の管理者負担を大きく減らしました。紙の日報から電卓で利用距離を合算し、資料にまとめるといった従来の手作業が一切なくなり、アプリ上に集約されたデータをそのまま出力するだけで済むようになりました。また、アルコールチェックはこれまで各課に実施を任せていましたが、アプリ上では国が義務化する8項目のアルコールチェックをすべて記録、管理できるようになりました。コンプライアンスの体制がより強固になっています。そのほか、アプリには運転免許証や車検の期日管理機能も実装されており、有効期限が近づくとアラートが発出されます。過去に車検期限間際の混乱を経験しているので、管理担当者としては安心ですね。
―アプリの運用で、現場はどう変わりましたか。
公用車の運用効率に対する職員の意識が高まったと感じます。当町ではまだ全庁的な車両管理には移行していませんが、アプリ上で車両の空き状況が全庁規模で確認できることで、課の枠を越えて車両を融通し合ったり、利用を調整したりする場面が自然と見られるようになっています。公用車の今後のさらなる効率運用に向けた基盤が整いつつある印象です。
運用フロー全体をデジタル化すれば、多様な車両管理ニーズを叶えられる
これまでに紹介した、高根沢町における公用車管理のデジタル化の取り組み。これを支援してきたのが、車両管理アプリ『Mobility Passport』を提供するSMASである。ここでは、同社の力武氏に、公用車管理のデジタル化をめぐる動向や取り組みのポイントなどを聞いた。
住友三井オートサービス株式会社(SMAS)
関東甲信越営業本部長
力武 秀行りきたけ ひでゆき
昭和37年、福岡県生まれ。昭和61年に慶應義塾大学を卒業後、株式会社住友銀行(現:株式会社三井住友銀行)に入行。平成27年、住友三井オートサービス株式会社に入社。令和5年より現職。関東甲信越営業本部を統括。
―公用車管理に対する自治体の関心はいかがですか。
近年、急速に高まっています。その背景にはおもに2つの要因があるようです。1つは、「コンプライアンスの強化」です。昨今、複数の自治体での「公用車の車検切れ」が取り沙汰されたことに加え、昨年12月には「白ナンバー」の車を一定台数以上使う事業所に対する、アルコール検知器を用いたアルコールチェックが義務化されたことが、現場のコンプライアンス意識を高めています。もう1つは、「経費削減」への要請です。厳しい財政事情のなか、運用効率を高めることで不要な公用車は1台でも削減したいと考える自治体は多いです。そこで当社が提案しているのが、車両管理アプリ『Mobility Passport』です。
―特徴を教えてください。
車両の予約や日報作成、アルコールチェックといった車両運用のワークフローを一貫してデジタル化し、車両管理業務全体を効率化することを基本コンセプトとしています。アプリに蓄積された運行情報は、保有台数の適正化を図る基礎データとして活用できるため、公用車の台数削減に寄与すると同時に、レンタカー手配の機能も実装するなど職員の「移動」を丸ごと管理できる機能を備えています。自治体が抱えるコンプライアンス強化や経費削減といったニーズはもとより、働き方改革にも資する業務負担軽減、車両運用の効率化まで、あらゆるニーズに対応できる、いわばオールインワンの車両管理ツールといえます。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
『Mobility Passport』の導入効果を最大化させるにあたっては、導入後の運用サポートこそが重要であると当社は考えています。そのため、カスタマーサクセス部門の充実を図るとともに、全国38拠点のネットワークを生かし、独自の導入プログラムに基づく長期間にわたる伴走支援によって津々浦々の自治体現場への『Mobility Passport』浸透をお手伝いしていきます。