※下記は自治体通信 Vol.56(2024年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
日々の火災対応にとどまらず、大規模災害の多発化・激甚化により、地域防災の中核を担う消防団の役割がますます重要性を帯びている。そうした背景から、消防団活動を強化する動きが自治体で広がるなか、上田市(長野県)では、消防団向けの専用クラウドシステムを導入し、情報連携の強化を図っている。現役の消防団員が開発したというそのシステムを通じて、消防団活動をどう強化しているのか。同市の担当職員と、実際の現場を指揮する消防団長に話を聞いた。
[上田市] ■人口:15万2,345人(令和6年2月1日現在) ■世帯数:6万9,604世帯(令和6年2月1日現在) ■予算規模:1,241億1,613万5,000円(令和5年度当初)
■面積:552.04km² ■概要:平成18年3月に上田市、丸子町、真田町、武石村が新設合併して誕生した、長野県東部の中核都市。戦国時代に活躍した真田氏発祥の地で、市内には多くの史跡が点在する。りんご、ぶどう、そばなど特産品も豊富。
現場団員が時間を要していた、火災情報の詳細把握
―消防団専用クラウドシステムを導入した経緯を教えてください。
髙畑 火災や自然災害の被害をいかに抑えるかは、地域防災を担う消防団の初動対応がカギを握ります。そのため当市では、たとえば火災発生後、すぐに現場へ向かってもらえるよう、市民向けの「火災発生メール」を全団員1,600人以上に自動配信していました。しかし、個人情報保護等の観点から、配信メールには詳細な住所を記載できないため、各団員が場所の詳細を確認するには、幹部団員からの連絡を待つ必要がありました。
福澤 その一方で、現場を指揮する幹部団員からは、実際に団員が何人集まるのかが予測できず、適切な消火作戦を立てにくいという声があがっていました。周辺分団からの応援団員もいますが、その場合、土地勘がないため消防水利*の場所がわからず、消火活動に手間取るケースもありました。
髙畑 初動対応の迅速化に向けて、一連の情報連携に関する課題を解決するために市が令和5年7月から導入したのが、消防団専用クラウドシステム『コミュたす』です。
―どのようなシステムですか。
髙畑 当市の消防団に所属する、エプソンアヴァシス社の関澤さんが開発したシステムで、各団員が使うLINEを活用して情報を独自にやり取りするものです。たとえば、火災発生時には出動対象の団員へ火災場所の地図情報がLINEに一斉送信されます。地図にはナビ機能もあり、団員の迅速な現場急行を後押しします。また、火災情報を受け取った各団員の「出動手段」を集約する機能があるため、幹部団員は現場にどの分団から何台の車両が出動し、何人の団員が集まるのか即座に把握できます。さらに、火災現場の位置と周辺の消防水利の位置が同じ地図上に表示され、土地勘のない団員でも消火活動を迅速に行えるようになります。
福澤 私たち消防団は、出動ごとに各団員の活動時間を市へ報告しなければなりません。『コミュたす』には、LINEと連携して各自の活動時間を自動集計する機能があり、報告書作成にかかる業務負担の軽減にもつながっています。
*消防水利 : 消火栓や防火水槽など消防用水の供給設備のこと
普段使いのLINE上で操作。「使いやすい」と団員も評価
―今後、システムをどのように活用していきますか。
髙畑 『コミュたす』は、現役消防団員が必要と考えた機能を搭載したシステムです。使い勝手にもこだわり、日常的に利用しているLINEでやり取りできるため、多くの団員が「使いやすい」と高く評価しています。こうしたデジタルの力を活用して、地域防災力の要ともいえる「消防団の機動力」を高めることで、地域の安全安心を確保していきたいと考えています。
消防団の機動力を高めるカギは、「情報の迅速かつ正確な伝達」にあり
関澤 明愛せきざわ あきよし
昭和62年、長野県生まれ。平成22年、エプソンアヴァシス株式会社へ入社。情報機器向けソフト開発を経て消防団向けシステムを開発し、現在、同プロジェクトを推進する。
―関澤さんは現役の消防団員と聞きました。
はい。上田市消防団に所属しています。被雇用者団員の増加で、日中は自宅から遠い場所で働く団員が非常に多いです。そうした状況で消防団活動の初動対応を早めるには、火災や災害の発生場所や消防水利などさまざまな情報を、各団員へいかに迅速かつ正確に伝達できるかがカギだと考えていました。そうした考えのもと、必要となる各種の情報伝達機能を搭載したシステムとして開発したのが、『コミュたす』です。ここには、実際の私の活動経験を踏まえて、特別に搭載した機能もあります。
―どのような機能ですか。
たとえば、団員がLINEから「出動手段」の連絡を入れる際に、「第1積載車」「第2積載車」「自家用車」など、出動予定の消防車両まで指定し、連絡できる機能があります。分団では、複数の消防車両を異なる場所に待機させているケースが多く、消防団員間の出動時の連携が取れないと、車両運用に必要な人員が集まらず出動の遅れにつながることもあります。この機能は、各分団が保有する車両にあわせてカスタマイズができ、現場の視点が反映された機能として喜ばれています。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
『コミュたす』には機動力を高める機能以外に、団員の出動状況や活動時間の自動集計といった機能も搭載しており、事務作業も含めた消防団活動をトータルで支援します。地域防災の強化を図る自治体のみなさんは、ぜひお問い合わせください。