※下記は自治体通信 Vol.58(2024年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
個人情報保護法の改正により、行政機関等が保有する個人情報の適正かつ効果的な活用を謳う「行政機関等匿名加工情報制度* 」の適用範囲が自治体にも広げられ、令和5年4月から運用が開始されている。対象自治体では、新たな業務への対応が迫られるなか、その1つである横浜市(神奈川県)ではこのほど、同制度の活用促進を目的に、対応業務のシステム化に向けた実証実験を行った。そこで、実験の内容や得られた効果などについて、同市の2人の担当者に話を聞いた。
*行政機関等匿名加工情報制度 : 行政機関等の保有する個人情報を、個人を識別できないように加工して民間に提供する仕組み。全自治体が対象になるが、特に都道府県と政令指定都市は、令和5年4月から提案募集が義務化された
[横浜市] ■人口:377万3,050人(令和6年5月1日現在) ■世帯数:181万3,835世帯(令和6年5月1日現在) ■予算規模:3兆8,345億円(令和6年度当初)
■面積:438.01km² ■概要:関東平野の南西部、神奈川県の東部に位置し、北は川崎市、西は大和市・藤沢市・東京都町田市、南は鎌倉市・逗子市・横須賀市に接しており、東は東京湾に面している。市域には、北西部に多摩丘陵、南部に三浦丘陵に連なる丘陵部があり、8つの水系と56の河川が流れている。坂や傾斜地が多く起伏に富んだ複雑な地形となっており、広域的に連続した水・緑環境を有している。
増員がなく新制度が開始。業務の効率化は不可欠 ―横浜市が今回、実証実験を行った背景を教えてください。
川田 当市では、制度運用にあたり、職員の増員がなかったので、効率的に事務処理を行わなければならないという前提がありました。じつは当市では行政の透明性確保を目的に、条例に基づき、「個人情報ファイル簿」と類似の制度がすでにありました。しかし、今回の法改正でファイル簿が匿名加工情報のデータカタログ的な位置づけも有することで、一部事務処理を見直さなければならず、さらに今後の匿名加工情報の利用増加を見据えると、これら関連業務の効率化は不可欠だと感じていました。
小川 また、匿名加工情報を利用申請する事業者などが提出する提案書も問題の1つでした。
―どういうことでしょう。
小川 提案者は、データのどの項目をどのような匿名加工方法で提供してもらいたいかを指定しなければならず、データ加工に精通していなければ提案書の作成は難易度が相当高いのです。そこを簡略化できる仕組みも必要でした。
川田 そうしたなか、日鉄ソリューションズ社から個人情報ファイル簿システム『NSDDDクラウド for Government』というクラウドサービスを開発中との話を聞きました。関連業務の効率的な処理スキームを構築することは、本制度を先行運用する政令指定都市としての役割の1つとも感じていたので、同社と協定を締結したうえで、効果検証のための実証実験を行うことを決めたのです。
「ぜひ活用したい」 ―どのようなシステムですか。
川田 個人情報ファイル簿の公開や匿名加工情報の提案募集における利便性を高めるシステムです。データを保有する各原課がクラウド上で直接ファイル簿を入力でき、エラーチェックなどの編集サポート機能によって入力品質を担保してくれます。入力内容の確認や修正といったやりとりもクラウド上で行え、我々の管理負担も減らせます。ファイル簿の多様な検索機能も備えており、提案者も必要な匿名加工情報を容易に探せます。
小川 また、提案書作成支援機能も実装しており、利用を希望するデータ項目に応じて適切な加工方法の候補が自動で表示されます。プルダウンで選べば提案者は簡単に提案書を作成でき、これをWord形式で出力することもできます。
―システムの評価はいかがですか。
川田 職員と提案者双方にとっての有用性が確認でき、「ぜひ活用したい」と感じました。制度の利用促進の観点から、いずれはデータの活用方法や作成済匿名加工情報のサンプルデータの登載などもできるようになるとよいと開発元に提案しました。今後は、ファイル簿の匿名加工処理機能を実装する計画もあると聞くので、市として力を入れるデータ利活用を後押ししてくれるものと期待しています。
新制度運用に伴う数々の課題には、業務のシステム化が最良の解決策
日鉄ソリューションズ株式会社
ITサービス&エンジニアリング 事業本部 ソリューション企画推進部 データセキュリティマネジメント グループ グループリーダー
大関 晃一 おおぜき こういち
昭和61年、東京都生まれ。平成21年4月、日鉄ソリューションズ株式会社に入社。中央省庁向けのアプリケーション開発などを経て、平成30年より匿名加工コンサルティングや次世代医療基盤法認定事業等の個人情報保護関連業務に従事。
―新制度において自治体はどのような課題を抱えていますか。
行政機関等匿名加工情報制度の一部となる「個人情報ファイル簿の公開」は、すべての自治体が対象であるため、当社では昨年、300以上の自治体にヒアリングを行いました。そこでは、人手不足、そして制度所管課とデータを保有する各部署とのやりとりの煩雑さ、といった共通の課題が浮き彫りになっています。さらに、部署ごとに公開するファイル簿のデータ品質を担保するための制度所管課の管理負担が増していることも課題とされています。これらの課題に対しては、一連の業務をシステム化することが最良の解決策と考えられます。そのため当社では、個人情報ファイル簿システム『NSDDDクラウドfor Government』を開発し、8月からリリースします。
―どのようなシステムですか。
ファイル簿の公開から提案書の作成・受付など、本制度の運用を網羅し、効率化することを目指したシステムです。横浜市をはじめ複数の自治体で実証実験を行った成果を投入し、直感的に扱える操作性や視認性、さらには検索機能による利便性を追求しています。現在は、ファイル簿の公開機能と、オプションの提案書作成支援機能までの提供となっていますが、今後はファイルの匿名加工機能も実装し、新制度に伴う業務を一気通貫でカバーする計画です。行政機関等匿名加工情報制度は将来、すべての自治体が対象になることが予想されています。ぜひ今からシステム化に向けた準備に着手することをおすすめします。